第16話 White≒Clear㉑【透視点】
だが、問題ない。
ゲートさえ閉じれば――――
《陣頭指揮》――ジントウシキ――
2周目がタクトを振るう。
ゲートが閉じられない。
見えない力によって、阻まれる。
……まさか。
《陣頭指揮》。軌道を操る能力。
僕がゲートを閉ざそうとする軌道を反発させているのか?
思っていたより、ずっと厄介だ。
4周目を殺す為に、その前に2周目を消さねばならない。
いや、待て。そもそも4周目にはアンカーが無い。ゲートが閉じられずとも、落ちていけば上がってこられない。どちらにせよ、終わりだ。
《色即是空》――シキソクゼクウ――
カキンと音がし、僕を斬った《諸刃之剣》が実体化し、『第三の腕』で剣を地面を突き刺す。
あの攻撃は、攻防一体だったのか。
アンカー代わりに、剣を地上に突き刺すため。
むしろそちらが本命。
僕に回避行動を取らせることで後手に回し、妨害をさせない意図。アンカーを確実に地上に突き刺す為の行動。
あの一撃は当てられずとも、意味があったということ。
――――手ごわい。
短い間だが、明らかに4周目の進化速度が異常だ。
戦闘感覚は、もはや花子と遜色ない。
不本意だが、僕が育ててしまったという要因も大きいか……。
《二人三脚》――ニニンサンキャク――
2周目の『第三の腕』が伸び、4周目の『第三の腕』が鎖の手錠によって繋がれる。
2周目の『第三の腕』が、4周目の『第三の腕』を鎖で引っ張り、地上に引き戻そうとする。
……なるほど、そう来るか。
《紆余曲折》――ウヨキョクセツ――
テレキネシスで腕をねじ切ろうとするが、
《色即是空》――シキソクゼクウ――
《色即是空》――シキソクゼクウ――
斬れない。とてつもない強度。
4周目の能力を借りる形で、2周目がジェネシスで生成された『第三の腕』それぞれを実体化したということか……。
《諸刃之剣》――モロハノツルギ――
《五大神器》――ゴダイジンキ――
「指定、刃銃」
2周目は4周目の能力を使いこなし、自分の能力と組み合わせて発動してくる。
4周目の救助と僕への攻撃を同時に行っている。
周囲にもまんべんなく目を配り、僕の奇襲にも最新の注意を払っている。
それにしても、ここまでとは。
2周目は恐らく、僕と4周目の《二人三脚》戦を観察に徹したのかもしれない。僕の底を見定め、4周目の力を戦力として把握する為に。
先ほどまでとは明らかに動きが違う。
4周目を前に押し出すのではなく、4周目と能力を組み合わせて連携する盤石な態勢。
4周目はシラユキセリカ総体としての心臓部。それを見殺しにするリスクを負って、戦局を掌握した。中途半端に高速で殺しあう僕らに割り込むより、観察に徹した方が、最終的な勝率が高いとシビアな判断を下したということ。
剣の先端、蛇の銃口からレーザーが放たれる。
あれを食らえば、また能力を一つ封印される。忌々しいね。
――――マズいな、これは。
今のところ、防戦一方だ。
戦局と能力の運用が、格段に上手い。
《陣頭指揮》――ジントウシキ――
何よりも脅威なのは、2周目の弾丸は不規則に“曲がる”ということ。
レーザーはシグマの軌道を描くように、ジグザグに空間を疾駆し、僕めがけて直進してくる。
だが、目で追える速度ではある。
これなら《紆余曲折》で威力を殺しつつ、フェイクを織り交ぜながら《右往左往》で対処可能。問題な――――
《速戦即決》――ソクセンソッケツ――
前触れなく、急にレーザーが加速。
かろうじて目で終えていたはずのその光は、いつの間にか僕を貫き、シグマの鼓動を描いて虚空へと消えていった。
「《多重展開》封印。相殺指定、《五里霧中》」
2周目は銃口から噴き出す硝煙を、そっと唇で吹く。
僕以上に、4周目の能力を使いこなしている。
《聖女抱擁》――セイジョホウヨウ――
全身から流れ出る血も、一瞬で治癒される。
「ここからはもう、あなたには“何も”させません。終わりです」
死刑宣告を告げる刑務官のように、2周目は冷たい目で微笑した。
能力メモ:《五里霧中》の効果。ジェネシスを霧状にし、敵の目をくらます能力。2周目の所持能力。自分の射線も通らなくなるので、撤退専用の能力。2周目の弱さの象徴で、自分でも自覚しているからこそ真っ先に消耗能力として選択した。お披露目の機会無し。