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±0  作者: 日向陽夏
第3章 黒へと至る少女【前】 運命之環編
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幕間⑳ 似て非なる者③【アルファ視点】


「……本当に、デルタさんはセリカに力を貸しているんですか?」


 正直、にわかには信じがたい。

 デルタさんの目に映る世界はあらゆる全てが“物質”でしかない。感情、思想、意志、そういうものとは無縁の、でもサイコパスとも少し違う、心が全く生きていないのに、誰をも寄せ付けない無機質な知性を持つ存在。

 それが、デルタという人格だ。


「何が、あなたを変えたのでしょうか?」


「さぁ、分かりません。でも、恐らくですが、赤子の自我が芽生えるトリガーはどこまでいっても“他者”の存在なんだと思いますよ。それが良く作用するか、悪く作用するかは別として。私達が当たり前のように使っている言語能力のルーツを辿るにせよ、他者から継承することでしか引き継ぐこともできない」


「……」


「さて、時間が無いのでしょう? 結界破りについて説明します」


「説明? ということは、既に試したのですか?」


「ええ、まあ。過去に何度か触れて対処法は完成していますね」


「『運命の環』の予定通りなら、あなたはこの結界の中にいなくてはいけないのでは? これでは蚊帳の外、ですよね?」


「そこまで出しゃばる気はありません。私の役割は、『運命の環』を乱さぬよう、見守りつつ修正することのみですから」


「……透にセリカが殺されてもいいのですか?」


「ここで敗れるようなら、その程度の存在ということです。生きようが死のうが、ここで挫けるようならGランクの道は無い。でも、そんなにヤワな存在なら、ここまで生き残り足掻ける人間にもならなかったとも思います」


「ずいぶん……セリカを買ってるんですね……」


「そうですね。“期待”しています」


 デルタさんはそう言いながら、人差し指を立てて結界を指さす。。


「見てください。黒の向こうに黒があるのが、分かりますか?」


「黒の向こうに黒?」


 じっと目をそらすと、結界は二層になっていた。シスターの最大出力でも突破できなかった結界が一層のみならず、二層あるということ……。


「私の最大出力のジェネシスでも、切り開けるのは一層のみ。二層を切り開ける人材の存在が必須条件です。この結界は選別でもあります。ある意味、透らしいとも言えますね。結のジェネシスもかなりの量がありますが、この結界を切れるほどではありませんし」


「……透、らしい?」


「この結界、《冥府魔道》を突破する方法は単純。透と同等以上のジェネシスを持つ者が、最低でも二人力を合わせた時のみ、開くことができるということです」


「……どういう意味ですか?」


「完全を極めようとした男が最後に欲したのが、自らの不完全を相互に補おうとする人間性。完全ではない人間にこそ、透は美学を見出しているのかもしれません。その欲望がこの結界に表れている、ように私には見えます」


 美学……。デルタさんの言っていることは時々分からない。

 透に近い視点を持たなければその価値観は形成できないということだけは確かだ。


「遠回しな言い方になってしまいましたね。要は、私が一層を切るので、アルファは突入後、二層を切ってください。私とあなたのジェネシスの量は“同じ”。この結界を突破するのに必要なのは能力ではなく、単純なジェネシスの総量。現時点で条件を満たす者は、私、アルファ、セリカ、ゼロ、例外カウントとしてサマエル。この4人しかいません」


「サマエル?」


「この中に入れば、分かりますよ」


「セリカと透以外に、誰かいるのですか?」


 それは想定していない。もし、この中に“もう一人”いるなら、それは一体……。


「敵を倒す、という思考は人間の悪癖です。人間とはそもそも、何かを目指すベクトルを与えられた生命体の筈。何かを目指すことをやめたとき、人間は無気力になり力を失っていく。サマエルとは、それを教えてくれる存在。人間に、これから与えられる罰の象徴です」


「相変わらず、抽象的ですね」


 私の半身であり永遠に分かり合えない存在。

 でも、絶対になくてはならない存在。


「アドバイス……ですよ」


 デルタさんはそう言い、右手をかざした。私もその動きに合わせる。


「「キルキルキルル」」


 二人同時に、剣を具現化。

 一層と二層を突破し、セリカの元へ……。


「そういえば、初めての共同作業ですね?」


 私とデルタさんは同じ身体を共有していたけど、何かを一緒に成し遂げたことは一度も無かった。


「最後の共同作業でもありますね」


「もしかしてこれで、お別れだったりしますか?」


 『運命の環』の予定調和で、生きる人間、死ぬ人間、別れる人間、全ては調整されている筈。なら、私とデルタさんが関わることは恐らくこれでもう……。


「さぁ、白雪セリカ次第でしょうね」


 珍しくデルタさんは言葉を濁し、薄っすらと微笑した。


「では、いきます」


 デルタさんは淡々と合図すると、透の結界を切り裂いた。


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