第15話 Clear≒White㉑【白雪セリカ(4周目)視点】
――――終わり、なの?
これで。
ここで……死ぬの?
何か、何かできることは――――
思考は無慈悲な銃声で遮断され、けれど痛みはやってこない。
眩い程の白い光が、私と透の中間を遮るように煌めいて視界が白く染まる。
「……何をしている、サマエル」
透の苛立ったような声が響き、私を庇うように立つのは3周目の後ろ姿。
僅かに息が切れており、どうやらここまで全速力で疾走してきたらしい。
「……っ」
3周目の背中を銃弾が貫通したのか、血が流れだしている。
「こいつマジめっちゃ強くて……」
両足を切断されたサマエルが、断面から血しぶきをあげ、地面に倒れながらヘラヘラ笑っている。
「だが、3周目。お前のジェネシスも限界の筈だ。もう虫の息だろう。無意味な抵抗だ」
3周目の体中にも、生首がまとわりついていて、ジェネシスが食われている。
「……透。この世界には、希望が無いよな」
絶望的な状況の筈なのに、3周目はなぜか不敵に微笑いながら、透へ言った。
「……希望を求めるのは、一種の人間の“病”だ。ただ死へ向かっていく生に何がしかの価値を見出そうとする、中途半端に知能を持った生物の憐れな現実逃避の手段に過ぎない」
「お前は凄まじい人間だ。傑物と言ってもいい。だがお前の唯一の欠点は、お前自身が希望となることを諦めたことだ。どれだけ過酷でも、外側ではなく、人間の内側、心の中を見続ける覚悟がお前には無かった」
「内側? 人の心の中に希望など無い。戯言だな」
「無いなら“創る”。それが、私の……私たちの道だ」
「言いたいことはそれだけか? もういい、目障りだ。もろとも消してあげるよ」
「希望が無い世界で、自分自身が希望となる覚悟。それが、お前に無い、私達の強さだ」
透は3周目の言葉を待つことなく、容赦なくその引き金を引いた。
と、同時に。
《色即是空》――シキソクゼクウ――
「……っ!?」
「……」
3周目の前に、“何か”が具現化される。
具現化されているのは、黒いジェネシスの渦。
まるで蟻地獄のような渦のソレは、黒いのに何故か銀河のような静かな美しさを感じる。
透の水色の弾丸をものともせず、紙切れのように弾き飛ばす。
これは、3周目の《色即是空》……。
一体、何が具現化されたというのか?
透は警戒するかのように目を細め、私は息を呑むしかない。
後ろ姿だから確信はない。けど、3周目だけが、薄く微笑っているような気がした。
「――――2周目、力を貸してくれ」
「……うわぁ、傷だらけ。ギリギリじゃん。キミがいながら何とかならなかったの?」
蟻地獄の渦から現れたのは、漆黒のジェネシスを身に纏う少女。彼女は私と全く同じ容姿をしていた。
強いて言うなら、髪の色、目の色が漆黒だった。
パンパンと3周目の肩を叩いて砂埃を手で払っている。
「予定外の出来事が多過ぎて……」
「言い訳は聞きたくありませんー」
スン、と2周目と呼ばれた少女は3周目から顔を背け、つれない態度を取る。
飄々とした雰囲気は少しだけ、アルファに似ているかもしれない。
「……お前が、ミッシングリンクか」
透が忌々し気に目を細め、2周目を睨みつける。
「ミッシング? ナントカかどうかは存じ上げませんが、どうも今回の透さん初めまして。2周目です。確実にあなたにはここで死んで頂きますので、どうぞよしなに」
丁寧に、しかし挑発的に優雅に微笑みながら、2周目は恭しく透へお辞儀をした。