第16話 White≒Clear⑳【透視点】
確かな手応え。
花子に動揺した一瞬の隙を付けたのは僥倖だった。
《色即是空》の能力のポテンシャルは計り知れない。
4周目が“完成”すれば、間違いなく僕を超える存在に成る。
僕を超える存在の育成。それは悲願ではあったが、シラユキセリカのような存在ではないことだけは確かだ。
今、ここで、確実に……殺しておく必要がある。
僕が彼女を殺して“後悔”することはない。
仮に僕にプラマイゼロ地点があったと仮定したところで、どうせその時にならなければならない。
また同じことの繰り返しになるか、ならないか。
それはこの時点で思考することそのものが無駄でしかない。
何度繰り返されたところで、無限に彼女を殺し続けるという道もあるのだから。
選択肢に囚われてはいけない。
僕にとって邪魔な者をひたすら殺し続けることこそが、僕が歩む道だ。
《紆余曲折》でシラユキセリカを抑え込みながら、《奈落之底》へ沈めていく。
あとは入口を閉じれば、“終わり”。
出口は僕が構築しない限り、無い。つまり二度と出られない。
この能力で彼女を殺すことはできないが、確実に発狂させることができる。
花子のようになるか、それとも完全に自我が崩壊するかは定かではないが、出口さえ作らなければ二度とこの世界に現れることも無い。
この能力は異なる世界を繋ぐゲートを構築する。
焦熱地獄と呼ばれる世界へと繋がっている。
つまり無効化もクソも無い。
無効化能力と言えど、実際に存在する世界を消すことはできないからだ。
《奈落之底》に呑まれたら最後、僕が能力を発動し、出口を構築しなければ出られない。
つまり僕を殺してもチェックメイト。
出口を構築する手段が失われ、永久に身体を焼かれ続ける。
1周目に交代した場合のみ、どうなるかは未知数だが、4周目が壊れればGランクへの道も潰える。事実上、彼女の敗北が決定する。
――――この世界以外にも、世界はある。この答えで満足か? 小僧。
シラユキセリカの影響で、僕は人間に近づいている。
失った記憶はついに戻らなかったが、記憶を失う前に僕はジェネシスに質問し、答えを得た。この世界以外の世界に焦がれ、僕はその世界を繋ぐ門を欲した。
地獄へと繋がる架け橋を。それを作る能力を。
意外とあっけないものだったが、なんとか辛勝と言ったところか……。
「!?」
ゲートから淡い、白き光が零れる。
なんだ、あれは……?
一瞬それが『第三の腕』だと気付くのに遅れる。
手に握られるのは《諸刃之剣》。
獅子奮迅の如き勢いと速度で、十字架の剣が僕を切り刻まんと回転する。
この状況で、防御を捨ててまさかの攻撃。
普通の人間なら、恐怖や苦痛に防衛本能に徹するところ。
「――――やはり狂っているね、君は」
独り言が、音として響く。同時に世界に音が戻る。
《音信不通》が切れたか。広範囲で、効果もかなり強力だが、どうやら数秒程度の効果しかないらしい。
だがあらゆる音源が遮断されれば、戦闘感覚は鈍る。
《右往左往》――ウオウサオウ――
だが、甘い。
僕は少ない可能性でも、シラユキセリカの反撃を予測し、位置交換できるよう備えていた。
手近な黒い玉と位置を入れ替え、その一撃を回避――――
《陣頭指揮》――ジントウシキ――
空ぶった一撃は蛇のようにうねり、僕への位置を修正し、貫く。
これは、軌道を曲げる能力……!
「《空中分解》封印。相殺指定、《守護聖盾》」
シラユキセリカの声が響く。
「ちっ……」
回避を予測されていた。
回避後の位置を予測。攻撃の方向を修正され、食らったか……。
ゆらり、と何かが立ち上がる。
《奈落之底》を背後に、その女は僕を真っすぐに見据えた。
「そういえば、まだお前がいたか」
「二度も恥をかかせてくれたお礼の仕方を、考えていましたよ。透さん」
慇懃無礼な口調だが、隠しきれない凄まじい怒気。
殺意で迸るジェットブラックジェネシスが鮮烈に揺らめき、その女は僕を睨み微笑する。
――――2周目。