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±0  作者: 日向陽夏
第3章 黒へと至る少女【前】 運命之環編
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第15話 Clear≒White㉔【白雪セリカ(4周目)視点】

 

 ゴォン、と時計塔の音が鳴り響き、針が『8』の数字を示した頃。


 私は、透と向かい合っていた。


「さて。白雪セリカ、君は手札を出し切ったように見えるが、次は何を仕掛けてくるつもりかな?」

 私が持つジェネシスの手札は……もう出し切っている。

 透は……恐らく“まだ何か”ある。

 私の根っこは凡人で、透はどうひいき目に見ても明らかに格上の存在なのだ。

 過去の周回で倒せているというのも、どこか腑に落ちない。

 1周目だけは恐らく力だけで捻じ伏せた可能性があるけど、2周目、3周目が実力で透を圧倒出来たのかというと、疑わしい。

「……」

「そう怯えるなよ、もう君も立派な怪物だ。僕を滅ぼし得る存在なのだから、もっと胸を張るといい。今更人間のフリをするなよ」

 人間のフリ……か。もう私も、透と渡り合えるぐらいには人間離れしてしまったのだろうか?

 でも、違う。そうじゃない。

 私はただ、できることをやるだけ。死力を尽くしているだけだ。

 そしてそれがこの形になっただけ。何も特別おかしいわけじゃない。

 恐らくそれは、透にも言えることだと私は思う。

「あなたは……」

 これほどまでに狂気を飼い慣らす程の絶望を知り、今の透になったのだろう。

 かつては人の心を持ち、普通の人間だった過去の透と、今の透。

 そこに至るまでの過程に、恐らくはGランクとは対になる鍵がある。

 でも、それを知れば私は……今のままの私ではきっと、いられなくなるのかもしれない。

 でも、それでも……進むしかない。

 この道がたとえダブルバインドによって導かれた道なのだとしても、選ばされた選択肢で進んだ道で、自分なりの答えを見つけ出すしか……。

 恐らくそうすることでしか、きっと本当の意味で透を超えることはできない。

「なんだい?」

「あなたは……。いや、やっぱりいい。言葉は必要ない。決着はジェネシスでつけよう。あなたが何に苦しんでいるのか、もう少しで分かる気がするから」

 今の透に何を言っても、全ては戯言として切り捨てられるだけだ。

 詭弁も、正義も、説得も、透の前では無力。

 全ては見透かされ、私自身の潜在意識に眠る悪を呼び起こされるだけだ。

「…………」

「勇気を出すよ。何をどう足掻いても、あなたと対等になる為にはそれしか思いつかないから」

 私は全身にジェネシスをみなぎらせ、意識を集中する。

 いつの間にか《明鏡止水》と《全身全霊》も切れていたようだ。

 近距離戦は自殺行為。かといってこのまま攻めあぐねていれば、透の《絶対王政》でタイムリミットを迎え死ぬだけだ。

 近距離と中距離の境目を見極めて、ギリギリのラインを攻めよう。

 《千波万波》を封印した今、透の次の攻撃は完全に未知数。油断はできない。かといって過去の自分の援護にもあまり期待できない。

 2周目も3周目と同じように最低限のサポートしかしないようだし、私一人で勝ち切るしかない。過去の自分の筈なのに、正直、何を考えているのか分からない。1周目も、2周目も、そして3周目も。何故これほどまでに性格もジェネシスもかけ離れているのか。


「!」


 突然の殺気に反射的に後ろへ跳ぶ。けど、駄目だ。この攻撃は直線でこっちに来てる!

 黒い矢のようなものが透の左手から放たれたことに、遅れて気づく。


「油断しないの」


 《堅忍不抜》――ケンニンフバツ――


 私の身体をドーム状に黒いジェネシスの壁が覆い、矢が壁に衝突して霧散する。リリーの《発狂密室》を彷彿とさせる。そっか、2周目も3周目も私と“途中”までは同じなんだ。リリー戦を経験したことで、2周目は変色の時にリリーの影響を受けた可能性がある。性格が違うのも、そのせいなのだろうか?

