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±0  作者: 日向陽夏
第3章 黒へと至る少女【前】 運命之環編
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第15話 Clear≒White㉙【白雪セリカ(4周目)視点】

 

「……」

「……」


 透は再び、歩みを進める。速すぎもせず、遅すぎもせず、普通の徒歩。だというのに、心臓を鷲掴みにされているかのようなプレッシャーで、息苦しくなる。

 見た目だけなら、完全に“無防備”。まるで攻撃してくださいと言わんばかりだ。

 やはり、誘われている。だが透は私が“透を理解している”ことも理解している。だから、単純な心理誘導で私を支配できるとは思っていない。

 読み合いで透に勝てるとは思えない。私の一手先を透はどう予測している?

 透の、本当の狙いは何……?

 攻撃を誘導されていることは間違いない。でも、それを私が読んでいることも分かってる筈。“その先”にある思惑は……。

(そろそろ時間切れだよ、4周目。さっきの作戦通りで行く? 私は従うよ)

 あの性格が一番キツい2周目が、私の指示に従うと言ってくれている。多少は私を認めてくれた、ということだろうか。

(……っ)

 決めあぐねている。

 判断ミスは一度たりとも許されない。一瞬の慢心で全ては無に帰す。

(4周目、いいよ。ミスしてもいい。“恐れない”で。私と3周目は最後まで“恐れ”を克服できなかった。私がカバーするから。それが、先に生き次に託す者の役割でしょ?)

(……いいの?)

(“恐れる者”に透は超えられない。そしてGランクもまた届かない。失敗を恐れることはリスク管理として重要だけど、恐れるだけの者には何も掴めない。私が全責任を負うよ。失敗してもいいから、思いっきりやってきて)

(……ありがとう。じゃあ、さっきの手筈通りに)

(オーケー)

 そんなやり取りをしてるうちに、大分透は近づいてきていた。

 残りの能力の手数は少ない。

 そして透のあの異常な自信。経験則で分かる。コケ脅しではなく、確実に何かある。

 ……不安要素はいくらでもある。

 大事なのは消極的になり過ぎないこと。そして無理に攻めすぎないこと、だろう。

 メインで使っていた異能力も変えてみよう。

 透相手にミスは許されない。

 本来であれば、未知に挑戦する勇気は無謀そのものだ。

 でも、後ろには2周目がいる。

 2周目の言葉に甘えて、今は迷わず進むのが最適解だ。

 緊急避難用に、加速と集中の能力は温存しておこう。

 躊躇と逡巡を置き去りにして、私は意識を眼前に集中し、能力を発動。


 《聖女革命》――セイジョカクメイ――


 《紆余曲折》――ウヨキョクセツ――


 白き鉄鎖を具現化。透を縛ろうと空中で操作するも、透の身体に当たる直前で止まり、粉々に砕け散る。やはりテレキネシスの能力が強い。全てこれに阻まれる。攻防一体で、近距離中距離遠距離全てにおいて強い。

 不意打ちの鎖攻撃は不発に終わってしまった。一瞬の隙をついてあの時計台まで行きたかったけど……。


「……」

「……」


 不意に、透と目が合う。

 透の表情に焦りは無い。不気味なほどに冷静だった。さっきの怒り狂っていたあの透は何だったのか。透は快楽殺人鬼を育成、統率できる正真正銘の化け物であり、その狂気に底は無い。それは疑いようのない事実。

