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±0  作者: 日向陽夏
第1章 殺人カリキュラム【前】 処刑斬首編
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第4話 Fランクの怪物⑤

 「零お兄ちゃん、何してるの?」

 「……セリカ」

 小学生三年生の頃。夏休み。俺は自分の部屋で虫を殺そうとしていた。虫かごの中の蝶々の羽根をむしり取り、蠢いているのを見ていた。過去にも何度かやったことがある。何故か、不思議と、生き物を殺すのは妙に興奮し、愉しかった。いけないと思っていても、ついやってしまう。そういう中毒染みた何かが、殺すという行為にはあった。

 「何故ここにいる?」

 「遊びに来た、んだけど……何してるの?」

 セリカは俺の手元の虫かごを覗き込む。

 「見るなよ」

 「……何、してるの?」

 セリカは呆然と俺を見つめる。嫌なところを見られてしまった。

 「…………虫を、殺してたんだ」

 「どうして、そんなことするの?」

 セリカはガラス玉のような綺麗な瞳で、俺を真っ直ぐに見つめる。この目の前では、どんな嘘も詭弁も許されない。

 「殺したい……から、殺す。それだけだよ」

 「どうして?」

 「どうしてって……分からない。ただ、命を殺すのは面白いんだ」

 「じゃあ……私のことも、殺したいって、思う?」

 「は? そんなわけないだろ、そんなわけ……」

 「殺したい命と、殺したくない命があるの?」

 射貫くような真っ直ぐな瞳で、俺を見据えるセリカ。

 いつもグズで泣き虫な筈なのに、時々こういう顔をする。俺は僅かに、そんなセリカに気圧されてしまうことがある。

 「…………」

 「私のことは、殺せない?」

 「当たり前だ……。殺せる訳、ないだろ。冗談でもそんなこと言うな」

 「なら、なんで虫は殺せるの?」

 「それは……どうでもいいからだ。俺にとって、虫なんてどうでもいい」

 「駄目だよ、それは」

 セリカは真っ直ぐに俺を見据える。そのあまりの真っ直ぐさに、やはり気圧されてしまう。だが俺はそれでも、負けたくないと思った。目の前のこの、小さな少女に。

 「……何故、だ?」

 「生きているから、だよ」

 「生きているから……? 理由になるのか?」

 「どんな命も、必死に必死に生きてる。タンポポも、紫陽花も、アリも、ミジンコも、人間も、私も、生きてる。だから、殺すなんて、駄目。そんな悲しいことしたら、悲しいよ」

 セリカは胸に手を当てて、悲しそうに微笑う。

その時から、かもしれない。俺が、セリカに惹かれ始めたのは。

 「…………だが、俺たちはメシを食うだろ。生き物を殺して」

 「うん。でも、それは生きるためだよ。生きるために、殺してる。だから許されるとは言わない。けど、生きるためとは関係が無いことは、やっちゃ駄目だよ。それは、罪だよ」

 「……罪?」

 「桜を見て、春を。向日葵を見て、夏を。金木犀の香りで、秋を。シクラメンを見て、冬を。雨が降って、雪が降って、雷が落ちて、朝が来て昼が来て夜が来て。トンボが飛んで、蛍が光って、蝉が鳴いて、雀が鳴いて。生きてる。私達は、生きてる」

 そう言って、愛おしそうに、優しくセリカは微笑む。

 「だから、もう、そんな悲しいこと、しないで」

 セリカは俺の目を真っ直ぐに見つめながら、ハッキリと願いを口にする。

 「…………っ」

 まるで、呪縛だ。

 俺を縛る呪縛。相容れない、正反対の人間。

 本来なら、関わることすらなく、それで終わる筈の人生なのに。

 それなのに、お前は俺の前に現れた。

 そして、善を強いる。

 善であることを強いる。

 そして、俺は、それに抗えない。

 抗えないのだ……。

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