第16話 White≒Clear⑦【白雪セリカ(4周目)視点】
(無理してない?)
(大丈夫。2周目は防御を。私が攻撃を担当する)
(……OK。ひとまずやってみな)
透の攻撃速度は少しずつ増していく。
あらゆる方向から飛んでくる黒の矢を、2周目が叩き落していく。
意識を、研ぎ澄ませる。
ジェネシスを……腕の形に生成する。
自分の右腕と感覚を繋げながら、第三の腕を完成させる。
けど、まだ足りない。さらにジェネシスを満たし、巨大化させていく。
そして――――
「……!」
透が僅かに動揺した気配を感じる。
腕を、大きく振るう。
動かし方は、念じるようなイメージ。
《守護聖盾》を空中で自由に動かすのと似ている。
シャボン玉は腕に触れ、はじけていく。
けど黒のシャボン玉にもそれなりにジェネシスが込められているのか、手応えに僅かな抵抗がある。シャボン玉にぶつかって、弾くまで、1秒ほどのロスがある。シャボン玉の群れの中で、一瞬で腕を動かすことは難しい。
でも、大した問題にはならない。
透の位置を入れ替わる能力、《右往左往》を突破する方法は、入れ替わる対象を全て破壊してしまえばいい。
それに、“別の狙い”もある。
《右往左往》――ウオウサオウ――
《右往左往》――ウオウサオウ――
初めて、かもしれない。
私は思わず微笑っていた。
透は必ず私の腕と自分の位置を入れ替えてくる。
その予測がハマった。
透は一度目の位置入れ替えで、空間に満ちる、末端のシャボン玉と自分の位置を入れ替えた。そして二度目の位置入れ替えで、自分の位置と第三の腕を入れ替える。
これによって、私の腕はいなされる。
が、“位置を入れ替えるタイミング”を逆算して、予測、掌握できていればそれは致命的な“隙”に他ならない。
《明鏡止水》――メイキョウシスイ――
《全身全霊》――ゼンシンゼンレイ――
《諸刃之剣》――モロハノツルギ――
《天衣無縫》――テンイムホウ――
《色即是空》――シキソクゼクウ――
残存能力をフルスロットルで並列で発動。
集中力を加速し、行動速度を加速し、封印の剣を発動し、第三の腕をすり抜けさせ、剣のみは実体化させておく。
煌めくような、光のような最短の一撃。
全てのシャボン玉を光のようにすり抜けた第三の腕は、透の肉体に届いた。
「《鐘楼時計》封印。相殺指定、《聖女革命》」
11個目の能力を、封印。同時に《聖女抱擁》で傷を癒しながら、3周目の言葉が頭をよぎる。
――――止まるべき時は止まり、動くべき時は動く。アクセルが強すぎても駄目、そしてブレーキが強すぎても駄目。伝わった?
今は動くべき時。ここで止まらなきゃいけないほど、限界じゃない。今は狂っていい。アクセル全開で進むべきだ。切れそうになる集中力を、唇を噛んで耐える。
――――“まだ”だ。
あと1秒ほどしか残されていない。でも、もう一撃、ここで入れる。
透を貫いた第三の腕と《諸刃之剣》を、直角に曲げる。
人間の骨格を無視した、人体構造ではあり得ないグロテスクな動きだけど、第三の腕なら問題ない。
曲げて、もう一度逆方向に切り伏せる!
能力の効果が切れ、スローモーションの世界は元に戻る。
「《絶対王政》封印。相殺指定、《白夜月光》」
12個目の能力を、封印。
《絶対王政》を封じられたなら、30分の縛りも消える。あらゆる透の悪法は無効化され、私も《白夜月光》を維持するメリットが無い。代償にちょうどいい。
《聖女抱擁》で回復しながら、私は透を見据える。
土壇場で二撃。封印を通すことができた。
これは、かつてない成果と言っていい。
「……」
透は忌々し気に私を睨みつけていた。
そう、今回の攻撃は“完璧”だった。
まるでアンリのように、計算としてハマっていた。
何の綱渡りも無い、相手に何もさせない、サービスエースのような2連撃。
透から感じる王の余裕はもう、無い。
でも正直、私にも余裕が無い。
能力のストックが削れない必須のものばかりで、後が無い。
でも、透相手に、それを悟られてもロクなことにはならない。
私は敢えて挑発的な、勝ちを確信した笑みを浮かべた。
「12個。あと、いくつで……届くかな」
《諸刃之剣》で透の全能力を封印した先にあるのは、殺人ランクの強制最下降格。
透はSS、S、特Aという順番で落ちると推測を口にしていたけど、私の《諸刃之剣》そんなヤワじゃない。
全能力を封印すれば、それだけでこの戦いは終わる。
つまり、透をFランクまで強制的に落とすことこそが、この戦いにおける最終目標であり、Gランクの手掛かりを掴む最低条件なのだから。
そして、12個という膨大な能力をあの透から引き出し、封じ込めたという実績は大きい。残存能力の数は、あと少しで確実にゼロになる。
この戦いは、ただの殺し合いじゃない。
白の透から、Gランクの手掛かりを引きずり出す。
これはそういう――――戦いなのだから。