第2話 インモラル・エクスタシス⑬
「何が言いたい」
「花子ちゃんも言ってたっけ。私も昔はインディゴだったって。その気持ち、凄くよく分かる。君に、僕は昔の僕を重ねてる。自らの狂気を飼い慣らすことも、殺し切ることもできず、苦しんでいた青臭いあの頃をね」
「…………」
俺は目を細め、骸骨を見据える。骸骨は苦々しく微笑っていた。
「君がどっちに転ぶのか、見たいのだろうね、きっと。……僕は。そして、できれば“こちら側”に来て欲しいと、そう願っている」
「“こちら側”?」
「人間を辞めた人間のことさ。人が人であるためにはね、絶対に守らなければならない境界線があるんだ。君はそれをやすやすと越えうる素質がある。だが、そうならない素質も、ある。くだらない凡人として死ぬか、全てを食らい尽くす化け物になるのか。だが、僕は期待してるよ。君が“こちら側”に来ることを。だから、ささやかな餞別を贈ろうと思う。クク」
骸骨は愉しそうに嗤うと、そっと少女を地面に降ろす。
「いばら姫ちゃん、ちょっとそこにいて。あと、異能は使っちゃ駄目ね。君のだと普通に死んじゃうから」
「あなたに指図されるいわれはないけど、やるなら手短にね。私はもう、眠いわ。ふぁあ」
そう言って眠そうにいばら姫は欠伸を手で覆い隠す。仕草がどこか優雅だが、透達と一緒にいる時点でこいつも相当イカれてる人種なのだと分かる。油断は出来ない。
「はいはい。じゃあ、さっそく始めようか」
そう言って骸骨は足下に落ちている安藤の生首の髪の毛を「よいしょ」と言って無造作に拾い、吊す。
「僕はSSだ。やろうと思えば、君たちを一瞬で殺すことが出来る。だが、そんなことはしない。だから、あるゲームをしようと思う」
「っ、人の生首を拾いながら、ゲームなんて……よく言えますね」
セリカが信じられないようなものを目の当たりにした悲痛な声で、顔を歪める。
「インディゴ君も、僕と同じ、人形を操るタイプの能力者だ。だからこそ、やってみようよ。死に物狂いの傀儡戦を。きっと、とても面白い。クク、ククク……」
骸骨は同じ人間とは思えない残酷な笑みを浮かべ、骸骨は安藤の生首を地面に落とし、サッカーボールのように踏みつける。
「……ルールはこうだ。僕も人形を用意し、君たちを殺すよう命令を下す。インディゴ君は、ピュアホワイトちゃんに僕の人形を破壊するよう命令し、殺し合わせる。どうだい? お互いの人形の力と、そして命令する力、機転が試される」
骸骨はスゥと目を細め、俺を見据える。断れば、死。こいつは、本気だ。
「キルキルキルル!」
俺は全力で骸骨に向かい突進し、スカーレットジェネシスで凶器化した剣で切りつける、が、骸骨からあふれ出した紫色のジェネシスにはじかれる。
「ジェネシスにはランクがある。パープルはSSだ。SであるスカーレットではSSに傷一つ付けられないよ。言っただろう、僕は君たちを一瞬で殺すことが出来るって」
つまらなそうに俺を見下しながら、骸骨は言う。
「僕の人形を見事打ち負かすことが出来たら、この場を去ろう。どうだい、悪くない提案だと思うが」
「…………クソ、クソクソクソ」
歯ぎしりし、俺は拳を強く握りしめる。
弱い。あまりにも弱過ぎる。何て弱いんだ、俺は……。
選択肢がない。たった一つの道を強いられるこの屈辱。弱者には選ぶ権利すらないのだ。




