第15話 Clear≒White㉒【白雪セリカ(4周目)視点】
《多重展開》――タジュウテンカイ――
《千波万波》――センパバンパ――
四方八方から、大量の黒い竜巻攻撃。
透は問答無用で、私が防ぎ切れなかったあの一撃を、目で追うのも難しいほどの数で乱射してきた。
《陣頭指揮》――ジントウシキ――
2周目が未知の能力を発動させると、右手にタクトが具現化される。
2周目がタクトを下方に振るうと、透の全ての攻撃の方向が地面へ下方修正され私達ではなく地面を攻撃して能力が霧散する。けれどそれと同時にタクトも消滅してしまう。
《多重展開》――タジュウテンカイ――
《審判之剣》――シンパンノツルギ――
透が上空から剣の雨を降らす。
《陣頭指揮》――ジントウシキ――
けど2周目が再びタクトを具現化して一回転させると、剣の雨はそれぞれの剣同士で刃をぶつけ合って相殺して消えた。
「……力を隠しているようだが、お前……本体よりも……3周目より遥かに“強い”な。最大出力の僕の攻撃の全てをここまで的確に対処するか。しかもたった一つの能力で」
「あー、ジェネシスの火力で押し切ろうとした感じです? まー、過去に私はあなたをサシで倒しているので、力任せではなく、もうちょっと創意工夫しないと私のことは殺せないと思いますよ」
「《冥府魔道》展開時はジェットブラックジェネシスは無限になり、枯渇することはない。その僕がフルスロットルで撃った一撃を相殺できるということは、お前のジェットブラックジェネシスの総量、質量は僕と同等ということになる」
「《冥府魔道》。SSSのジェネシスを無限に、それ以外のジェネシスを枯渇させる地味に初見殺しの能力ですよね。忌々しくも私を黒にしてくれた能力です。SSSにならないとあなたは絶対に殺せなかった。本当厄介でしたよ」
「……過去形か。お前ほどのジェノサイダーがいるとはね。完全に想定外だ」
「誉めても何も出ませんよ?」
「お前がシラユキセリカの総まとめってところか」
「当たりです。初見でなんでもかんでも看破してくるの、相変わらずですね。この感じ懐かしいなぁ。そう、私が実質的なリーダーですね。自分自身達のってのも変ですが、一応指揮者は必要ですから」
「シラユキセリカの中でも、いや、全ジェノサイダー最強の存在か……」
「まぁ、力だけならそれなりという自負はあります。それでも1周目にはかなり劣りますけどね、私」
2周目はあっけらかんと返すが、だからこそ妙な不気味さがそこにあった。
「……」
透が尋常じゃない警戒の気配を見せる。
3周目や私に対する態度とは、明らかに違う。
「あれ、あそこで倒れてるのって……もしかして?」
2周目が一瞬だけサマエルの方に気付いて視線を送った後、3周目に尋ねる。
「はい、サマエルです」
「うわダッルー。あいつ来てんの? この段階で?」
「来てます。足は斬りましたが、再生を始めてますね。4周目の援護の必要があり、トドメを刺す暇がありませんでした」
「……ふむ。確かにおかしいね」
「結が裏切った可能性が……」
「“それはない”よ」
2周目は確信を持っているのか、一瞬で裏切りの可能性を否定する。
「あの子は9割ロジックだけど最後の1割の感情で行動してミスるとこあるからね。何かやらかしたかもしれない。私とは完全に逆だよね。9割感情で1割ロジックの私とはさ」
「では、結はシロだと?」
「そう言ってるじゃん。まーいいよ、この話は。済んだことだし透を殺した後で考えればいいって」
私と3周目にとっては物凄く重要な内容なのだけど、2周目にとってはどうでもいいのかさっさと話題を切り上げてしまう。
「えーっと、キミが4周目ちゃんだね」
2周目は透から視線を反らさないまま、後ろ姿のまま私に話しかけてくる。
「は、はい」
「“弱い”ね。滅茶苦茶。話にならないほど。無様過ぎて涙出そう。下手したら3周目より劣化してると思う。まだ序盤の透戦で“私”を出すなんて、甘えてるにも程がある。もう殺していい? キミ。キミを殺せばこのクソみたいなループから抜け出せるし、私も死んで楽になれるしね」
「……っ」
「こんな雑魚に未来を託さなくちゃいけないなんてね。私はつらいよ」
「2、2周目……。あの、あまり言い過ぎるのは……」
3周目がワタワタし始める。
「反論できる立場? 3周目で終わってないってのも絶望。本来なら想定外の4周目まで走り続けることになるし、全部キミがあの時決断できなかったからだからね? 分かってるの?」
「すみません……」
「結果が全てだから。あんま失望させないでよ。と言ったところで、もう失う程の期待も微塵もしてないんだけどね。失望ならざる絶望って感じ」
「……」
ど、毒舌が酷すぎる……。
