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±0  作者: 日向陽夏
第3章 黒へと至る少女【前】 運命之環編
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第16話 White≒Clear⑯【白雪セリカ(4周目)視点】

 

 バキ、という刃が割れる音。


 私の握る《審判之剣》が透が操る《諸刃之剣》の刀身の勢いに耐えきれなくなってきている。この一撃を耐えきれなければ、私のGランクプランは潰える。

 私と透のジェネシスは拮抗していたわけではなかった。透がそう、私に誤認させていただけ。ここぞという時に私の誤認を利用し、突破する切り札にする為に。

 この男はいつもそう。能力以外のカードをいくつも隠そうとする。過去の私達に自分の能力の全てを見せなかったこともそう。誰にも心を開かず、誰にも何も明かさない。そのくせ他人の深層心理には土足で踏み込んで操ろうとしてくる。嫌な男だ。そして怪物……。

 透。覚悟はしていた。どれだけ食らいついても、この男はなお私の上を行く。

 《審判之剣》が、粉々に砕け散る。

 透の全力のジェネシスを、受け止めきれなかったのだ。

 目前に迫るのは、黒。

 《審判之剣》を再発動しても、既に突破された状態では、受け止めきれない。間に合わない。

 いつもの絶望だ。

 慣れ親しんだ絶望の味はしかし、私の頭をやけに冷静にさせるだけだった。

 《諸刃之剣》から迸る漆黒のジェネシスの禍々しさは、かつてのマザーを彷彿とさせる。


 ――――私を倒した褒美に、一つだけ良いことを教えて差し上げましょう。ジェネシスを消耗する量が多いもの、代償がある異能力は他とは違う特別な異能力です。単純な効果しかないことはまずあり得ない。あなたがGランクを目指すのであれば、その力を使う他、道は無いと思います。


 マザーの遺言。

 あの時はピンと来なかった。

 けど、今なら分かる。


 Gランクに必要なのは、“この能力”だ。これしかない。


 すり抜ける物を、すり抜けなくする能力。

 ではない。

 この能力の本質。それは――――


 《色即是空》――シキソクゼクウ――


 《審判之剣》は再びこの世界に具現化する。

 私はぼんやりと光りながら実像をこの世に結び始めるそれを、掴みながら再び切り伏せる。


 耳をつんざく剣戟の音とともに、透の《諸刃之剣》を受け止める。止め切った。


「とうとう、自分自身の“本質”に気付いたようだね、シラユキセリカ」


「……私のこの能力。《色即是空》は……」


 私と、透の言葉が重なる。


「「――――存在を確定させる能力」」


 震えそうになる。

 私は既に、Gランクへの切符を掴んでいたのだ。


「あやふやなイメージを、現実に固定し、定着させ、強制的に世界に存在させる能力」


 存在させる。


 独特な言い回しだけど、言い得て妙だ。透らしい、表現……。


 すり抜けるというのは、イメージだった。

 すり抜けなくさせるというのは、現実への固定化。


 《色即是空》の本当の力とは、“無い”を“在る”に変える能力。


 ……私はこの能力を、使いこなせていなかった。


「お前の曖昧なGランクなどという夢幻を、手探りの状態でそれでもなお渇望し、足掻く為の能力。答えが見つからなくてもイメージさえつかめれば、実現可能。それがお前の希望という名の欲望。その為の能力。《色即是空》」


「この能力があれば……」


 ――――Gランクを現実に存在させることが、可能となる。


「……でも」


 それだけじゃ不完全だ。

 Gランクの答えではなく、Gランクになる為の過程が分かっただけ。

 3周目も、2周目も、結も、《色即是空》の本質には気付いていた筈。

 それでも敢えて情報を伏せて透にぶつけたのは、この答えだけでは“足りない”から。


 透なら、知っているのだろうか。この答えの続きを。


 今度はこっちの番。

 この攻撃には、かつてない程の自信があった。過信ではなく、透を取れるという確たる手応え。見破られてなお、この攻撃を全て避けることは不可避。


 私はいくつかは躱される前提で、三つの弾丸を不規則に透の方へ走らせた。

 全てがフェイクで、全てが本命の3撃。


 《聖女抱擁》――セイジョホウヨウ――

 《多重展開》――タジュウテンカイ――

 《紆余曲折》――ウヨキョクセツ――


 しかし、あろうことか。

 不可解にも上方向に《聖女抱擁》を透は発動。

 直後、《聖女抱擁》は何かに操られるように透のいる下方へ向かっていく。

 透は回避動作を一切取ることなく、位置交換すらせず、全ての弾丸にその身体を貫かれた。

 あた……った?


「…………?」


 あまりにもあっけない。拍子抜けにも程がある。

 不可解過ぎる透の行動を凝視することしかできない。

 けど、透がこれで終わるわけが無かった。


 時間差で、透の身体に《聖女抱擁》が入り込み、身体が完全再生する。


 やられた。

 私の回復の能力を使い、ジェネシスを取り戻した。

 自分が能力を失う前提で、タイムラグを作る為にテレキネシスを発動したのだ。

 ジェネシスを失う直前で発動し、《聖女抱擁》の向きを修正し、弾丸を食らった後、《聖女抱擁》を受けることでジェネシスを取り戻した。

 この一瞬で、なんて機転。緻密で大胆に、洗練されたプロセス。

 私の能力と、自分の能力を組み合わせて、敢えて全弾命中を受けて立つなんて……狂ってる。この男は、私が致命傷を与えて即死させないことも計算している。


「……化け物」


「お互いにね」


 私のジト目を真顔で受け流し、透が空へ浮かんでいくと同時に。

 スローモーションの世界が終わり、私達を繋ぐ《二人三脚》の鎖が弾けた。

 2周目が能力を解除したのだろう。


 この攻撃で仕留めきれなかった……っ。

 忸怩たる思いに、唇を噛む。

 だが意外にも、透も私と似たような表情をしていた。


「いい加減、そろそろ死ねよ。化け物が。君のせいで、白は僕の嫌いな色になった」


「……透のトラウマになれるなんて、光栄だね」


 私達はジェネシスを熱く巻き散らしながら、静かに睨み合った。


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