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±0  作者: 日向陽夏
第1章 殺人カリキュラム【前】 処刑斬首編
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第3話 生首プール⑰

 「…………ちっ」

 セリカの顔を思い出した瞬間、全身から力が抜ける。殺意も、悪意も、何もかもが不浄なもので、無意味なものだと感じてしまう。あー、だからセリカ。お前は俺にとってどこまでも邪魔な存在で、どこまでも必要な存在なんだ。

 拷問はこれからが本番だったのにな……。少し残念だが、仕方ない。

 「…………ふぅ」

 小さく息を吐く。すると、みるみる内にジェネシスがインディゴへと戻っていく。

 「田森。お前は殺さない。だが、自分のやったことの意味を、せめて死ぬまで考えろ。じゃあな、ムカデ野郎」

 俺は醒めた目で田森を見下ろし、つま先にジェネシスを集め思い切り蹴り飛ばす。

 「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああッッッ!」

サッカーボールのように無様に吹っ飛んだ左腕だけ生えた田森は、プールの中へと落ちていく。もちろん、生きたまま。

「出血多量で死ぬまで大量の生首の中を左手だけで死にかけの虫のように這い回りながら、その死の視線に延々と晒され、発狂しながら死んでいけ。金の奴隷に堕ちた、お前に相応しい末路だ」

 「……戻っちゃったか。つまらないわね」

 花子が残念そうに言うが、俺は真っ直ぐに花子を睨み据える。

 「次はお前だ。もうお前を友とは思わない。この景色を見て、平常であれるお前は、どうしようもないほどに終わってる。けじめを、付けてやる」

 眼下の生首プール。大量の生首が、百万円と交換されるために、プールに沈められているのだ。この光景を作ったヤツを、俺は絶対に許さない。

 ノルマ達成の生きるための殺人。ではなく、金の為だけに、金を得るためだけに殺された死者の生首。それが、大量にあるのだ。それを考えただけで、気が狂いそうになる。人間の欲求、悪意というものは、どこまでも底が無い。底なしの闇だ。こんなものを知ってしまえば、もう普通の人間には戻れない。戻れなくなる。

この光景は、見ているだけで気が狂いそうになる。おかしくなる。戻れなくなる。

「……何故、怒るの? 人間社会の縮図じゃない。強い者が勝ち、弱い者が死ぬ。そんな当たり前の景色。なのに、何故零は憤るの?」

花子は目を丸くして、意外そうに問う。

「さあ、な。わかんねえよ。そんなの。だけど、こんなの、絶対におかしいだろ……。理論とか理屈か、ロジカルとか、そういうんじゃねえよ。これは、駄目だ。あっちゃならない」

俺は冷徹な性格だし、自分を優しいとか、善人だとか、そう思ったことなんて一度もない。

 だが、何故か、涙が出てくる。

 人が人を殺し、その生首を金に換えて喜んでる世界。そんなものを、《赤い羊》は創造しようとしている。確かに弱肉強食は正しい。理論としては正しい。生首プールも、理論としては正しいのだろう。強者が弱者を食う。そんなの自然界でも人間社会でも毎日行われていることだし、それを否定することそれ自体が悪であり、偽善。

 なら、許されていいのか? この、生首プールは。

 強ければ、弱い者を食っていい。なら、生首プールも許されるのか?

 「反論のロジックはない。だがたとえ感情論と言われようとも、俺はお前を否定する」

 真っ直ぐに花子を見据え、俺は宣言する。

 「お前は、俺が、殺す。首を洗って待ってろ。そのプールにお前も沈めてやるよ」

 「……」

 何故か花子は押し黙り、何も言い返しては来なかった。

 「兄さん! 時間!」

 結に急かされ、俺は先程殺した生徒達の生首の一つを拾うと、鞄に入れ屋上へ急いだ。



 「あと一分。あとなんとか間に合いそうだね」

 「ああ!」

 結の言葉に俺は頷く。生首が四つ入ったスポーツバックも持っているし、勝利条件は達成している。時間も問題ない。

 屋上の扉はもうすぐそこだ。この階段を上って、曲がれば、すぐ――――

 だが、ドアは見えなかった。ドアを阻むように、一つの人影があったからだ。

踊り場に立ち、生首を片手で持つ一人の少女が目に入る。

 ぼぉっと、つまらなそうに生首を見据えていた少女は、俺たちにようやく目を向ける。

 「……お前、は」

 「あら、奇遇。さっきぶりね、百鬼くん」

 赤染アンリが、そこにいた。

 「赤染アンリ……」

 「ふふ、丁度暇してたの。さっきのリベンジでも、しようかしら?」

 スカーレットジェネシスが、鮮烈に赤染から迸る。

 「今度こそ殺してあげる」

甘く、妖艶に、赤い魔女が微笑んだ。


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