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±0  作者: 日向陽夏
第3章 黒へと至る少女【前】 運命之環編
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第15話 Clear≒White㉕【白雪セリカ(4周目)視点】

 

 黒い矢が十、二十……数えられない。とにかく大量の黒い矢がこっちへまた向かってくる。

 ……速い。確かに、予備動作がほぼ無い。

 一瞬遅れて、2周目の黒い矢が私の背後を越えて貫く。

 黒と黒のジェネシスの螺旋が衝突してはじけ、破裂音と衝撃波で軽く身体を吹き飛ばされそうになるけれど、なんとか踏ん張って耐える。

 ……凄い。2周目の力は本物だ。透の攻撃位置と寸分たがわない精密な位置へ矢を放出し、見事に相殺した。けれど、透は既に次の攻撃へと切り替えていた。

 透は無言で私を見据えながら、右手を構えジェネシスを溜めている。

 な、何か来る……!。


 《明鏡止水》――メイキョウシスイ――

 《全身全霊》――ゼンシンゼンレイ――


 咄嗟に意識と身体を加速させ、備える。

(もう、何やってんの? テンパり過ぎだよ。今のは透に殺気が無かった。フェイクだね)

(……え?)

(加速時間が切れた瞬間を狙ってくるよ。もっと溜めた後に)

(……っ)

(ま、いいや。せっかくだし、ぶっつけでやってみようか。イメージして)

(イメージ?)

(見様見真似。さっきの黒の矢を)

(い、一瞬過ぎて……形がよく見れなかった)

(矢だよ矢。さっきのにこだわんなくていいから。何か見たことない? イメージできるの)

 矢……矢……。

(ほら、モタモタしてるから第三波が来ちゃう。気合い出して、気合い)


 ――――気合が足りないんじゃない?


 2周目の“気合い”という言葉で、シスターの顔がちらついた。

 シスターは《吹雪之剣》を水に溶かし、矢の形状に変えてジェネシスを混ぜ込んでいた。

 あれは異能力で形態化ではないけれど、イメージはあれでいい。何より、同じ白だ。イメージしやすい。

 けど、足りない。形のイメージはできたけど、放出するイメージができない。

 その先のイメージは完全に“未知”だ。

 ……未知?

 その言葉はどこかで聞いたことがある。

 そうだ、これも確かシスターが……。


 あなた、大器晩成という言葉を知ってる?


 長い年月をかけてじっくり熟成して大成する人間のことよ。


 あなたは天才じゃない。大器晩成型よ。そして、大器晩成型は天才とは方向性が違う。


 天才は“未知”に強い。大器晩成型は“既知”に強い。そこが決定的な違いね。


 何度も同じことを繰り返して、反復して、経験して成長し、未知を既知に変えながら、全ての既知を熟成しながら克服する。その無限の進化を遂げる人間のことを、大器晩成型と呼ぶ。そして、大器晩成型だけが天才を殺し得る。


 あなたの《起死回生》には、大器晩成型の人間に通じるものを感じる。繰り返し、経験し、既知を増やして強くなる。あなたは間違いなく大器晩成型よ。


 ――――“天才”を殺しなさい、セリカ。あなたなら必ず出来るわ。


 私は“天才”じゃない。なら、全てを“既知”で補完するしかない。

 放出のイメージを補完する何かが必要だ。考えろ、過去の既知を。過去、過去……。放出は《守護聖女》や《聖女抱擁》だ。でも、あれは矢のような鋭さは無い。

 でも……そうだ、私は“放出の逆”ならやったことがある。

 放出されたジェネシスを分散させて攻撃を反らす、《粉雪水晶》と《白雪之剣》を掛け合わせた『粉雪の剣』。これは既知だ。

 磁力のように敵のジェネシスを引き付ける《粉雪水晶》。この性質を応用するのであれば、不可能ではない筈。

 そして、《白雪之剣》にこだわる必要性も無い。


 《粉雪水晶》――コナユキスイショウ――


 《諸刃之剣》を握り、刀身にジェネシスの雪を吹きかける。そして――――


「…………」


 呼吸を深くし、集中する。

 全ジェネシスを刀身に収斂。意識を深く、深く、深く……。

 そしてイメージする。かつてシスターが具現化したあの恐ろしい水の矢を。

 でも今は恐怖は無い。あるのはただ、決意だけだ。

(    )

 2周目が何か言っているけれど、聞こえない。

 集中し過ぎたみたいだ。

 でも……“できた”。

 成功するビジョンしかない。

 一歩前に踏み出すように。単純動作で《諸刃乃剣》を突く。


(――――っ!?)

「――――ッ!」


 いつの間にか大量の黒い矢が私へと迫っていた。

 けど、気付かなかった。

 それよりも速く、終わらせればいいだけだから。


 《救世之盾》――キュウセイノタテ――


 透は何か防御特化の能力を発動しようとしたみたいだけど、間に合わなかったようだ。

 黒の矢は光の矢に全てが超高速で吸い込まれ白に呑まれて消滅。

 透が撃つ銃の弾丸よりも速い白銀に輝く光の矢が透を貫通し、透から強制的にジェットブラックジェネシスが蛇のような形で噴出。私の持つ十字架の剣にそのジェネシスは吸収される。白き十字架の剣は、一瞬だけ透の色に染まり黒く妖しく輝くが、すぐに元の白に戻る。


「《聖者抹殺》封印。相殺指定、《半死半生》」


 体中から血が噴き出し、反射的に《聖女抱擁》で治療する。

 これで封印した能力は6つ。

 少しずつではあるけど、前進している確実な手応えがある。

 透の全能力を封印し、ランクダウンの果てにFランクへと至らせる。

 その先に、Gランクのパズルを完成させるキーピースであることは確かだ。

 頭の中にある絶望の霧が晴れ、今は静かで穏やかな気持ちだ。

 Gランクの定義にはついぞ失敗に終わったけれど、私達は4周目に至るまでの過程で、ある一つの答えに辿り着いた。それを今、思い出した。

 透は自らを大器晩成型の凡人だと評したけれど、私は信じてない。透は“掌握”する天才だ。つまり、透にGランクを“掌握”させれば、必ず道は開ける。

 宿敵の力すら、今の私には希望だ。

 私や結にできなかったGランクの掌握を、透にやってもらう。

 もちろん、生半可ではない。過去最難関の周回になる事は疑いようがない。


 ――――深淵を白に。


 あり得ない思想。この世界に存在し得ない絵空事の希望。無知な子供の夢。

 でも。それが、それだけが、絶望しかないこの繰り返された世界にある、蜘蛛の糸のようにか細い私の道なんだ……。


「……白雪セリカ」

「透」


 怒りを露わにした透の目を、真っすぐに見つめ返す。

 今の一撃は完全に予想外だったのだろう。

 でも、退路は無い。私たちはここで決着をつけるんだ。

 たとえどちらかが滅びるしか選択肢が無いのだとしても。


 ゴォン、と鐘が鳴る音が響き渡る。

 殺意と決意が交叉する静かな世界で、《鐘楼時計》は『7』の数字を容赦なく示した。


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