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±0  作者: 日向陽夏
第3章 黒へと至る少女【前】 運命之環編
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第15話 Clear≒White㉚【白雪セリカ(4周目)視点】

 

「すぅ、はぁぁ……」

 心の中に溜まっている鉛のような感情の塊を吐き出すように、静かに息を吐く。

 思考をクリアにする。

 透に呑まれる必要はない。

 透が語る、可能性、限界、別のもの、それら私への評価に引きずられる必要なんてない。

 透の“掌握力”を突破する方法は思いつく限り、4つある。


 ①透の掌握よりも早く行動し、先読みを追い付かせない。

 ②掌握を誤認させる。

 ③掌握を誘導し、それをこちらが利用する。

 ④とにかく私が馬鹿になって透の予測を許さない。


 やはり重要なのは“未知数”性。

 それは4周目の私自身であり、『運命の環』、ダウングレード戦略にある。

 透に見破られたのは戦略の目的、核となる部分であり、それ以外は読まれていない筈。読みようがない。事実、2周目の能力のバリエーションは私ですら把握できていない。

 それもまた、意図的に作られた“未知数”性。

 透と向き合ったことがある過去の私と、結が生み出した戦略を今は信じよう。

 2周目と3周目、そして結は私に敢えて何も教えないように情報を制限している。

「――――っ?」


 《紆余曲折》――ウヨキョクセツ――

 《多重展開》――タジュウテンカイ――

 《紆余曲折》――ウヨキョクセツ――


 殺気を感じると同時に反射的に《白雪之剣》を前方へ構える。

 見えない手応えが伝わってくる。

 けれど。

「……っ」

 腹部に強烈な鈍痛が走り、思わずバックステップする。

 条件反射的に《聖女抱擁》を発動し、肉体の傷を癒す。

 攻撃されたらしい。

 ……透の《紆余曲折》の射程範囲内に入ったのか。

 不可視のテレキネシス能力《紆余曲折》には、中距離に特化している能力だけど、明確な射程範囲がある。

 《多重展開》は一つの能力を同時に発動する能力と見ていい。

 つまり今の攻撃は二段構えで、《白雪之剣》で無効化した一段目の攻撃があったということ。腹部が二撃目ということは、初撃は恐らく首だろうか。腹部のダメージを鑑みるに、人体の骨を折るぐらいの威力はある。

 やはり止まっていては駄目だ。動かないと。


 《右往左往》――ウオウサオウ――


「――――“君”はこの能力で死ぬのだろうか?」


 一瞬の浮遊感と、眩暈。直後。

 透の声が“背後”から聞こえる。

 錯乱しながら振り返ると、何故か私は透がさっきまでいた位置にいて、透が私がさっきまでいた場所にいた。

 な、何が起きたの!?

 状況整理が追い付かない。何を、された!?

 けど、これしか答えが浮かばない。

 恐らくは……位置を、入れ替える能力……っ。

 まだ透は能力の隠し玉を……!


 《生殺与奪》――セイサツヨダツ――


 そしてその能力は発動してしまう。

 中距離戦に特化した透の近距離の切り札とも言える、最悪の能力。


 ――――半径3メートル以内には近づかないでね。透は《生殺与奪》っていう半径3メートル以内の生物を即死させる能力を持ってる。


 2周目の言葉を思い出す。

 透は私と位置を入れ替えて、《生殺与奪》の射程内に2周目を入れたんだ。

 私の“迷い”を見切って、透は冷静に標的を2周目に切り替える判断を下した。

 私の……私の判断ミスだ……っ。

「……っ」

 咄嗟に名前を呼ぼうとするも、名前が出てこない。

 自分自身を呼ぶ名前など無い。

 二人は私を4周目と呼ぶけど、私は……っ。


(動揺しない。撃って。今なら背中から……いけるよ……)


 2周目は膝から崩れ落ちながら、それでもチャネリングで指示を飛ばしてくる。

 2周目は苦悶に顔を歪めながら、ニヤりと不敵な笑みを浮かべ私に目線を送ってくる。

 死にながら、それでも役目を果たせと……っ。

 バリン、と亀裂音が響き空の星々が砕け散る。

 《満天星夜》が解除され、腐ったミイラのような不気味な頭が再び具現化する。

 2周目が死んだことで、透の《冥府魔道》の能力効果が再発動したのだ。

 私の体中に何体もまとわりつき、ジェネシスを黄ばんだ歯で租借している。

「……」

 生理的嫌悪感を覚えるような時間は無い。

 2周目が死んだのであれば、残りの時間はもって数分。

 感傷に浸っている余裕すら……無い。

 様々な苦渋にも似た思いが胸を締め付けてくるけど、理性で感情を切り離す。

 理性と感情を切り離すその感覚は、恐らくはアンリやかつての先輩、そして今の透のような感覚に近いかもしれない。

 Gランクを目指し戦うことを決めた時点で、覚悟は決めなければならない。

 ジェネシスが回復しない以上、速攻でケリをつける必要がある。

 私は心を落ち着かせ、矢の構えを取る。


「…………」


 《明鏡止水》――メイキョウシスイ――

 《全身全霊》――ゼンシンゼンレイ――


 集中力に全てを委ね、無心で能力を発動。

 白の矢を作る途中で、違和感に襲われる。

 透は2周目を殺す戦術に切り替えた。そして、この戦術では私に背中を見せることになるのは明白な筈。この攻撃が読まれていないわけがない。

 透は化け物だ。2周目殺しの戦術は何の対応もできなかった。《右往左往》による位置交換からの即死能力である《生殺与奪》の発動。

 本気で私たちを読み切り、そして狩りに来てる。この先の私の動きも恐らくは……っ。

 ……どうする。


 ――――君の“可能性”はそこ止まりかい?


 一瞬身体が躊躇いとともに硬直し、透の言葉を思い出す。

 透を上回る為には、もっとスピードと変化が必要だ。

 同じパターンでの攻撃は自殺行為に等しい。

 スピードと変化で思い出すのは二人。

 花子の即興攻撃、そしてゼロの瞬発力。

 この二人に共通するのは“鎖”を扱うのが上手いということ。

 縛るだけではなく、掴む、防ぐ、引っ張る、何でもできる。


 鎖。

 スピード。

 白の矢。

 透を上回る“未知数”性。


 天啓のように何かが脳裏に閃く。

 透を上回る一撃は、これしかない。

 一瞬湧いたイメージにできるかどうか、たじろぐも……


 ――――撃って。


 2周目の最期の言葉が脳裏をよぎり、意識が引き締まる。


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