 でも、この“冷静”さ。

 私と結の『運命の環』を見切り、“敢えて”私に殺されるという選択肢を平然と行える狂気を飼い慣らす“理性”の強さ。

 サイコパスの一言で透を言い表せられるほど、単純じゃない。


「……っ」


 無意識に、唇を噛む。

 この先、どう動いても負けるイメージしか湧かない。

 2周目は失敗してもいいと言ってくれたけど、今の透を前に“それすら許されない”ような気がしてならない。

 透はもう2周目、3周目までの性格は分析、掌握済み。

 掴み切れていないのは、私だけだ。

 “掌握の天才”である透に対して有効なのは“未知数であり続ける”こと。

 2周目の冷酷な指導者、3周目の寡黙な正義は、既に見切られている可能性が高い。

 そして4周目である私も、ある程度は分析が済んでいると見るべき。

 そして4周目の私が次に打つ手は、時計台の破壊だ。


 ――――ゾクリと、背筋に悪寒が走る。


 悪寒の正体は分からない。でも、恐らく、この一手は読まれている……。

(ごめん、2周目。作戦は変更する)

(なら、どうするの?)

(作戦は敢えて“決めない”)

(……)

(全てを直感に委ねようと思う。さっきの“白の矢”を当てた時は、何も考えてなかった)

(無策で突っ込んでも死ぬだけだよ)

(その辺のフォローは全部任せてもいい? 失敗しても……いいんだよね?)

(…………)

(でも、完全に無策って訳でもないよ。次の一撃、“敢えて”何もしないで)

 2周目は私の言葉の真意を測りかねているのか、沈黙に迷いが見える。

 でも、それでいい。

 “迷う”のは2周目に任せる。

 私は、敢えて愚かなまま透に挑もうと思う。


 《明鏡止水》――メイキョウシスイ――

 《全身全霊》――ゼンシンゼンレイ――

 《粉雪水晶》――コナユキスイショウ――


 意識をスローモーションに。透目掛けて《諸刃之剣》に溜めたスノーホワイトジェネシスを発露させながら、白の矢を具現化。


 この攻撃は試金石。

 透の予測にとっても最も可能性が低い、“同じ手”を何度も打つ愚行。

 透は動揺を表情に出さず、じっと私の一挙手一投足を観察している。


 ――――迷いなく、投擲。


 これは、透に届きそうで届かない不規則な軌道。

 時計台の方向でもなく、透と半身分ズレた、意味不明な一撃。透が防がなければ、すれ違って終わるだけの矢。

 けどこの速さで投げられた一撃を目視のみで当たらないと即断することもできない筈。


 白の矢は弾丸の如く空間を駆け抜けていく。

 ――――そして透とすれ違う直前。


 《空中分解》――クウチュウブンカイ――


 私は次の行動態勢に移り、別の能力を発動。


 《聖女革命》――セイジョカクメイ――


 私の透の行動への予測が完全に外れる。

 透は《救世之盾》を発動せず、分解の能力を発動。

 でも、私の白の矢は、透の《空中分解》に分解され、消滅。

 白き鉄鎖も透が《紆余曲折》を発動すると、先ほどと同じように粉々に砕け散った。


「……っ」

「……」


 私の“フェイク”は不発に終わり、透は不敵に微笑する。


「……なるほど、今の攻撃は完全に囮だね。僕に《救世之盾》を発動させ、本命ではない《聖女革命》をぶつけてどのような現象が起きるか把握したかったのかな。良い手だ。だが、少し拍子抜けだね」

 意図を一瞬で見透かされてしまう。

「再認識したよ。君は“成長し続ける怪物”だ。それは純粋であるがゆえに“可能性”そのものだ。だが、“可能性”とは希望であり同時に絶望でもある。僕を理解しようとするほど、君はその両刃の剣に傷つくだろうね」

「……まさか読まれるとは思わなかったよ」

「愚かである者と、敢えて愚かであろうとする者には大きな差がある。君は僕を上回る為に、後者を選択したというわけか。だが、君の“可能性”はそこ止まりかい?」

「…………っ」

 やはり一瞬で看破し、揺さぶってくる。

「“その程度”が君の限界ではあるまい。君にはもっと“別のもの”を期待しているんだ」

 透を上回る為には、もっともっと成長しなくちゃいけない。

 何度も何度も何度も何度も。

 透との対話を経て、私は失敗してきた。


 ――――私で、終わらせる。


 ……終わらせてみせる。


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