 透から意識を反らさず、視線だけ後ろへ送ると2周目が黒いタクトを振り、私を指していた。

「はぁ~~。キミが最弱ってこと、忘れてたわ。キミは3周目より遥かに弱いんだよね。……しょうがないから援護したげる」

 2周目は呆れたように深いため息を吐きつつも、視線だけは油断なく冷酷に透を捉えている。

(さっきの……矢は何? 能力が発動したようには見えなかった)

(あれはジェネシスの“形態化”だよ。異能化ほどの威力はそこまでないけど、能力を発動するよりは予備動作が無く、即効性がある。戦術を切り替えてきたね。ダルエルも今は透明剣と拳でゴリ押すだけのただのゴリラ野郎だけど、学習データ次第では透明の矢も使って中距離戦も習得してくる。ダルエルは時間が経てば経つほど無限にジェネシスを学習してずっと強くなり続ける。だからいずれ私達は絶対にダルエルに勝てなくなる。あいつに勝てなくなれば死ぬしかない。完膚なきまでにぶっ壊せたこともあるらしいけど、それはサマエルがまだ弱くて1周目が鬼のように強かった時だけだね)

(で、でも6つの死亡フラグには出てないのに……)

(あいつのクリアジェネシスはシスターの《未来予知》も無効化するから、予知に引っかからないよ)

(そんな……)

 珍妙でおちゃらけている印象しかないのがサマエルなのに、それほどまでの存在なのか……。

(でもそれなら、私たちの《起死回生》も無効化されてしまうんじゃ?)

(あいつを見たり触れたりせず、自分自身だけに干渉すればクリアジェネシスの影響は受けないよ。だからあいつの相手する時は近距離戦だけだと厳しいってわけ)

(な、なるほど……。クリアジェネシスだけでも厄介なのに。しかも、学習すればするほど強くなる性質もある。それは確かに恐ろしいね)

(そうそう。だからあまりこっちの戦闘を見せたくないんだけど……。ま、今は3周目が相手してるから取り合えずは大丈夫そっか。てか時間かけ過ぎだよね。起動直後のダルエル相手に、何分かかってんだろ? いくらなんでも時間かけ過ぎでしょ。“3周目も”あとでお仕置きだね……)

 2周目はあっけらかんと言うけど、私の知らない過去の周回で、どれほどの死線をくぐってきたのだろうか。明らかに戦闘経験の量が違い過ぎる……。さっきの透の一撃は死んでてもおかしくなかったのに、2周目は顔色一つ変えていない。

 え、というか今、一瞬気付かなかったけど“3周目も”って言わなかった?

(…………)

 2周目怖い。

 1周目も怖いけど、2周目はまた別の意味で怖い……。ストイックで取っつきづらいと思ってた3周目が実は一番優しかったんだね……。

(最弱ちゃん、透相手に無理に距離は詰めようとしなくていいよ。黒の矢も多用してこられるとなると、近距離戦だけだとこの先対応できなくなる。中距離戦をやろうか)

(中距離……戦?)

(まずはお手本を見せてあげる。キミも形態化を使いこなさないとね。私がやったのを、見様見真似で学びながら1分で習得しよう)

(で、できる……かな?)

(できなきゃ死ぬだけだよ。いくら最弱のダウングレード体とはいえ、マザーをほぼ単独で撃破できた実力はあるんだから、やれないわけない)

(……や、やるだけやってみる!)


「――――よし。じゃあ、行こうか。覚悟さえあれば、どんな道も行けるから」


 2周目の掛け声と同時。

 透の左手から第二波の黒き矢が解き放たれ、即座に反応した2周目のタクトの先からも大量のジェットブラックジェネシスの矢が放出された。


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