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±0  作者: 日向陽夏
第3章 黒へと至る少女【前】 運命之環編
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第15話 Clear≒White㉖【白雪セリカ(4周目)視点】


 ……チャンスだ。透は動揺している。普段からロジックに頼り過ぎた人間が自分の感情に飲み込まれた瞬間は、どうしようもないほどに救いようがなく、自滅の道を辿るしかない。


 ――――捻じ伏せる、全て。


 自分でも驚くくらい冷静で、でも湧き上がってくる何でも達成できるであろうと思える、この謎の高揚感。

「4周目ちゃん……?」

 2周目が困惑しているけれど、私には応答する時間が惜しかった。

「サポートを」

 それだけ端的に言い、私は右手に《白雪之剣》、左手に《諸刃之剣》を握り、翼を広げ僅かに跳躍。地上から浮遊する距離は10センチぐらいで、飛び過ぎないようにする。

 アンリと模擬戦闘をした時、痛感したのは私はアンリほど自由自在に空間を認識して動けないということ。自分が苦手なことをわざわざする必要はない。私は地面を走ったり跳んだりする方がしっくりくる。でも、透の動きは速い。地面で動いているだけだと、対応が間に合わない可能性がある。跳躍している方がまだ少しだけ速く動ける。

私は呼吸を深くしながら、フルスロットルでジェネシスを《諸刃之剣》の刀身に溜める。

 中距離戦で透を仕留めるのであれば、地上戦に囚われず、空間そのものを有効に使うべきだ。

 百に近い大量の黒の矢がいつの間にか眼前に迫っていた。透の殺意は未だに顕在で、隙という隙が無く、且つ判断速度が容赦なく、早い。


 《紆余曲折》――ウヨキョクセツ――


 百に近い黒の矢が、一斉に歪曲する。

 上下左右、前方後方、全てを黒の矢に包囲される。

 《紆余曲折》はテレキネシスのような能力。なるほど、ジェネシスを曲げるという芸当もできるのか。

 弾道が読めない。

 でも、何も問題ない。


 《守護聖盾》――シュゴセイジュ――


 前方と背後は捨てる。

 左右と足元に、三つの盾を具現化。私は盾の上に着地しつつ、思い切りジェネシスを放出しながら《白雪之剣》を背後へ投げる。

 4周目の話を信じるなら、形態化は異能力より速いけれども、威力は弱いという話だ。なら、異能力で防ぎつつ、異能力で正面突破すればいい。

 左右と足元の盾に黒の矢が衝突し、轟音が響く。背後からは何もない。《白雪之剣》に無効化され消え去ったのだろう。

 それから、もう一度踏み込んで、投擲体制に移行。


 《明鏡止水》――メイキョウシスイ――

 《全身全霊》――ゼンシンゼンレイ――

 《粉雪水晶》――コナユキスイショウ――


 再びスローモーションの世界で、透目掛けて《諸刃之剣》に溜めたスノーホワイトジェネシスを発露させながら、光の矢を具現化。

 狙いを澄まし、投擲。そこに感情は無い。

 恐れも迷いも無い、無心の一撃。

 けど、同じ手が通用する訳も無く。


 《空間圧縮》――クウカンアッシュク――


 透は私の速度に追いつくことはできない筈なのに、能力を発動してきた。

 透の怖さは“読む”力だ。私の行動を読み抜き、抜かりなく手を打ってきた。

その異常な“読む集中力”と私の“動く集中力”はほぼギリギリの拮抗を保っている。私の投擲体制から自分との距離から逆算し、その中間地点に能力を発動。

 あれは確か、透明な球体を具現化し、私の足を捻じ曲げた能力だ。動き回る相手や射程範囲の制限でもあるのか、今回私自身には使ってきていない。でも、このままじゃ私の一撃は封じらてしま――――


 《陣頭指揮》――ジントウシキ――


 煌めく白き矢の一撃が、直線から曲線へ変化。

 弾道、軌道を変化させる能力……?

 

(透の読む力は私も持ってる。思い切りやってきな、4周目)


 背後から2周目の声がして、曲線としてねじ曲がった私の白の矢は透を――――


 《救世之盾》――キュウセイノタテ――


 《陣頭指揮》――ジントウシキ――


 私の白の矢は“二度”曲がる。

 《空間圧縮》により妨害されたであろう一度目の軌道は修正され、《救世之盾》により妨害されたであろう二度目の軌道も修正される。


「……っ」


 タクトを描くように二度曲がった私の白の矢の一撃は、再び透を貫いた。


「《絶対不死》封印。相殺指定、《秋霜烈日》」


 《聖女抱擁》――セイジョホウヨウ――


 7個目の能力を封印し、身体を治癒する。

 今回も大当たりだ。《絶対不死》を封印できたのは良い兆候だ。

「……」

 透は不気味なほどの無表情でじっと私を観察している。2周目ではなく、私だけを標的として見据えている。あの顔は、“何か”やる気だ。何となくわかる。透とは短い付き合いだけど、数十年の時を超えて、永遠にも思える時の長さの中、ひたすら倒すべき宿敵としてこうして向かい合っているような気がしてならない。

 皮肉なことに、そう、とても皮肉なことに。この世界で透を誰よりも理解しているのは私で、私を誰よりも理解しているのは透なのかもしれない。

 そう思ってしまう程に、私は透の感情を暴いたし、透は私の感情を暴いてきた。こんな破滅的な殺し合いでしか生まれない相互理解は歪んでいるけれど、私たちはお互いのことを誰よりも分かり合っているのだろう。

 でも、だからこそ、透との決着は私がつけなければいけないと、そう思う。

 ……命がけの綱渡りは、今のところ上手くいっている。

 それにしても、今のは危なかった。2周目の援護がなければ、完全に防がれていた。

 私の行動は透に先読みされてしまう。

 でも、2周目は透と対等に先読みする力を発揮してくれる。

 けど、“次”はもっと難易度が上がる。透は私と2周目のコンビネーションを学習し、これからは更に先を読んでくることだろう。ほんの僅かな隙が、透の前では致命傷になる。


 ――――次の一手、どう出るべきか。


答えは出ないまま、透は意味深に微笑んで、一歩、二歩と、スタスタと普通に歩きながら私の方へ距離を縮めた。

「……」

 中距離戦をやめたのか?

 分からない。ただ歩いているだけ、それだけなのにこのプレッシャーは何?


 まるで覇道を歩む王のように。透は死地を静かに踏み、私の方へと近づいてきた。


お待たせしました。12月忙しくて、あまり何もできてないです。

完全に話が変わり、あと余計なお世話かもしれませんが。中国に飲み込まれた日本を想定して今から色々準備しておいた方がいいかもしれません。まぁ全て私の杞憂に終わればいいんですが。

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