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±0  作者: 日向陽夏
第1章 殺人カリキュラム【前】 処刑斬首編
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第4話 Fランクの怪物③

 「さぁて、どうでしょうね」

 赤染はせせら笑う。ああ、この顔だ。この顔が、こいつの本性。ペルソナの向こう側。

 「……やはりお前は心理誘導に精通しているな。そう、人に異常に好かれやすい人間というのは、すべからくお前みたいにタチの悪い人間なんだ.。日常生活でアンタがペーシングや自己開示、ピアプレッシャー、カリギュラ効果を頻繁に使っているのは知っている」

 「気遣いが出来る女、と言って欲しいわね」

 「ま、いいさ。俺とアンタは友達でも何でも無い関係だし、敵対も、その逆もない。ただのクラスメートで、3年間を過ごそう。それが一番楽だ」

 「それが一番楽、ね」

 赤染は不満そうに唇を尖らせる。

 「何か問題でも?」

 「あなた、本気を出したことないでしょう?」

 「ないが?」

 「どうして?」

 「出す必要が無いからだ」

 「どうして必要が無いと言い切れるの? 百鬼くんほどの頭脳、機知があれば、どんな人間からも高い評価が受けられるし、生きやすいし、全てを支配できる」

 ――――全てを支配できる。

 そうたやすく言い切れ、そしてそれを口だけではなく現実で実行できる女子高生が、果たしてこの世にどれだけいる?

 「あいにく、俺は普通に生きたいだけなんだ。“高い評価”とやらには、何の興味もない」

 「だから心理誘導の技術をいくらでも使えるのに、使おうとしないの? あなたなら、全てを思うがままにできる。私はそう確信してる」

 珍しく、赤染が真剣な目で俺を見つめる。

 「随分と俺を買っているようだが、俺はテキトーにダラダラ生きることを人生の目標にしている。お前みたいに誰からも好かれ、誰からも期待され、誰からも求められる不自由な生き方は望まない」

 「不自由? 私が?」

 「全てを支配できるとアンタはさっき言ったが、その代償をアンタは分かってない。全てを支配できるってことは、全てに支配されるってことだ。雁字搦めの見えない蜘蛛の糸に絡まれ、操っているつもりが実は衆愚にいいように踊らされる。真の自由ってのは、他人を思い通りに支配することなんかではなく、自分が自由だと思えるかどうかだろう? 支配者ってのは、裏を返せば支配する存在に囚われてる存在ということでしかない」

 「…………百鬼、くん」

 何故か赤染は呆然と言葉を失っている。まるで100%正しいと思っていたコトの全てがまやかしだったと、そう気付かされたような、そんな顔。鳩が豆鉄砲を食ったような……。普段から自分のペースを崩さない赤染のそんな顔が見れて、俺は少し微笑ってしまった。

 「お前は俺を使って何かをさせたいと思っているのだろうが、お断りだ。俺が使われてやっても良いと思う女は、今生で二人しかいない。そして、それ以上増えることもない」

 俺をコントロールできる女は、セリカと結の二人だけだ。それ以外の存在は認めない。

 「…………認めない」

 「は?」

 「私は、あなたを認めない」

 それは全ての人間を肯定し、全ての人間から肯定される赤染アンリから聞く、初めての否定の言葉だった。それは間違いなく俺に向けられていて、けれど俺はそれが少し嬉しかった。

 「そうか。俺もお前を認めない」

 微笑みながら俺も敵対宣言をし、俺たちは今まで“ただのクラスメート”として、今日まで生きてきた。



 「――――あなたを、殺したい」

 赤染の剣の力がどんどんと増していく。

 赤染の真っ直ぐな思いをぶつけられ、困惑する。こんなにハートが熱い女だったろうか? まるで恋に身を焦がす少女のような殺意。常に優秀な赤染は、否定されたことがない。自分が認めた人間が自分を否定したこと、能力があるのに使おうとしないこと、その全てが純粋な敵意となり、俺への殺意へと昇華したのだろうと直感する

 「はぁ……すっごい。なに、これ。すっごく気持ちいい……。百鬼くんを殺せる、そう思っただけで、どうになっちゃいそう……」

 赤染はうっとりと、恍惚に俺を見つめる。殺人狂の資質。それが、赤染アンリの闇。

 あの透が逸材と言ったのも、今なら頷ける。殺人鬼としてなら、将来的にはリリーと同格か、それ以上か。それほどの領域に、もはや赤染アンリは立っている。

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