結でもここまで酷くない。
「もうこれから3周目は絶望ちゃん、4周目は最弱ちゃんって呼ぶから。はいほら立って、甘えないで。その程度痛くないでしょ?」
よ、容赦が無い……。
私は身体を癒す暇も無く、とりあえず身体中の痛みを堪えながらゆっくりと立ち上がる。
「遅いよ。テキパキして? キミには透を倒してもらうから」
「は、はい……」
「絶望ちゃんはダルエルの相手。あいつ、足切ったぐらいじゃ死なないから」
「ダルエル?」
「サマエルのこと。相手すんのダルいからダルエル。分かりやすいでしょ?」
「ダ、ダルエル……」
「あー、キミはダルエルと戦ったことないのか。前回はいなかったもんね。一応前にも言ったけど、アイツはいばら姫が作り出した人工殺人鬼ね。人工知能と殺人鬼のハイブリッド人間もどき。だからいばら姫が持ってるメイン端末をぶっ壊してから殺さないと何度でも蘇るし、こっちの情報抜かれるのがオチだから、あんま本気で戦わなくていいよ。ていうかね、戦えば戦う程強くなるから、こっちの戦闘スタイルをあんまり学習させないで。絶望ちゃん程度の弱さで適度にぶつけるのが今は丁度いいと思うし。あ、脳は破壊してね?」
む、無茶苦茶言ってる……。
「で、でもこの傷では……」
「あー、はいはい。最弱ちゃんに指示飛ばしたらなんとかしたげる。で、最弱ちゃん」
「はい……」
「キミは透の相手。後方支援は私がやるから、引き続き《諸刃之剣》に戦術を戻して」
「……私がやっていいの?」
「全部なんでも前の周回のウチらが解決しちゃったら、最弱ちゃんは成長しないし存在する意味ないじゃん。ていうか、透戦ぐらい自力で乗り越えて貰わないと、こっからの地獄で生き残れないし」
「それは、そうだけど」
「納得して無さそう。じゃ分かりやすく言うけど、私はもうおばあちゃんみたいなもんなのね。キミは孫みたいな感じ。同じ存在から派生した自我ではあるけど、経験した内容も、自己実現の過程も違い過ぎるからもうここまで来ると他人って感じ。で、孫を甘やかしまくると孫は何もできない無能になるのは分かるよね? どんなに遺伝子が優秀でも、世襲制で甘やかされた馬鹿なガキが家や会社を滅ぼすのと一緒。アンリみたいな例外もいるけど、あれは宝くじ当てるぐらい難しい確率だし。だから世襲制は廃止して、爺さん婆さんは後ろで引っ込んで経験に基づくアドバイスやサポートを若者にして、未来ある若者が前線を託されるのが理想の形なの。何事もね。老人が前に出しゃばって若い未来を潰しておきながら、最近の若いもんはー、って言ってれば世話ないよね? 確かに透を殺すだけなら、私にもできる。でもそれじゃあ、過去の周回をなぞるだけで何も変わらない。私たちは変わらなきゃいけない。その為には、キミに全てがかかってる」
「私に……」
「私たちの敵は、《赤い羊》じゃない。本質を見失わないで。私たちの敵は、自分自身の中にある弱さ。それを克服しないと。《赤い羊》を殲滅しても、Gランクになんてなれない」
「……」
「ていう、過去に失敗したヤツからのアドバイスね。私は強さに固執し過ぎて、Gランクとはかけ離れ過ぎちゃった。だから、キミの弱さには意味がある」
「で、でもジェネシスが……私にはもう」
「それなら問題ないって、大丈夫。ここで進化して、最弱ちゃん。私に、後悔させないで」
《満天星夜》――マンテンセイヤ――
2周目は右手を空へ伸ばす。
透が黒にした夜空へ。
二つの白い月を更に照らすかのように、満点の星空が世界を明るく照らす。それはまるで宇宙を流れる銀河系のように。
そして、力が湧きだす。
満点の星の光に照らされて、私のスノーホワイトジェネシスが呼応し、無限に湧いてくる。
こ、これは……。
この《満天星夜》は………。
ジェネシスを回復させる、能力……?
「――――透さん。私にとっては二度目のセリフになりますが、敢えてもう一度言います。あなたが白を殺す黒なら、私は白を生かす黒。あなたと対極の存在であり続けると決め、それでも黒へと至った私の力です。全てはこの時、この瞬間の為に」
「本当に……ここまで僕を不快にさせるお前たちは、もはや怒りを通り越して称賛を送りたくなるね」
「フフ、皮肉にいつものキレがありませんよ。前回と同じセリフですね。それじゃあ前と同じように、大人しく死んでください」
2周目の不敵な笑みを背に、私は前に出る。
《諸刃之剣》――モロハノツルギ――
捨て身の正義。その象徴。
十字架の剣を具現化して。
――――私は透へ立ち向かった。
後で少し書き直すかもしれない。メンドいので今は先に進むことを優先。
《陰影魔手》(インエイマシュ)とかいう透所持の能力はボツにします。(2025/09/30)