第2話 インモラル・エクスタシス⑱
《監禁傀儡》――カンキンカイライ――
赤き鎖が安藤を拘束する。命令は下さない。飽くまでも、拘束するだけだ。俺は何もしない。安藤を壊すのは、セリカだ。ルールは、守ってやる。
――――瞬間。
俺たちの身体が白き光り輝く。よし、直撃した。《守護聖女》が確かに命中したのだ。瞬間、ジェネシスも消滅し、俺と安藤から翼が消える。そのまま、頭から地面へ落下していく。まだだ、まだ終わっていない。ここで、確実に殺す。
「セリカ、《聖女抱擁》を俺に撃て」
「はい!」
セリカが俺の方へ飛んできて、受け止めてくれる。そして、優しく抱きしめてくる。か細い腕の中で、僅かな胸の膨らみが揺りかごのように甘い眠気へと誘う。だが、微睡む訳にはいかない。修羅の時間はまだ終わっていない。
《聖女抱擁》――セイジョホウヨウ――
俺の全身を白き光が包み込み、安藤にやられた傷が回復する。
「キルキルキルル」
俺が唱えると、左手に赤き剣が現れる。やはり、思った通りだ。《守護聖女》で無力化されても、《聖女抱擁》で元の状態に戻すことも出来る。これは使える。俺はそっとセリカに剣を手渡す。
「セリカ、そのまま安藤を斬れ。死体が跡形も残らないように、な」
「はい、先輩」
にっこりと嬉しそうにセリカは微笑み、俺から離れると、安藤へ直進する。俺は俺で、ジェネシスを翼へ形態変化させ、浮遊状態に戻る。
「安藤ゾンビ、ジェネシスを発動しろ」
骸骨が命令を下すが、安藤は実行できない。やはり、思った通りだ。できないことはできないのだ。たとえば、太陽を壊せとか、時間を巻き戻せとか、そういった実行不可能な命令は下せないらしい。当たり前のことだが、これは重要な情報だ。
「先輩の為に死んで!」
セリカは頭から落下していく安藤を赤い剣で素早く切りつける。五、六、七。セリカは合計七回安藤を切り裂いた。頭蓋から局部にかけて、肩から足にかけて。ぶつ切りにされた安藤の死体はボトボトと別々に地面に落ちていく。
「俺たちの勝ちだ、骸骨」
俺は高見から骸骨といばら姫を見下ろし、勝利宣言をする。《赤い羊》は恐ろしい存在だが、俺とセリカが本気を出せば対抗はでき――――
「っ!?」
《刹那淫夢》――セツナインム――
いつの間にか俺の眼前に紫色の腕があった。俺は即座に切り捨てようとするが、紫の腕は嘲笑うかのように俺の剣をはじく。そうか、SではSSのジェネシスを突破できない。俺はなんとかジグザグに動き回り、回避に成功する。伸縮可能距離には限界があるのか、俺の眼前でピタリと紫の腕が止まる。……命拾いした、な。
「ちぇ、惜しい」
いばら姫が悪戯っぽく微笑む。
「《刹那淫夢》に触れたが最後、寿命はどんなに長くても15分に短縮できる。捨て駒の強化以外にも、発想を変えればこういう使い方もできる。勘がいいのね、インディゴの坊や」
「卑怯だな、俺はお前達に勝った。それをこんな形でぶっ壊しやがって」
「私は勝負してない。骸骨が勝手にやってることじゃない。私はハナから参加してないわ?」
「まあまあ、いばら姫ちゃん。ここは僕の顔に免じて手を引いてよ。血が騒いだなら、僕が満足させてあげるからさ」
「変な言い方しないで。気持ち悪い。15分以内にゾンビも壊れて実験も失敗したし……興が冷めた。退くわよ」
「はいはい。じゃあ、約束通りこれで失礼するよ、百鬼零くん。戦って思ったが、君はまだ、境界線を越えることに躊躇してるみたいだ。大好きな女の子を自分の手でぶっ壊すことに、迷いがあるんだね。だが、それでは僕らには絶対勝てないよ。越えろよ、一線を。でなければ、透さんや花子ちゃんに玩具にされて殺されるだけだ。次会うときは、今度こそ本気でやろう。お互いに、ね? SSになった君と会えるのを、楽しみにしてるよ……」
骸骨はくすりと微笑み、いばら姫をお姫様抱っこする。




