第2話 インモラル・エクスタシス⑳
「…………」
俺は思わず口をつぐんでしまう。確かに、その通りだ。俺はクラスメートを殺そうと思い、セリカに異能で命令し、セリカにクラスメートを殺させた。そして、その死体すら弄ぶ殺人鬼との殺し合いで、もう一度セリカに死体を壊させた。
――――なのに、なんでこんなに冷静なんだ?
「こんな非常事態に何呑気なことを言ってるの、セリカ。兄さんは何一つ間違ったことなんて言ってないでしょう?」
結が醒めたような目でセリカに反論する。
「二人ともおかしい。おかしいよ」
「何がおかしいの? このまま何もしないでいればあいつらに殺されるだけでしょ?」
「だからって、これから話し合う内容って……人を殺して、どうノルマを達成するか。そういう話をしようとしてるんでしょ? おかしい、絶対におかしいって!」
「じゃあどうすればいいの? セリカ。アンタの言う正しいって何? 何をどうすれば正しいわけ? この状況で、正しい選択なんてあり得るの?」
「そ、それは……」
「言えないの? あれだけ否定しておいて、言えないの? だからアンタは偽善――――」
「もういい、やめろ結」
このまま放っておけば決裂は目に見えている。俺は思わず、議論をシャットアウトした。
「何で邪魔するの、兄さん」
結が俺を厳しい目で睨み付けてくる。セリカはうなだれている。
「結を否定するつもりはない。が、セリカを正しいと言うつもりもない」
俺は一度中立であることを強調しながら、会話の主導権を握る。
「俺と結はあまりにも早く適応し過ぎたんだ、この環境に。だから、セリカが追いついていない。人を殺さなければ、自分が殺される。この状況であれば、どんな人間でも正常な思考、判断など出来るわけもない。殺人行為は許されざる罪であり、人間社会から外れた行為だ。それは否定すべきことだし、受け入れてはならない。倫理的にセリカは正しい。が、状況判断的には結が正しい。ノルマを達成しなければ、俺たちは必ず破滅する。それもまた、一つの事実」
「…………それで?」
結が先を促してくる。
「セリカ、一つ訊きたい。あと3人。あと3人殺すこと。お前はそれに、耐えられるか?」
俺は微笑みもせず、睨みもせず、何の感情も無い完全な無表情で、セリカへ問いかける。
「……む、無理、です」
「だがお前の精神状態は予想以上に落ち着いている。俺の《監禁傀儡》を上手く使えば、ノルマ達成も非現実的では無い。やれる、やれるはずだ。お前ならやれる」
「無理、です……。落ち着いているように、見えますか? 私が……」
セリカの声は震えていた。泣き笑いの顔に表情が歪み、頬が引きつったまま涙が目尻から垂れていく。気付けば、身体も震えている。やはり、無理か。心理誘導をして様子を見てみたが、この状態は確かに危うい。




