第4話 Fランクの怪物①
「あと一分しかないってのに……っ」
全身が総毛立つ。
赤染アンリ。生徒会長。Sランクのジェノサイダー。何事もそつなくこなし、どんなときでも完璧主義。そして、俺に対して特別な敵意を持つ女……。
「アンリ先輩、ここは、私の顔に免じて、今だけはどうか退いては頂けませんか?」
結が前に出て、交渉する。そうか、そうだった。結は生徒会書記。赤染とは先輩後輩の関係だ。結が交渉すれば、可能性はゼロではない。
「結、自己主張しないあなたが珍しいわね」
赤染は目を細め、結を見据える。
「緊急事態ですので」
「緊急事態? 何? 屋上に何かあるの?」
「説明してる時間はありません。ですが、どうか……っ」
結は最敬礼で赤染に頭を下げる。
「プライドの高いあなたが、本当にどうしたの?」
何故か愉しそうに、赤染は首を傾げる。その姿に、僅かな違和感を感じる。
「……赤染、何故お前がそこにいる」
「いちゃ悪いかしら?」
「まるで計ったようなタイミングだと思ってな」
それじゃあ《発狂密室》は部分的に解除しておくね。ドアからだけなら、出入りできるようにしておくから。翼で外側からは来られない。出入り口は、一つだけね。
ヤツのセリフを思い出す。出入り口は一つだけ。そして、まるで阻むように立つ赤染アンリ。それがもたらす解答は、ただ一つ。
「お前、リリーと繋がっているな?」
「繋がっているだなんて、人聞きの悪い。私は既にノルマは達成してるの。生首は四つ、プールで提出した。その時、リリーに会って、ついでにチャネリングの方法を教えてもらったの。ここで待っていればいいことがあるって教えてもらっただけ。そっちの事情の深くは知らないかな」
くすくすと、愉しそうに赤染は優雅に笑う。
「チャネリング?」
「電話のようなものよ。意識を通わせた相手と、通話のようなモノができるチカラ。手にジェネシスを集めて耳に当てて、話したい相手を思い浮かべると、それができる。それなりの高等技術みたいだから、全てのジェノサイダーに出来るわけでは無いらしいけど」
「あの女ァァ……」
最初から俺たちを勝たせるつもりなんてなかったんだ。
20分以内に生首を四つ持ってくること。これだけの勝利条件なら、まだ勝ち目はあった。だが、ヤツは俺たちが勝つ確率をゼロにするため、予め周到に仕込んでおいた。赤染アンリという伏兵を。
100%自分が勝利し、俺たちを嘲笑う為に。
……だが、待て。冷静に考えろ。もしリリーが確実に100%勝つつもりなら、赤染アンリではなく、《赤い羊》を置くはずだ。あの悪魔のような女が、人選ミスを犯すはずも無い。なら、考えられる答えは一つ。
飽くまで俺たちが勝利できる確率をギリギリ残した上で、敗北させ絶望させる。
希望がなければ、絶望は成り立たない。
あの女はそういう女だ。人間の精神を陵辱した上で、ギリギリまで狂わせた上で殺す。そういう殺人鬼。人間の精神に精通した、史上最悪の殺人鬼。本物の化け物。そして、リリーと同格の殺人鬼が他に5人いるのだ。いばら姫と骸骨、そして花子に会ったが、あいつらも相当な化け物だった。
だが、それでも。透には及ばない。ソレが何よりも恐ろしい。
リリー達より上の存在がいる。その事実だけで、頭を抱えたくなる。
そうだ、《赤い羊》が相手なら、俺は今この瞬間絶望し、打ちのめされていただろう。だが、赤染アンリなら、勝てる。勝てる可能性は、確かにある。
それがリリーが用意した偽りの希望なのだとしても、確率がゼロでない限り行くしかない。




