第16話 White≒Clear㉓【透視点】
「キルキルキルル」
接近戦でケリをつけるか。
2周目は一歩も動いていない。いや、動けない。
4周目救出の為に、持ち場を離れられないのだろう。
もともと近接対応は苦手のようだし、付け込むならそこか。
もう一度2周目と位置交換すれば、こちらの勝ちだ。
それは向こうも承知しているはず。死に物狂いで抵抗してくることだろう。
その隙を突く。
「…………」
2周目は投擲の構えを取る。
何を思ったのか、《諸刃之剣》を投げるつもりらしい。
僕の位置をめがけて投擲。
《紆余曲折》――ウヨキョクセツ――
《陣頭指揮》――ジントウシキ――
《速戦即決》――ソクセンソッケツ――
テレキネシスで叩き落とすも、軌道を直線に修正。加速され相殺される。
2周目は即座に《陣頭指揮》を解除し、一瞬で《奈落之底》のゲートを閉じないように能力を再発動している。
なるほど、そう来るか。
2周目の策を把握する。
僕が近づこうとする隙をつく為に、僕が避ける前提で剣の位置を調整。最終的に背後から、遠隔操作して僕を撃つつもりだ。
《陣頭指揮》はあらゆる軌道を自在に曲げる。
だがその為には、囮が必要だ。
《重機関銃》――ジュウキカンジュウ――
思った通り。
2周目は膝を地面につき、マシンガンを両手で僕へ構え、射出。
テレキネシスで弾丸をはじき落とす。
一発一発の威力は高くない。この程度では威嚇にもならない。
囮にしてはお粗末だ。
そして2周目の持つ独特の雰囲気。誰かに似ている。
……?
わずかな違和感を抱く。
本当にこれが策なのか? だとしたら、浅い。
それとも、他に“何か”あるか。
2周目は直情型とは程遠く、戦略を練り、戦術を組み立てるタイプ。
3、4と比較すると異質。僕の影響だけだろうか?
……オメガ、か。
想像するしかないが、情報不足で破滅した1周目から、『運命の環』を調整し、2周目へ繋げる為に情報が必要だ。オメガであれば、その役割を背負える。
2周目が情報を集める為だけの、失敗する前提の捨て駒だとしたら、オメガが自分の色に染めるよう育てた可能性もある。情報を管理する為には、頭脳が必要だ。
2周目。僕と似ているというよりは、僕が育てたオメガの影響を受け、僕と似ているように感じた……というのが正確かもしれないね。
――――だとすれば、これは罠だ。
十中八九、誘われている。
2周目は自ら、接近戦が苦手だという刷り込みを逆手に取り、僕を狙っている……。
ここは退くべき、か。
……白雪セリカには、気を付けろ。
絶対に油断するな。最初から全力で殺しに行くつもりで、対応した方がいい。
ヒキガエルの言葉を思い出す。
流石は僕の至宝。助言は正しかったというわけか。
「……面白い」
ならば、こちらも捨て身で行こう。
今更、お互いに退路などない。
殺し合うことでしか、僕らは共存することができない。
たとえ回数制限が無くとも。何度、時を巻き戻しても。僕と君は殺し合う。そんな気がするよ。
運命の相手といえばロマンチックだが、裏を返せば呪いのようなもの。
永遠に壊し合いながら、誰よりも深くお互いを理解し合う。
そんな、美しく醜い絆。
「乗ってあげよう、君の策に」
2周目の策は読めない。恐らくこのまま接近戦を仕掛ければ、再起不能に近い打撃を受けるのは間違いない。だが胸中にある感情は恐怖ではなく高揚と期待。
何を見せてくれるのか。
そして、どうなろうとも。僕がやることはたった一つ。
――――彼女を、殺すことだ。
シンプルなこの答が、君の策を上回れるかは分からないけどね。
「……」
返ってくるのは言葉ではなく、殺意の視線。
いい目だ。
無駄な思考は一切ない。
さて、行くとしよう。
破滅の予感を噛みしめながら、僕は翼をはためかせ、2周目の元へと飛んで行った。