第16話 White≒Clear⑮【白雪セリカ(4周目)視点】
「……っ」
「……」
銃弾が、拮抗する。
二度目の綱引き。
私のテレキネシスと、透のテレキネシスは互角。実力は拮抗している。
だが、問題はこの後。
透の射程範囲内に入れば、弾丸と透の位置を入れ替えられる。
その瞬間に《二人三脚》の効果も切れ、私はテレキネシスを使えなくなる。
透がどう対応してくるか、それを読む。
掌握する、この手で。透のあらゆる全てを。
今まで透が私にやってきたように、それを今度は私がやるだけだ。
気が高ぶっているのか、やけに心臓の早鐘の音がうるさい。
沈める為に、呼吸を深くしながら集中を高めていく。
透の視線は私から離れ、弾丸に意識が向いている。
――――今しかない。
《多重展開》――タジュウテンカイ――
一つの能力を同時に発動可能にする、透の能力を発動。
《審判之剣》――シンパンノツルギ――
第三の腕を背中から生やし、剣を握る。透からは見えない位置、角度。
これで私は前方に剣、後方にもう一つの剣を隠している形だ。
「指定、刃銃」
透に聞こえないよう、飽くまでも小声で。
透から見えない、本命の一撃の準備。
「もう一発!」
あざとかっただろうか。少しだけ懸念が過るも、銃声を誤魔化すために、本命の一撃の銃声は“紛れ込ませる”必要がある。
叫びつつ、前方の銃と同時に“後方の銃”を撃つ。
これで銃声は一つ。
本命には気付かせない。
透が位置交換した瞬間に、本命で仕留める。
《多重展開》――タジュウテンカイ――
《紆余曲折》――ウヨキョクセツ――
ダミーの2発目と、本命の3発目をそれぞれテレキネシスで操りながら透の元へ飛ばす。
遮二無二の必死な精神状態ではなく、どこか不思議と落ち着いている。
変な感じだ。
ずっと透を見てきたから、透の能力をどう使えば良いのかが分かる。
私の能力で透に追い詰められ、透の能力で透を追い詰めている。
こんなに理解し合っているのに、お互いを否定し合う為だけに私たちは存在している。
だけど不思議と、虚しさは湧き上がらない。
透は私がいたから人間に近づけたし、私は透がいたからここまでこられた。
その事実以外に、悲観は必要ない。
父であり、兄であり、師であり、そして唯一無二の敵だった。
私の、最悪の半身。
ニヤりと、透が意味深に微笑う。
「3発の弾丸による包囲網……。まるで僕のようなことをするようになったね、シラユキセリカ」
「……」
見抜かれた……の?
「《紆余曲折》を使うのが日常化すると、空間に異物があれば感覚で分かるさ。君は使い慣れていないから、その領域に達していないが……。これほど容赦ない手を打ってくるとはね」
「……位置交換をどのタイミングで、どの弾丸に使ったところで、その瞬間があなたの詰みだよ。位置交換後に肉眼で目視できない、テレキネシスで加速する弾丸に対応することはあなたでも不可能なはず」
「ああ。だから、僕も君の真似をしようと思う。受け取れ、シラユキセリカ。これが僕の全力だ」
透は両手を私の方へ向ける。
「――――っ!?」
正面から受け止めていた《審判之剣》の、私を斬ろうとする力が徐々に増していく。
テレキネシス……の威力が……上がっている?
「まだ……力を……隠して……っ」
「全力の出し方を久しく忘れていただけさ。君と出会うまでね。人間は若さを失うと、全力を出し渋るようになる。覚えておくといい」
あろうことか。
透は防御も回避も捨て、私に一撃を入れることだけにジェネシスを解放してきた。
これを押さえられなければ、私は《諸刃之剣》を封印され、透との戦いの意味が消える。
「小細工はもういい。この一撃、突破してみろ。シラユキセリカ。お前の器が僕を超えるのか、証明してみせろ」
透の目は、いつもの冷徹な、睥睨するような威圧的なものではなく、手のかかる生徒に教鞭を振るおうとする、教師の眼差しに少しだけ似ていた。