表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
±0  作者: 日向陽夏
第3章 黒へと至る少女【前】 運命之環編
354/355

第16話 White≒Clear㉒【透視点】

 

 2周目の目はじっと僕を見据えている。

 試しに指先をわずかに動かしてみると、2周目の目尻がぴくりと動いた。

 ミリ単位の動きにも対応するつもりか……。凄まじい集中力。

 正義による殺意の目でもなく、闇を踏み越えていく聖者の目でもない。

 獲物を狩る貪欲な狩猟者の目に似ている。

 ただ、花子とは違い物静かだ。狩猟者にも肉食獣のように追うタイプと、仕掛けて待つ蜘蛛のようなタイプがいるが、2周目は後者だろう。スナイパーのように気配と殺気を静かに抑え、目だけは不気味に僕の命を正確に捉えている。

 2周目の所持能力は未知数。

 2周目の余裕と自信の根源は、徹底した情報統制にある。

 僕を出し抜く最も確実な方法は、所持する情報量で上回り続けること。

 僕が能力を出し惜しむ癖があるように、2周目にもそれがある。

 恐らく……2周目は僕の戦略的思考をトレースして進化した可能性が高い。

 つまり、そこだけに的を絞りこめば、2周目の行動を“読める”かもしれない。

 そこが隙になる……か?

 盤面としては、ほぼ王手に近い状況。

 本来なら投了してもおかしくない場面。

 だが、まだ“とっておき”はある。

 その切り札が自分自身の馬力ではないというのが、情けない話だが。

 認めざるをえまい。

 シラユキセリカは、現時点においてすら、この僕を凌駕しているのだと……。


 2周目がタクトを横一文字に振るう。


 《陣頭指揮》――ジントウシキ――


「指定、刃銃」


 《紆余曲折》――ウヨキョクセツ――


 咄嗟にテレキネシスを発動。

 レーザーを空間で受け止める……が。

 殺気が薄い。“本命”は別か?

 何より本命ではない根拠として確実なのは、シグマの軌道を描かず、真っすぐに僕へとレーザーが向かってきていること。

 だとしたら、どこにその本命は――――


「……っ!?」


 ふいに、僕が生成した黒い球が動いた。僕の意図しない動きで、僕に近づいてくる。

 かつて4周目に言った言葉を思い出す。


 《紆余曲折》を使うのが日常化すると、空間に異物があれば感覚で分かるさ。君は使い慣れていないから、その領域に達していないが……。


 ――――異物しか感知できないなら、異物ではない形で攻撃を紛れ込ませればいい。


 つまりは、僕が生成した黒い球を乗っ取ればいい。

 2周目がニヤりと唇を歪める。

 罠にかかった獲物を嘲笑する狩猟者の顔。


 《右往左往》――ウオウサオウ――


 思考よりも早く、直感に切り替える。

 咄嗟に玉と位置を交換し、そして――――


 《虎視眈々》――コシタンタン――


 黒い球が破裂、いや爆発する。


 《前途多難》――ゼントタナン――


 盾の能力を発動。かろうじて致命傷は避ける、が。


 囮と見せかけて本命、か。

 爆発に気を取られた一瞬のスキを突かれ、レーザーが僕を射抜く。

 やはり2周目は僕とタイプが似ている……。


「《前途多難》封印。相殺指定、《遺志継承》」


 《聖女抱擁》――セイジョホウヨウ――


 僕に何もさせないなどという宣言を、本気で実現するつもりらしい。


 ――――残存能力は7つ。


 奈落之底

 紆余曲折

 審判之剣

 右往左往

 閉鎖空間

 冥府魔道

 救世之盾


 正直、心もとない。

 2周目にはまだかなりの余裕があると見ていい。

 戦術を変える、か。


 《冥府魔道》解除。


 漆黒の結界能力を解く。

 これでジェットブラックジェネシスを無限にする効果は消滅する。

 視界が晴れ、世界に色が戻っていく。


「……っ」


 2周目が僅かに顔を歪めるのを僕は見逃さなかった。

 そう、この能力ではジェットブラックジェネシスの2周目にもジェネシスが供給されてしまう。花子と僕も弱体化されてしまうデメリットもあるが、ジェネシスの総量で勝負するのであれば、まだこちらに分があるのではないだろうか。

 所持能力というリソースでは僕が不利。

 だが、ジェネシスの総量というリソースであれば、その限りではない。

 能力数ではなく、ジェネシス総量の消耗戦に持ち込むほかない。我ながら無様ではあるが、シラユキセリカ相手ならば仕方ない。彼女からもたらされる苦痛は屈辱ではなく、誇りに思うべきだ。


 確信までは持てないが、2周目は僕と違いジェネシスをフルスロットルで発動し続けている。枯渇まで持ち込めれば、討てる。


 ――――ただでは済まさない。シラユキセリカ。


 たとえお前の命に届かずとも、お前から臓器の一つか二つかは、貰っていくぞ……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