第2話 インモラル・エクスタシス⑩
《双剣遊戯》――ソウケンユウギ――
「キルキルキルル」
安藤の左手に、もう一本の剣が現れる。二刀流、か。安藤は馬鹿正直に真っ直ぐ走りながら突っ込んでくる。
「先輩、やっぱり私は彼らのルールに従いたくありません。殺し合うなんて、間違ってる!」
セリカは勝手に俺の前に立ち、両腕を前に突き出す。
「セリカ、馬鹿、お前!」
《守護聖女》――シュゴセイジョ――
セリカから放たれる、女神のような白きオーラの塊が安藤へ突っ込んでいく。
安藤に《守護聖女》が直撃し、安藤の手から剣が消える。だが、それでも安藤は歩みを止めない。
「っ!」
安藤の手が伸びる。間に合わない! 距離的に俺と安藤を挟むようにしてセリカがいる。この距離からでは俺は安藤に何も出来ない。
「偽善者がお前から殺してやる! ジェネシスなんかなくても腕力で絞め殺してやるよ!」
セリカの首筋にその手が届――――
すぐに終わるからねぇぇ、セリカちゃぁぁん。僕がとってもキモチイイこと、してあげるよぉぉ。
安藤の手が、“アイツ”のイメージと重なる。
夏休み。遊びに行った川辺。見知らぬ男。襲われるセリカ。悲鳴。
またか。また思い出させるのか。忌々しい記憶。糞みたいな記憶。
ハハ、ハハハ! 俺が守ってやらなきゃあのまま犯されて殺されてたぞ、セリカ!
そんな破滅するお前も見てみたかったがな! ハハハハハハ!
お前が善でいられるのは、俺の悪のお陰だぞ?
お前が最も嫌悪しているモノに、お前は救われているんだぞ?
滑稽だな! 滑稽だな! 滑稽だな! ハハハハハハ!
《監禁傀儡》――カンキンカイライ――
「白雪セリカに命じる。どんな手段を用いてでも構わない。安藤を処刑しろ! その首を撥ねろ」
一瞬。おぞましい思考が自らの頭をかすめていったのを感じる。と同時に、俺のジェネシスがスカーレットに変わり、俺の唇が三日月型に歪む。
俺の異能。《監禁傀儡》の本質。それは――――
「あ、あああ、ああああああああああああああああああああああッッッ!」
セリカの全身を俺の赤き鎖が覆う。まるで陵辱するように、セリカを鎖で縛り、セリカは狂ったように悲鳴を上げる。
セリカの悲鳴を聞いて、俺は全身の血が高揚していくのを感じる。なんという背徳。セリカの悲鳴、苦悶の顔、なんてカワイイ。カワイイ俺の天使。さあ、もっと壊れろ。
「ッ! なん、だ、これは!」
安藤の拳は俺の赤きジェネシスチェインに触れ、はじかれ、後ろによろめく。
と、同時。
「ころ、し、ます。私は殺します。安藤を殺します、先輩。だから、終わったら褒めて。頭を、撫でて」
セリカの目の焦点が合わなくなっていく。ぼんやりとした目で、安藤を見る。その目はまるで自販機の脇に置いてあるゴミ箱を見るような、そんな無機質な瞳だった。
「ご託はいいから、さっさと殺れ」




