第16話 White≒Clear⑭【白雪セリカ(4周目)視点】
《紆余曲折》――ウヨキョクセツ――
受け止めた《諸刃之剣》の力が、増していく。
テレキネシスか。
剣を受けながら、頭をフル回転させる。
能力シェアのアドバンテージを私は全く活かせていない。
こちらは能力を見せすぎたし、透は力を隠し続けたのが弊害になっている。
私達の時間感覚は加速している。2周目の援護は期待できない。
透の《色即是空》の運用方法は想像を絶していた。
でも、飽くまでも私の能力。
透から学習できた時点で、それが私の糧となる。
天啓とでもいうべきか、ある策が閃く。この戦闘感覚も透と戦い続けてきた恩恵か、呪いか。
何でもいい。
――――透を食らい尽くし、”その先”に私は行く。
《五大神器》――ゴダイジンキ――
「指定、羽弾」
前方、後方、辺りかまわず撃ち尽くす。
2周目に着弾するリスクもあったけれど、2周目は床に伏せているはず。
下を避け、中、上空を意識して小さなシャボン玉を割り尽くす。
シャボン玉との位置を入れ替えさせない。
鉄球の動きは相変わらず鈍い。この速度なら、透との位置交換は間に合わない。いける。
「指定、刃銃」
皮肉なことだ。
テストを除き。実践発投入での『刃銃』がまさか透の《審判之剣》とは……。
私と透はお互いにお互いを食らいながら、命を削りながら、破滅しながら前へ進んでいる。
小さな頃。セックスという行為を知ってから。その対義語って何だろうと思ったことがある。
あの時、ついに答えは出なかったけど、恐らくは、これがそうなんだろうと直感する。
私と、透の、この歪な相互依存こそが……きっと。
ジェネシスの蛇が、《審判之剣》に巻き付く。
でも、《諸刃之剣》の刀身を受けているせいで、蛇の口が空を向いている。
この状態で撃っても当たることは無い。でも、今の私には……。
《紆余曲折》――ウヨキョクセツ――
テレキネシスの能力。
これを使えば、弾道を曲げることが……できる!
私との位置を交換されたとしても、この状態なら《諸刃之剣》を透は受けることになる。
透をダブルバインドに、間一髪で嵌めることができた。
攻防一体。この一撃は、重い。
不意打ちで翻弄できると思ったのか、そうはさせない。
罠にかかったのはそっちだ。追い詰めるのは私。
《空中分解》されたとしても、《色即是空》で無効化できることは透が私に学習させてしまった。この一撃、必ず決めてみせる……。
《審判之剣》の『刃銃』が当たれば、透は一瞬無能力者になる。
その瞬間、《五大神器》で急所を外したつつ透の身体を再起不能にし、気絶させ、全能力を封印。《聖女抱擁》で治癒すれば、死ぬことも無い。奇しくも、これは起死回生の一手だった。
「ちっ……」
いつも涼しい顔をしている透にしては珍しく、不快げに眉を顰め、私が撃った弾丸に鋭く視線の向けていた。透も流石に気付いたのだろうか、この状況がいかに”マズイ”かを。
「足掻くね、シラユキセリカ」
《多重展開》――タジュウテンカイ――
《紆余曲折》――ウヨキョクセツ――
透は弾丸をテレキネシスで受け止めようとするが、私のテレキネシスは止まらない。
さっきは初見で使いこなせなかったせいで、透に綱引きで負けたけど、負けたことで分かったことがある。
それは、空間全てを自分の五感の範囲に収め、掴み、捻り、押すイメージが必要だということ。
何かを浮かせたり、操ろうというイメージでは駄目。
透は明確に、あの時剣を掴み、押していた。
なら私は、弾丸を掴みながら捻り続ける。
あとは、ジェネシスで押し切る。
単純なジェネシスとジェネシスの総力戦。
今まで何度もぶつかり合って、私と透のジェネシスの質量はほぼ互角。
そして時間をかけ過ぎれば、加速の能力が切れ、2周目の援護が透を追い詰めることになる。
「足掻かない人生なんて、嘘だよ」
倒すべき相手。必ず仕留めると決めた敵。
私は剣越しに、じっと透を見据えて、そう宣告した。