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±0  作者: 日向陽夏
第1章 殺人カリキュラム【前】 処刑斬首編
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第4話 Fランクの怪物⑪

 花子は妖しく微笑みながら、生首プールの中へダイブする。足首が、血に浸かる。大量の生首が転がっており、走ればすぐに転びそうだ。

 「この、この中で闘えと言うのですかっ」

 「…………狂人どもがっ」

 「……行くしかないさ」

 俺たちも続き、プールの中へ入る。足下の生首を蹴飛ばし、足場を作る。恨めしげに大量の生首が、俺たちを見ているような……そんな気がした。

 「リリー、《発狂密室》を」

 透の命令に、即座にリリーは従う。

 「オッケー、透さん」

 《発狂密室》――ハッキョウミッシツ――

 ボゥ。紫色のジェネシスが、プール全体を覆う。花子を殺すまで、ここを出ることは出来ない。

 「行くわよ」

 花子がそう宣言した瞬間。花子の姿が”ブレ”る。残像か!

 「――――ッ」

 「遅い!」

 花子はいつの間にか俺たちの背後にいた。翼を生やし、紫の剣を持ち、そこにいた。その姿は悪鬼。不気味なほどの無表情。殺人に快楽を見いだす殺人鬼ではなく、速攻。素早く殺す。ためらいなく殺す。一瞬で殺す。作業効率のみに一点集中特化した、スピードタイプの殺人鬼。

 「くっ」

 「チィッ!」

 「ッ!」

 「死ね!」

 花子が突っ込んでくるが、セリカがぎりぎりで両手を花子へ向ける。

 《守護聖女》――シュゴセイジョ――

 「フッ」

 花子は鼻で笑いながら、横へ跳躍し、避ける。《守護聖女》を避けるだけではない。回避では終わらない。花子はそのまま器用に身体を回転させながら剣を振るう。回避兼攻撃。飽くまでもこいつは殺戮者。獲物を仕留めるまで回避も防御も手段としてしか取らない。超攻撃型のジェノサイダー。

 目で観察、脳で分析しながら、俺は集中する。

 花子を殺す。その為にどうすべきか? 答えは一つしか無い。

 「先輩!」

 「兄さん!」

 二人は助けを求めるように俺の名を呼ぶ。だが、無理だ。勝てない。勝てる訳が無い。早すぎる。“今の俺”では勝てない。そう、冷えた俺の頭が結論を下す。

 「っ」

 俺は足下の生首をサッカーボールのように蹴り上げ、素早く花子の顔面へ投擲する。花子は顔をしかめて飛んで回避するが、一瞬回避行動に気を取られ動きが鈍った瞬間を俺は見逃さない。

 「死ね!」

 思い切り剣を投げつける。またしても花子はジェネシスで身体を覆い、それをはじく。

 ジェネシスのランク制度を踏まえれば、SSを突破することは極めて困難。

 俺のスカーレットジェネシスの剣から身を守ると、七歩下がり、俺たちから距離を取る。

 「セリカ、例のアレを使う。”今のお前”では誰も殺せない。結、お前は《智者一失》を準備し、花子の攻撃を抑えろ。低ランクでも異能化状態のジェネシスであれば、ある程度は凌げるんだろ?」

 「…………先輩」

 セリカは悲しげに、俺を見つめる。

 「……時間稼ぎはせいぜい15秒が限界。あの女はそれぐらいぶっ飛んだ強さ。赤染先輩の時のようにはいかない」

 「”切り札”とやらは使えるのか?」

 赤染を倒したときに、結はまだ手札を残しているようなことを言っていた。透の下で働いていた過去もあるようだしな。使える手札は全て使う必要がある。そうでなければ、花子は殺せない。

 「使える……けど、その為には――――」

 「ふふ……。全力を尽くしなさい。全てを出し尽くして、振り絞って、それから私に負けなさい。負けるために抗いなさい。ふふ、ふふふふふふ……」

 花子は攻撃してくる様子は無い。余裕の笑みすら浮かべている。その余裕、利用させてもらうぞ?

 「その為には、なんだ?」

 「もう”元の私”には戻れなくなる……。”前の兄さん”が”今の兄さん”になってしまったように……ね」

 「…………」

 意味深な言葉だが、その真偽を改めている余裕は無い。理解出来たことといえば、代償が必要ということだけ。だが、そんなことはもはや些事。勝つ為には何も関係が無い。

 今出来ることをフルスロットルでやるだけだ。花子を、殺す。目指すべき終局地点はその一点。それ以外はノイズでしかない。……集中、しろ。

 「花子を、殺す。その為に手段は選ぶな。必要と判断した場合、死力を尽くせ。お前の判断力に全て委ねる。お前を信頼するぞ、結」

 「……っ」

 俺の目を見て、結が唇を嚙む。それほどまでに冷たい目をしていたらしい。”今の俺”の持つプレッシャーに、動揺しているみたいだ。

 「先輩、また、”アレ”をやるんですね……」

 セリカが苦しげに、目を伏せている。

 「ああ。でなければ、花子には勝てない」

 「…………先輩、一つだけ、約束してください」

 セリカは俺の目を真っ直ぐに見つめ、唇を開く。今の俺の持つプレッシャーに気圧されず、毅然とした態度に俺は息を呑む。そう、これこそがセリカの持つ真の強さだ。

 「……何だ?」

 「今度の日曜日に、私の為にチャーハンを作ってください」

 「…………こんな時に何を言っている」

 「先輩の作るチャーハンが、食べたいです。すっごく美味しいから。初めて食べたとき、感動して泣いちゃいました」

 「……んなもん、いくらでも作ってやる」

 「はい。……必ず、約束ですから」

 「……ああ」

 俺たちは二人、前を見据える。目の前の敵、花子を。

 この女を殺し、未来を掴む!

 《監禁傀儡》――カンキンカイライ――

 セリカのシルクのような柔肌に触れ、その首筋に鎖を巻き付ける。それはどこまでも幻想的な背徳。天使を悪魔が穢す。そんな背徳……。

 俺が俺である為に。セリカは俺に約束させた。

 狂った俺が、元の俺に戻れる為に。

 狂気の異能、ジェネシスを使えば俺は俺でなくなっていく。

 セリカを狂わせ、快楽殺人鬼としてその力を助長させていく。

 チャーハン……か。

 思わず笑いそうになる。そんな小さな約束が、狂気に身を委ねそうになる俺のストッパーになる。なんて、愛おしい……。

 「花子を、倒すぞ。俺たちの、未来の為に」

 「はい、先輩」

 俺は命令を打ち込む。だが、それは今までと少し違う。

 俺の悪がセリカを救い、セリカの善が俺を救う。

 そんなちぐはぐな関係。だが、だからこそ、俺たちは勝つ。

 殺戮という狂気に身を委ねた、怪物に!

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