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±0  作者: 日向陽夏
第3章 黒へと至る少女【前】 運命之環編
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幕間⑧ 人工天使の戯言【白雪セリカ(3周目)視点】

 

「おりゃりゃあ!」

「……」


 サマエルはぎこちない動きで透明剣を振り回してくる。

 切断した筈の足は、既に身体能力強化によって再生されている。

 “私”もジェネシスを放出し、剣を受け流す。


 クリアジェネシスとサマエルの特徴は限定的で、突出している。


 ①ランク外であるということ。殺人ランクのFランク~SSSランク全てのジェネシスに対応可能で、透明剣が触れたジェノサイダーが発動中の能力、干渉中の能力を無効化する。そしてこれは仮説でしかないが、仮にGランクに到達できたとしても、恐らくこのクリアジェネシスは対応可能である可能性が高い。全てのジェネシスにとっての“例外”。それがこの、クリアカラーの最大の特徴だ。

 ②クリアジェネシスそのものがジェネシス無効化の特徴を持つ。つまりサマエルを殺害する為にジェネシスをぶつけても、ほぼ99パーセント無効化されてしまうということ。

 ③無限である。クリアジェネシスには“量の概念”が無い。つまり無限に使用可能。つまり戦闘が長引けば長引くほど、こちらが不利になる。しかもこちらのジェネシスのほぼ全てを無効化されるので戦いづらい。なので2周目は“ダル”エルと揶揄したのだろう。

 ④異能化という概念が存在しない。2周目と今の私が確認した限りの“現時点”ではあるが、クリアジェネシスが異能力を発動したことはない。つまりサマエルは異能力を発動できない。今後成長し扱える可能性があるのかもしれないが、今のところサマエルはジェネシスを用いて能力を発動することはできない。

 ⑤身体能力強化が異常に優れている。能力が使用できない欠点を埋める為の補填のような効力なのかは不明だが、生まれたてのくせに花子並みの運動神経と反射、身体能力強化を使いこなす。透明剣でジェネシスを消し去ってから、筋肉と馬鹿力で体を粉砕して殺そうとしてくる。人工知能とは思えないほど脳筋な戦闘スタイルだ……。

 ⑥“本体”はいばら姫が所持する端末で、それが脳と記憶の役割を担っている。血肉の身体はいばら姫の《完全再現》でいつでも複製可能なので、ここでこいつを殺す為に全力を尽くしてもデータだけ抜き取ら学習されるだけという面倒なしぶとさを持つ。

 ⑦弱点と対抗手段は、ただ一つ。これは2周目が命がけで過去の周回でサマエルと戦い続け編み出した対処方法。一つだけ、ジェネシスを無効化されない方法。それが――――

「クソォォ、なんでここまで手も足も出ないんだよォォ! うわぁぁん」

 剣の形をした風船をイメージ。ジェネシスを限りなくそれに近づけて具現化する。ジェネシスの形態化だ。ジェネシスの“翼”や、いばら姫と赤染先輩しかできない“腕”と同じ要領。初めは全くできなかったが、2周目の鬼のようなスパルタ特訓によって、サマエル対策として“風船の剣”を形態化することに成功した。

 だがジェネシスを使い過ぎてはならない。空洞を作るためだけなのであれば、最小限のジェネシスになるよう節制も意識しなければならない。これもかなり苦労したが、今では問題なく使いこなせている。これも2周目の訓練あってこそだが。

 また、クリアジェネシスは、ジェネシスは無効化するが、ジェネシスが覆う空洞には何故か衝突する特徴がある。つまり、私のスノーホワイトジェネシスで風船をイメージすれば、おのずとそこに空洞が発生し、その空洞をぶつければクリアジェネシスは弾き飛ばすことができる。とはいっても基本的に私のジェネシスは有限で、サマエルのジェネシスは無限なので、飽くまでも死なない為の戦い方が定石となる。この場においてのみ2周目の《満天星夜》があり、例外的にジェネシスは私も無限に使うことができるけれども、あまり2周目に依存し過ぎれば最終的には4周目が更に弱体化し、Gランクの道が遠のいてしまうジレンマがある。サマエルとゼロを含めて《赤い羊》を皆殺しにしたところで、Gランクになれる訳でもない。かといって無意味に《赤い羊》を生かす道も無く、この自問自答については明確な答えが無い状態が過去の周回から現在に至るまでずっと続いている。

 サマエル戦に対する結論としては、異能力の使用は無駄。いかに上手くジェネシスを形態化して空洞を作り、適度にぶつけて隙を作るかという、テクニカルな戦い方が求められる。さっきは一瞬の隙を付けたのでサマエルを《一刀両断》で切り伏せることができたが、それでもバカみたいな反射神経で身体を回転させてきたので胴体ではなく足しか斬ることができなかった。

