第3話 生首プール⑤
「…………透さんや花子ちゃんが君を危険視する理由、少し分かった気がする。分かったよ、君の言うとおり、20分ルールは遵守する。ただ、その代わり、20分以内に生首を四つ持って来られなかったら……」
「ええ、その時は私を好きにしてください。その覚悟はできています」
真っ直ぐにリリーを見据え、微塵の揺らぎも無い声で、セリカは断言する。そのセリカのあまりにも真っ直ぐな姿を見て、逆にリリーが動揺している。
――――なんだよ、それ。なに勝手に決めてんだよ。
――――俺に守られているだけのか弱い臆病で優しい少女だった筈なのに。
――――なんで、そんなに強いんだよっ。
「兄さん、セリカに何があったの?」
結が不可解そうに尋ねてくる。
「……俺にも、分からん。ただ一つだけ言えることがある」
「?」
「お前は透の演説を聴いて、渡辺のスナッフビデオを見て、どう思った?」
「どうって……」
「どうこの危機を切り抜けるか、考えなかったか?」
「それは、もちろんそうだけど」
「そうだ。俺たちはあの時、他人を殺す覚悟を決めた。だが、セリカは逆。自分が殺される覚悟を決めたんだ。だから、あんなことが言える。それが、俺たちと、セリカの、決定的な温度差だったんだよ。だから、お前はあの時、あんなにもセリカに怒った」
「っ」
「俺たちと、セリカの強さは真逆なんだ。だから受け入れがたいし、理解出来ない。だが、だからこそ、俺はセリカを守りたい」
「そう、だね。分かってるよ」
諦念染みた笑みを浮かべ、結が呟く。
「セリカ、必ず戻る。だから、何も心配はいらない。ただ俺たちを待っていろ……」
失敗すればセリカは死ぬ。リリーに殺される。それを想像するだけで、気が狂いそうになる。目眩がしそうな程の吐き気に、拳が震える。
――――だが、それでも。それは誰にも悟られてはならない。この恐怖は、弱さは、俺だけのもの。誰にも知られるわけにはいかない……。
「はい。先輩」
セリカと真っ直ぐ目が合う。俺と目が合った瞬間、セリカの目に怯えの色が走るのを俺は見逃さなかった。そう、セリカはセリカだ。ときおり見せる強さも嘘では無いが、本来のセリカはどうにもしようがないほどに脆い。それを俺は知っている。
「気が変わった。電気椅子処刑で、セリカちゃんは殺さない。その代わり、もっと酷い目に遭わせる」
唐突に、リリーが呟くように言う。その目は爛々としていて、どこも映していないが確かに何かを見ている、そんな不気味な瞳だった。その目が、俺たちを射貫く。
「ここまで私をコケにしてくれた以上、絶対にタダでは済まさない。ゲームに負けたら、お前達全員の精神を終わらせてあげる。人間はいつだって死を忌避するけど、死ほど甘っちょろい罰は無いよ。死ぬよりも辛いことなんて世の中には腐るほどあるし、それを無限に思いつき実行できる才能が私にはある。……死に物狂いで、生首を持ってくるんだね。でないと、どうか殺してくださいお願いしますリリーさんって、私に懇願することになる。そんなのは、嫌だよね? 嫌だよねぇ~?」
爛々とした目で、リリーが首を傾げる。化け物が……。どうしたらこんな目ができる? どういう人生を歩めば、こういう目が出来るんだ? 思わず、ゴクリと生唾を飲み込んでしまう。
「生首は、自分で殺したものでなければ駄目なの?」
そんなぶっ壊れたリリーに対して質問を投げかける、結。
「透さんが設定したルールと同じでいいよ。他人が殺したものでも、生首を四つここに持ってこられれば、それでいい」
「分かった。持ってくる」
こくりと、結が頷く。相変わらず冷静さにかけてはずば抜けている。どんな状況、相手だろうと目的と手段、そして結果を結は見失わない。
倫理観と感情はセリカ。ロジックとリアリズムは結。そして、帳尻あわせが俺。
俺たち三人のバランスは、こうして成り立っている。だが一人でも抜ければ、俺たちのバランスは崩れる。俺と結だけで、大丈夫か.……? いや、弱気になっては駄目だ。
「さて、では20分カウントを始めるよ。座って、セリカちゃん」
リリーは不気味な笑みを浮かべ、椅子から立ち上がると、ぽんぽんと椅子を手で叩く。
「…………っ」
セリカは無言で逡巡すると、恐る恐る電気椅子に座す。




