第2話 インモラル・エクスタシス⑰
「ぎゃうっ!」
安藤の剣が俺の前髪をかすめる。俺は顔を逸らし回避し、ひたすら逃げる。
「そうだ、よく覚えていたね。君自身が戦ったら、このゲームは終わりだ」
骸骨が感心したように言う。飽くまでも、安藤を潰すのはセリカだ。くだらない茶番だが、全力でやらなければ殺される。それだけの話だ。
「せ、先輩!」
動揺も露わにセリカは叫ぶ。良くない精神状態だ。本来のキャパシティを1ミリも引き出せない。メンタリティを修正する必要があるな。
「セリカ、回避に専念する俺を守る必要はない。お前の為すべき事は、安藤に《守護聖女》を確実に当てることだけだ。それだけを考えろ」
「凄まじい冷静さだ。目標達成の為の終局地点を見失わず、自らの感情すらそぎ落とし的確に命令を下す。君は本当に高校生かい? ここまでの人間は、企業や国家の幹部ですらそう見ない。完全に逸脱している……。花子ちゃんが一目置くだけはある」
骸骨が目を細め、悪辣な笑みを浮かべながら賞賛してくる。
「有能な人間が有能なポストに就いているとは限らないわ、骸骨。本当に有能な人間だけが出世できる社会なら、そもそも社会問題なんて最初から起きない。でしょう? 色、金、コネよ。社会はその理で成立している。無能でもいくらでも出世できるの」
「ハハ、これは一本獲られたね。返す言葉もない」
笑ってんじゃねえよ、殺人鬼。
「ヒャヒャヒャ!」
安藤は二刀流。一撃目を避けても、二撃目がある。そして、徐々に攻撃の精度が上がっている。セリカは必死に《守護聖女》を当てるべく安藤へ右手を翳しているが、空中戦での命中は絶望的。
…………これは、まずいな。じり貧だ。代償を払うか。無傷で勝とうと思うから、負ける。
――――それだけの話だ。
「セリカ、俺ごと《守護聖女》を当てろ。これは命令だ」
「え、な、何を言って。そんなことしたら、先輩は跳べなくなっちゃう!」
「このままでは負ける。代償なしに突破は無理だ。やれ。勝利の為に、俺を信じろ」
「…………っ、分かりました」
「タイミングは追って伝える。俺だけを見ていろ、セリカ」
「はいっ!」
セリカの元気の良い返事に、思わず唇がつり上がる。これは、負けられないな。
「シャアアアアッッ!」
安藤が右の剣を振るう。俺はヤツの右手首を掴み、封じる。
「らあああああああああああッ!」
左の剣を振るう。これも、左手首を掴み、封じる。
「ゴオオオオオオオッッ!」
安藤は俺の首筋に牙を立て、思い切り噛みちぎってくる。目眩がするほどの痛みと嫌悪感。そして、血が噴き出す。
「ぐっぅ、おおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!」
あまりの痛みに思わず絶叫してしまう。涙すら出てくる。無様な姿だ、が、ここだ。今、この瞬間こそ、最大の好機。
「先輩ぃぃいい~~ッッ!」
セリカの叫びが聞こえる。ああ、まったく、お前は本当に……可愛い、な。
「……今だ。セリカ、《守護聖女》を撃て」
《守護聖女》――シュゴセイジョ――
間髪入れずに、セリカが《守護聖女》を撃つ。そうだ、それでいい……。
「ぐ、しゅ、シュウウウウウウッッ!」
「っ、クソがァァアアアアアア!」
安藤の歯が俺の骨まで届く。気が狂いそうな痛みに悶絶したくなるが、我慢だ。
「安藤ゾンビ、インディゴ君から離れ、《守護聖女》を避けろ」
骸骨の命令は的確だ。そうだ、この場面ではその命令を下すしかない。だが。
「……させねえ、よ」
俺は不敵に笑い、異能を発動する。