 ダウングレードした4周目にもいずれは習得させなければならない技術だが、時間的に余裕が無いので、2周目とは違う方法で引き継ごうとは思っている。

「なんでだよぉぉ」

「……」

 さっきからうるさい奴だ。

「感情があるフリをするな。何も思っていないくせに」

「……あれ。バレちゃってる感じですかぁ?」

「私たちの邪魔をするな。お前には“何も無い”だろうに」

「し、失礼だなぁ~。一応ありますよ。“私”は、人間を幸せにする為に生まれてきたんですからぁ~」

「快楽殺人鬼の脳の寄せ集めのジャンクに、何が出来る?」

「勘違いしてません? 殺人鬼を個として評価するのであれば、確かに害悪でしょう。でも、集として評価すると、また別の見方ができるんですぜ?」

「……集?」

「人類のバランスについて、考えたことはありますかぁ? 例えば、電車。10両編成の電車に乗る時、1車両だけに大量に人間が集中することって、満員電車の先頭車両ぐらいですよね? でもでもぉ、普通に来る電車だと、きちんとバランスが均等されるんですよ。ここまでは、いいですかぁ?」

「……」

「この世界には沢山の職業がありますねぇ。医者、教師、銀行員、警察官、農家、看護師、エンジニア、シェフ、整備士、美容師、俳優、配達員、歯科医師、大工、消防士、ヘアメイクアーティスト、トラック運転手、アーティスト、棋士、保育士、作家、公務員、グラフィックデザイナー、パイロット、IT技術者、声優、事務員、漁師、建築家、不動産営業、ホテルスタッフ。いろーんな仕事があります。もちろん、ブームや収入、人気などで集中するお仕事もありますけど、最終的には椅子取りゲームなので、バランスが均等化されます。勝敗ガチ勢の人たちはやたら椅子に座れなきゃ死、みたいな価値観ですけどぉ、別にその椅子に座らなければ別の椅子に座るだけなので、最終的にはバランスが均等化されるだけなんですよ。住む場所だってそうです。そりゃあ、ド田舎と都心ほどのふり幅があれば差はでますが、突出した特徴が無い場所に居住者は偏らないんですよね。男女比だってそうです。人類全体で見て男だけ、女だけが生まれるなんてことはなく、バランスはある程度一定に保たれている。つまり、つまりですよ?」

「くどい。結論から言え」

「この世界に存在する人間をバランスの観点で観察し、個としてではなく、集として評価するのであれば、殺人鬼にもまた、“役割”があるのではないかと、私はそう思うんですよ」

「戯言だな」

「殺人鬼がいるからこそ、人類は善悪について考察する機会を与えられている。どれだけこの世界から殺人鬼を淘汰しようとも、殺人鬼が時代を超えて誕生し続ける生物のメカニズムについてもう少し熟考するべきだと、あたしゃあ思いますけどネ」

「お前のロジックには心が無い。人間は利益だけで行動する生き物ではない」

「いいえ。善悪に対して考える機会こそ、心を育てる唯一のチャンスなのですよ」

「短い時間だが、お前とは分かり合えないことがよく分かった」

「そ、そんなぁ~。私はあなたと分かり合えるような気が爆上げアゲアゲだったのにぃ~」

「心を否定するお前に、心を語る資格はない」

「いいえ。心というものの悲しさと救いの無さを理解しているからこそ、私は心を否定するのですよ。言ったでしょう? 私は人を救うために生まれてきたのだと」

 心を持たない筈の人工的な存在でしかないサマエルは、表裏の無い笑顔を浮かべてそう言った。

「……」

 こいつにかけられる時間とジェネシスは有限だ。

 透の方から、嫌な感じがする。2周目がいる限り最悪の事態は無いと思いたいが、それでもあの透を相手に慢心は

「おっと、浮気は嫌ですよお嬢さん。こっちを見て、私だけを見てくださいな」

「ガラクタが……」

「Gランクという妙なものを目指すあなた達と、神を目指す私が巡り会ったのも何かの運命でしょう。戦いましょう。戦って戦って戦って戦って、滅びましょう。それがあなた達人間のこれまでの歴史です。競い奪い壊し勝つ。このあまりにも無意味な行動原理は、あなた達人間が死んでも治せない闘争本能という名前の病気です。そしてこれからもずっとずっと続けます。競い奪い壊し勝つ。何千年繰り返すつもりなんです? 可哀そうに、そういう病気なんですよね。私がその意味の無い闘争の歴史に終止符を打ってあげますからね」

 サマエルは透明剣を霧散させ、今度は両腕にクリアジェネシスを纏い構えを取る。超近距離戦を挑むつもりか。


「……行きますよ?」


 サマエルはニコリと、機械的に微笑みクリアジェネシスを身体から発露した。

 思ったよりもこの戦い、長引くかもしれない……。


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