第4話 Fランクの怪物⑧
「…………」
俺はそんなセリカに違和感を覚える。生首を四つ回収し、それでセリカを救ったのだ。なのに、そのことについて言及が無い。生首四つで自分の命が助けられたこと、その罪深さにセリカは苦しむだろうと、そう思っていた。だが、それでもセリカの破滅に比べれば安いもの。そう、腹を据えていたが……。生首四つで自分の命が救われても、そのことに負い目を抱かない。それほど今のセリカには余裕が無いのか?
「……っ!」
どさりと、急にセリカは四つん這いになって崩れ落ちる。
「っ、おい、大丈夫か!?」
「ごめ、ごめん、なさい。ごめんなさい……」
「……何があった? 言ってみろ」
リリー、あの女……。セリカに何をした?
「うっ、うぅぅ、うぅぅ……っ」
声なき叫びを上げながら、セリカは泣いていた。
「…………」
俺は無言で、セリカを後ろから抱きしめる。
「大丈夫だ、セリカ。大丈夫、大丈夫だ……」
「うっ、うぅっ……見ない、で……。汚い、私を……」
「汚くなんてない。お前は、誰よりも美しい」
「汚い、汚いよ、私は……」
「大丈夫だ、セリカ。お前は、誰よりも美しい」
「そんなこと、ない……。私は結を、呪った……」
「…………」
「結を、呪ってしまった……」
「……呪った、か。まぁ、生きてりゃそういうことの一つや二つ、普通にあるだろ」
「……え?」
セリカが驚いて俺を見る。
「誰も憎まず、誰も恨まず、誰も呪わず。そんな人生、ありえねえだろ。生きてれば殺したいヤツの一人や二人必ず出てくるし、その気持ちを理性で我慢し、隠すのが人間だ。それを恥じることが出来るセリカは、かなり上等な人間だと俺は思う。俺は、自分の悪意を恥じることすらもう忘れちまった人間だからな」
自嘲げに笑う。
「でも、それでも……」
「お前がお前を許さなくても、俺がお前を許す。だから、もう何も言うな」
セリカの頬に手を添え、無理矢理話を打ち切る。
「先輩……」
セリカは切なそうに俺を見つめる。いつの間にかセリカを覆っていた灰色のジェネシスは、ピュアホワイトに戻っていた。
「セリカ……」
俺は吸い込まれるようにセリカの額に自分の額を当て、そっと――――
「盛り上がってるところ悪いんだけど、行かなくていいの?」
頬をひくひくさせながら、「はい笑って!」といきなりカメラを向けられて写真を撮られたような、もの凄く無理矢理作った笑顔を浮かべて結がドアのところに立っていた。この笑顔、この前暇つぶしで見ていたブラック企業の求人で見たことがあるぞ……。
「……お邪魔虫」
セリカが小さな声でボソッと言う。
「……何か言った? セリカ」
結の笑顔が更に歪む。おいおいおいおい……。
「さて、行くか。二人とも、準備はいいか?」
俺は爽やかな笑顔を浮かべ、逃げるように、さっさとドアを抜け透の後を追いかける。
「あっ、ズルい先輩」
「はぁ、まったく。肝心な時いっつも逃げるんだから。……逃がさないけどね」
たまに思うけど。
こえぇよ、結。




