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±0  作者: 日向陽夏
第3章 黒へと至る少女【前】 運命之環編
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幕間⑭ 正義の成れの果て①【白雪セリカ(3周目)視点】

 

「透、お前は哀れな男だ。誰かに殺されることでしか、止まれない男」


 透と対峙し、私は憐れむように言う。

「……」

「だが私は、お前を救ったりなんてしない」

 お前のデストルドーの正体は、善悪を問わず、自分を上回る存在に滅ぼされること。だからお前は《赤い羊》を作ってなお、満足することができない。

 かつて私は、必死にお前を討つことだけしか頭になかった。だがそれは大きな間違いだった。


 ――――正義を極めた先にGランクは無い。


 それが、かつて、全ての悪を殺し尽くして得た私の答えだった。

 正義とは“善性”などという上等なものではなく、社会通念上どうしても人間にとって“都合が良い”理念。社会という現実の延長線にただ“在るだけの概念”に過ぎない。

 “正しい”というのは、人間にとってどうしても必要な麻薬のような精神状態に過ぎない。皮肉なことに、悪人も聖人もそこは関係なく共通している。

 自分は“正しい”という自己陶酔がなければ人は生きられない。

「……それは、どういう意味だい?」

 透は問い返してくる。


「分からないフリをするなら、それでいい。私は為すべきことを為すだけ」


 《快刀乱麻》――カイトウランマ――


 煌めく銀と金の鍔の白きレイピアが、スノーホワイトジェネシスを帯びて淡く輝く。

 この能力で透は殺し切れないことは過去の周回で理解している。

 だが、それでいい。

 透を討つ私という呪いのような因果を断ち切る可能性に、託すほかない。

 強さを追い求め続けた先にあるのはただの虚無だ。

 なら、意味のある弱さに未来を託すべきだ。

「私は4周目ほど甘くない。お前もいつもの手抜き癖をやめないのなら、くだらない死に方をすることになる」

 だが手心を加えるつもりはない。透はそれほど甘い相手ではないからだ。

「……どうやら、そのようだね」

 反論するでもなく、素直に透は同意してくる。けれど、まだ透の言葉は続いた。


「――――苦しいね」


 そう、目の前の化け物は珍しく弱音を呟いた。

 が、その言葉とは裏腹に、透は氷のような無表情だった。

 透が身に纏っているジェットブラックジェネシスは今までの比ではなく、地獄の業火のように大量にあふれ出し揺らめいている。

 透の不気味な漆黒の目も、下等生物を見るような感情は消え失せ、絶対に殺すべき脅威を射抜く視線。

「…………っ」

 プレッシャー……を感じている……私が?

 私は数多もの化け物を沈めてきた。それでもなお、一瞬呑まれたというの……?

 かつて殺した相手のはずなのに、殺せる気がしない。

 けど、関係ない。

 ただ進むだけ。それしか私にできることはないのだから。

 感情を切り離し、私は透めがけて走り出す。


 《秋霜烈日》――シュウソウレツジツ――


 白き炎を具現化するだけの能力。

 けど、私のジェネシスも残り少ない。無駄遣いは出来ない。使う量は最小限にとどめる必要がある。透にも見抜かれているだろう。“普通”はそう考える。

 全身に身に纏うのがスタンダードな使い方だけど、この力には様々な応用方法がある。

 火柱として光源として使ったのは数ある選択肢の内の一つに過ぎない。

 リリーの《発狂密室》には苦しめられたが、多くを学ばされた能力の一つでもある。

 炎の多層構造のドームを生成する。5メートルの外層、3メートルの中層、1メートルの深層。

 サマエル相手に使用しても無力化されるので、あいつから少し距離を取ったこのタイミングで使うのがベストだろう。


 《紆余曲折》――ウヨキョクセツ――


 透のテレキネシス能力は不可視。

 どのような手段を用いても見ることは叶わない。

 だが。

 外層をテレキネシスに突破され、炎が揺らめく。

 中層も突破。透はやはり性格が屈折している。外層と中層で突破された箇所が逆方向。これはすなわち、《紆余曲折》の方向を短距離においても限りなく歪めているということ。

 だが、問題ない。深層の突破部分を特定できれば……対処可能だ。

 そして深層の炎に穴が開き――――


「……なるほど、そういう使い方か」


 透の得心した声と共に、私の銀のレイピアが不可視の《紆余曲折》を貫く。


 手応え、あり。

 《紆余曲折》は反射され、的外れな方向に炎に風穴を空けて抜けていった。


「お前のその能力は既に攻略されている。この程度の単調攻撃で切り抜けられるとでも? まだナメているのか、私を?」


「…………」


 私の挑発に透は僅かに目を細めるが、言葉を返すことはなく、沈黙で返すのみ。

 それと同時に。


 ゴォン、と鐘が鳴る音が再び響き渡る。

 私の挑発に応えるかのように、《鐘楼時計》は『3』の数字を示した。


 その音が私を焦らせる。

 余裕が無いのは透か、それとも私か……。


「……力を隠しているのはお互い様だろう? 君がジェネシスの節制など考えずに、全力で来るというのなら、僕もそれに応えよう」

「よく言う」

 透のジェネシス量は《冥府魔道》発動時は無限になる。対抗できる能力は《白夜月光》で能力効果を半減させるのみだが、4周目は《絶対王政》に使用中だ。

 なので私が代わりに《冥府魔道》に対して使用しているが、半減では長期戦は不可能。よって2周目のジェネシス再生能力、《満天星夜》が必須となるが、それは既に失われている。

「たとえどのような不条理であろうとも、誰もが都合よく現実を歪めることなどできやしない。だが、君は凡百の人間とは違うはずだ。さあ、君の正義の輝きを見せてくれよ。それとも、これが限界なのか? 君の力はそんなものなのかい?」

「…………」

 挑発を返され、今度は私が沈黙を返す番か。


「――――いくぞ」

「――――ああ。来い」


 次の鐘が鳴る頃に、全てを終わらせる。


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