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±0  作者: 日向陽夏
第3章 黒へと至る少女【前】 運命之環編
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幕間⑤ 託し、託されて【赤染アンリ視点】

 

「大分、セリカと引き離されてしまったわね」

「……」

 私とシスターはゼロを全速力で追っていた。

 ゼロはジェネシス切れに近いにも関わらず、私達と距離を一定に保ちながら、空中を高速飛行している。

 当然、セリカも追ってきていると思っていたのだが、セリカは透を討つ為にあの場に残ったらしい。

 確かに、ゼロを追いながら透に追われる挟み撃ちの構図は、避けるべき展開ではある。けれど、ゼロをここで始末しておかないと、三人がかりで抑え込めなかったヤツがジェネシスを回復し、再戦を挑んでくることは悪夢でしかない。

 結果的に、私とシスターでゼロを追い、セリカが透を単独撃破するのが最適解ではある。

 しかし、ゼロは意外と粘り強かった。いつまでも追いつけず、十数分過ぎてしまった良くない状況。

 それに、もっと根本的な問題がある。


 セリカは……透に勝てるのだろうか?


 Gランクプランを練る時、アルファにも警告されたことではある。


 ――――透はセリカを殺す死亡フラグの持ち主の一人でもあります。Gランクプランも大事ですが、セリカをSSSにしないことも重要なファクターです。


「……視えない」

 シスターが焦りを見せる。

「視えない? どういうこと?」

「セリカをチャネリングで視ようとすると、闇しかない。何らかの能力で、セリカをチャネリングで視ることを妨害されている。試したけど、声も届かない。……かろうじて、薄ぼんやりとした白いジェネシスが視える。これは恐らく、セリカのジェネシス。これを視るしかない」


 《未来予知》――ミライヨチ――


 シスターがセリカの死の未来を改めて視る。


「……赤染アンリ。私は、引き返す」

 シスターは額に汗を浮かべ、顔色が明らかに悪くなっている。

「……何が、視えたの?」

「時計台を……壊さないといけない」

「時計台?」

「話している時間が無い。このままでは、確実に負ける」

「……セリカが一人で残ったってことは、透に対する確実な勝算があるってことじゃないの?」

「分からない。でも、この予知は誰かが変えないと変わらない」

「なら、私が行こうか?」

「あなたが行っても未来が変えられたかどうか現場で判断できない。即時判断が求められる状況なら、私が行くしかない」

「確かに……そうね」

「ゼロを任せてもいい?」

「…………」

 正直、単独撃破する確実な自信は無い。

 三人で挑んで勝てなかった相手だ。ジェネシス切れが近いと言えども、油断も隙も無い相手。最悪、負ける可能性も否めないのだ。

「黒相手に単独でマトモに戦えるのは白、なのよね」

「赤染アンリ。アンタの未来も視たけど、少なくともゼロに殺される未来は無かった。アンタはゼロから能力を一つ奪っていたし」

「ま、どさくさに紛れてね」

 まだ試していないけれど、強力な能力だ。何度もゼロに使われ煮え湯を飲まされたけど、もう私のモノだ。今度は私が苦しめてあげる。

「赤染アンリ。他にも確認したいことが――――」

「あー、今更だけど、アンリって呼んでもらえる? フルネームで呼ばれ続けるのって、なんか慣れなくてね」

「分かった。アンリ」

「で、確認したいことって?」

「セリカから借りたのは、《快刀乱麻》だけじゃないわね?」

「《以心伝心》そのものも借りているわ」

 《以心伝心》。能力を貸与する能力。この能力について、セリカは自分の能力を相手に貸すことしか発想していなかった。

 でも、私はこの能力にもっと別の可能性を見ていた。

 《以心伝心》そのものを貸し借りすることも、可能なのではないか?

 《以心伝心》をセリカから借りている状態であれば、セリカを通さずに別の人間同士で能力の貸し借りができるのではないか、という発想だ。案の定これは実験で上手くいった。

 運命が変動するこの戦いでは、臨機応変な対応が求められる。

 瞬時に対極を把握し、戦局の揺らぎを見極められる人材が持つことで、この能力は最大の効果を発揮する。

 そう最終的にセリカは結論付け、この《以心伝心》を私に託してくれた。

「アンリ。私の持つある能力を、アンタに貸す。セリカの《快刀乱麻》、私から借りた能力、ゼロから奪った能力、この三つを駆使してゼロを殺してきて」

「……簡単に言ってくれるわね」

「アンタならできる。不思議とそう思わせる何かを持ってるから」

「はぁ……。分かったわ。でも、それなら《未来予知》を貸してくれるんじゃだめなの? それなら私がセリカの元へ、シスターがゼロへ向かえると思うんだけど」

「これは言ってなかったけど、私の《未来予知》は脳と精神への負荷が強すぎる。アルファとメアリーのバックアップがあって初めて使いこなせる能力なの。だからアンタに貸しても、恐らくは使いこなせない。だから、セリカの元に行くのはやっぱり私ってことになる。申し訳なくは思うけど」

「……分かったわ。ゼロを追わずに二人で透の元へ行くのも、あまり良い選択肢とは思えないしね」

「代わりに、この能力を託す。手を出して、《以心伝心》を」

 私たちは飛行しながら手を繋ぐ。

 シスターと繋いだ手から、白きジェネシスが流れ込んでくる。

 同時に、私は能力を発動する。


 《以心伝心》――イシンデンシン――


「この能力……。本当にいいの?」

 想定を遥かに上回る、かなり強力な能力だった。逆に、シスターがかなり弱体化されてしまうのではないだろうか。


「“託す”わ。アンタなら私よりも使いこなせると思う」


 シスターは迷いの一切ない目で、私を真っすぐに見てそう言った。まるで、それ以外の言葉が必要ないみたいに。


「それじゃ、また」

 シスターは手を放すと、飛行を止めて私に背を向ける。

「死なないでね」

「お互いにね」

 温もりが消えた右手が僅かに涼しくなるが、別れを惜しんでいる暇は無い。

 私は頭を切り替え、いつまでも飛行をやめないゼロの背中に、意識を集中した。


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