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±0  作者: 日向陽夏
第3章 黒へと至る少女【前】 運命之環編
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第15話 Clear≒White㉘【白雪セリカ(4周目)視点】

 

 透に対して、まだ答えが出ていない根本的な疑問がある。

 私の《起死回生》を掌握したというのであれば、ループ回数を見極めているということになる。これはどう考えてもおかしい。2周目、3周目に対して敢えて敗北を選んだというのであれば、何故今回は“本気”なのか。その判断基準はどこにあるのか、だ。

 その謎も恐らくはGランクに深く関わっているような気がしてならない。

 うん、決めた。

 ……直球勝負は捨てよう。

 攻めでもあり守りでもあり、且つ変則的な一手。


(2周目。私は、《鐘楼時計》を破壊しようと思う。あの能力のカウントダウンは不気味だし、透の予測で私が時計を狙うことは確率が低いように思えるから)

(……オーケー、4周目。私は後方支援に集中する。分散攻撃するよりは、君を殺させない方が重要度が高いから。透の即死能力《生殺与奪》の射程範囲は半径3メートル以内が射程範囲。くれぐれも近づき過ぎないように)

(了解。ありがとう)

 私が一歩前に踏み出そうとすると、透が声をかけてきた。


「……作戦会議でもしているのかな? だがそれも徒労に終わる」


 透は静かに歩みを止め、語り掛けてくる。その表情は冷笑でも悪意でもなく、愚者を見下ろす神のような視線だった。

「……人生の全ては徒労だし、結局は自己満足だよ。そこは否定しない。私の悪あがきもそうだし、そしてそれはあなたも同じ筈。あなたが目指す道の先にあるものに価値があると、誰が証明してくれるの?」

「ふっ……。そうだね、その通りだ」

 透にしては珍しく感傷的に見えた。まるで、私を殺すことを“惜しがっている”ような、そんな印象すら覚える。気のせいかもしれないけど、何故か私にはそう思えた。

「君たちの語るGランクという理想に、今は深く畏敬の念すら覚えている。ここまで僕を追い詰める存在は、宇宙上探しても君しかいないだろうからね。実のところ、ロジックはもういい。君を心理誘導することはできないと悟っている。だが、ジェネシスは別だ。殺人に力を貸すこのジェネシスという力には裏も表も無い。残念だが、君はここで“終わり”だ。この手でその命を手折ってしまう前に、一ついいかな?」

「何?」

「Gランクの定義さ。恐らくまだ、“見極められていない”のだろう?」

「…………」

 相変わらず、痛いところを突いてくる。

「揺さぶる意図はない。さっきも言ったが、君を心理誘導することはできないと僕は学んでいる。純粋な興味本位で訊いている。現時点で構わないさ。君はGランクをどう“定義”する?」

 花子戦、リリー戦、アンリとの相互理解、マザー戦、メアリー戦、アルファとの対話、シスター戦、結との決別、ヒキガエルとの駆け引き、ゼロ戦、透戦。この激動の戦いの中で私はずっと自分自身に問い続けてきた。

 まだ未完成ではあるけれど、私は一つの答えを自らの中に見出すことができた。でもそれは皮肉なことに、透の存在無くして出すことはできない答えだった。殺人を肯定し底無しの悪意へと誘う殺人カリキュラム無くして、この答えを生み出すことはできない。

 悪があるから善があり、善があるから悪がある。

 この呪いのような二律背反の中で、狂気の中で見出す一筋の理性と正気。

 それは――――


「――――“無法の善”」


「……無法の……善?」

 透は呆然と私の言葉を繰り返し、笑い出した。

「……フッ! ハハハ! ククク……素晴らしい、君はやはり……素晴らしい人間だ」

「馬鹿にしてるの?」

「失礼、君を不快にさせる意図はないさ。余りにも理想主義が過ぎるとは思ったがね。僕には絶対に出せない答えだ。いや……違うな。僕を見て、僕の対極として存在する者として出した答え、といったところか」

「…………」

「“無法の善”。法という制約が無くとも、善であろうとする心構え。それが、現時点での君にとってのGランクへの道しるべといったところか」

「多くを説明しなくても、透なら理解してくれると思ったよ」

「ああ、そうだね。僕は君のことを誰よりも深く理解している。殺すには惜しいが、君を殺さなければ僕は僕の信念を全うすることができない」

「でも、この答えではまだ足りない。事実、私はFランクの域を越えられていないから」

「君が僕を殺さずにランクダウンに拘っている理由もそこなんだろう? 君自身のバイアスには限界がある。僕の目を使って、僕にGランクを定義させたい。そしてバイアスを“補完”する。それが君の本当の目的といったところか」

「……心底、化け物だと思うよあなたは。すぐに何でも見破ってくるから」

「不屈の精神、異常な闘志、破滅をも克服する信念、底が見えない成長力に限って言えば、君の方がよっぽど“化け物”だけどね」

「それで、満足した? 質問の答えとして」

「ああ、そうだね」

「じゃあ、私からも質問したい。あなたにとってのGランクとは、何だと思う?」

「その質問に答えたら、君は僕を殺せてしまうからなぁ。敢えて回答拒否とさせてもらうよ。僕を打ち負かすことができたら、どうだろう。もしかしたら口が滑るかもしれないが」

「今の真っ黒なあなたなら、嫌がらせで答えてくれない方が有力だけどね」

「フッ、よく分かってるね。僕のことを」

「でも。さっきの答えだと、既にあなたの中にあるってことだね。分からないではなく、拒否ということはそういうこと」

「どうやら、失言は既にしてしまっていたか。君も鋭くなったね」

「あなたを前にして成長しない方がどうかしてるよ」

「さて。水を差して済まなかった。“続き”をしようか。どちらが滅びるにせよ、ジェネシスが齎すものはただ一つ。それは――――」


「――――殺戮さ」

「――――希望だよ」


 私たちは別の言葉を口して、対峙する。

 ゴォン、と鐘が鳴る音が再び響き渡る。

 私の逡巡を嘲笑うかのように《鐘楼時計》は『5』の数字を示した。


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