第2話 インモラル・エクスタシス⑯
《刹那淫夢》――セツナインム――
瞬間。安藤のブルージェネシスの色が、突如としてスカーレットへと変色する。
「指定したジェノサイダーのジェネシスランクを強制的にSまで引き上げる異能。それが私の《刹那淫夢》。ま、これを使ったが最後、対象者は反動で15分以内に死ぬ。けど、ゾンビの場合はどうなるのかしらね。もう一度死ぬのかしら?」
「実験も兼ねて、見届けようじゃないか。死を体験した人形が、もう一度死ぬのかどうか。これは興味深いテーマだ」
「確かにそうね」
骸骨といばら姫はうなずき合っている。やはり《赤い羊》か。思考も会話もキレッキレだ。
そして安藤ゾンビは左手を空へと掲げる。
《双剣遊戯》――ソウケンユウギ――
安藤ゾンビの左手に握られる、スカーレットの剣。右手にも剣を握っているので、完全な二刀流だ。さっきとは比べものにならない。俺と同じ、Sランク。赤染と同じぐらい強いと想定すべきだ。それを、セリカに殺させなければならない。
「ゲゲゲ!」
安藤ゾンビが涎を垂らしながら突進する。セリカも目を見開き、突進する。
《守護聖女》――シュゴセイジョ――
セリカの左手から放たれる、白き光。それは女神像の形をかたどり、安藤へ突進する。
「安藤ゾンビへ命じる。両足にジェネシスを集中し回避せよ」
骸骨が素早く命令を下すと、安藤は即座に命令を実行に移し、ジャンプ。セリカの《守護聖女》を避ける。
「ドールは愚鈍だからね。こうして目に見える範囲にいれば、僕がこうして命令で調整できる。ピュアホワイトのジェネシスは正直、ランク無視ができる脅威のジェネシスだ。最弱にして最強。たとえランクSでも、喰らえば無力化されてしまう。赤染戦は僕も、見ていたからね」
「……厄介だな」
これが傀儡戦。お互いの傀儡の実力だけではなく、命令者の実力も試されるという訳か。
「プギャプギャプギャ!」
安藤が奇声を上げながら四つん這いの体制で、セリカへ空中ダイブしていく。
セリカは剣を構える、が、それは悪手だ。俺は即座に命令を下しセリカの戦闘スタイルを修正する。
「セリカ、剣を地面に刺せ」
「はい、先輩!」
セリカは俺から命令されて嬉しいのか、向日葵のように微笑み、剣を地面に刺す。
空中なら回避行動は取れまい。確実にここで獲る。
「両手を安藤へ構え、《守護聖女》を撃て」
「はい、先輩」
《守護聖女》――シュゴセイジョ――
セリカの右手から放たれる《守護聖女》。
「安藤ゾンビ、剣の片方を女に向かって投げろ」
骸骨は素早く命令を下す。やはり厄介な男だ。
安藤は左の剣を投擲する。剣は《守護聖女》をすり抜け、セリカへ。そう、セリカの《守護聖女》は人間に当たれば最強だが、敵の攻撃を防御できない弱点がある。
「セリカ、地面の剣を抜き、安藤の剣を弾け」
「安藤ゾンビ、ジェネシスを翼へ形態変化させ《守護聖女》を回避しろ」
「セリカ、ジェネシスを翼へ形態変化させ、2メートル浮遊しろ」
命令に暇がない。一瞬の隙、命令ミスが死に直結する。セリカはピュアホワイトのジェネシスで全身を覆うと、翼の形へと変化させる。その姿は、まるで神話の天使のようだ。
「安藤ゾンビ、もう一度《双剣遊戯》を使え」
「セリカ、回避行動に専念しろ。安藤の動きから目を逸らすな」
「安藤ゾンビ、攻撃対象をインディゴ君へ変更する。全力で殺しに行け」
「せ、先輩!」
「動揺するな。セリカ、お前は安藤に《守護聖女》を当てることだけに集中しろ。俺は回避に専念する」
「はい!」
俺は自身のジェネシスを翼へ形態変化させ、上空へ跳躍する。
「ぐぎ、ぐぎぎ」
安藤は焦点の合わない目で俺を見据えている。
哀れだ、とただ思った。友達でもなんでもないし、むしろ嫌いな部類の人間だったが、死体になってなお殺人鬼の奴隷として使い捨てられる安藤。あまりにも、哀れ過ぎる。




