Prologue②
「アンタならそのぐらい、私が言わなくても考えてるでしょうに。何がしたいわけ?」
「僕と同じ思考かどうかを確かめたかった。僕がいざというときに不在だと、他の司令塔が必要だ。適任は君だと考えている」
「…………私とアンタ、二人しかいないのに司令塔なんて、気が早いのね」
これからジェノサイダーにしようと考えている人材は、みな、癖がとても強い。全員が、快楽殺人鬼になれる器だ。SSの領域に、たどり着ける。そう、今の君と同じように」
僕は試すように微笑み、花子を見つめる。花子から余裕が消え、警戒心と緊張、そして動揺の気配があふれ出す。
「SSって……アンタ、正気なの?」
「僕の目的は以前に伝えたとおりだ。僕はいたって正気だよ」
「……狂っている人間は、自分を狂っていると自覚していないからこそ、正気で狂ったことができる、というわけね……」
「馬鹿だな、花子。僕は狂っているよ。だが、自分の狂気を自覚している。だから狂人では無いよ。狂っている人間は、自分のことを狂っているとは思わないから。ただ、僕はね、見てみたいんだ。それだけなんだ」
「見てみたい?」
「ああ。今のこの社会は、とても退屈だ。誰もが、支配され、そのことに気付かずに、あるいは気付かないフリをして、生きている。金に、権力に、親に、友人に、恋人に、家庭に、ノルマに、なんでもいい。人は何かに支配されて生きている。その”何か”は人によって違うが、僕らは生まれた頃からずっとそうだ。自分の意志で決められた選択など、何も無い。選んでいるのではなく、選ばされている。僕らの人生は、ずっとそうだった。見えない何かに、選択を強いられる。その繰り返しだ。たとえば、生きるということ。それすら僕らは選ばされている。自殺するか、しないか。その選択を無意識に強いられている。何をどうしようが、無意識による選択からは逃れられない」
「…………」
花子にしては珍しく沈黙し、僕の話を聞いてくれている。共感しているようだ。花子はとても聡明で、判断力があり、勝機というものをよく分かっている。だからこそ、僕を見限った瞬間に裏切ってくるだろう。ある程度の知能は、示しておく必要がある。
「全部、ぶっ壊して、”その先”に何があるのか。僕はそれをこの目で確かめてみたいんだよ。フフ」
「…………」
思考を中断したのか、沈黙の質が変わる。僕を恐れるように、それでいてどこか敬うような、妙な視線で僕を見つめる花子。これは、畏怖だ。自分より上の存在。それを自分自身で認めた瞬間、下るか、逃げるか、死ぬか。その三つしか、選択は無い。
「殺人鬼の、殺人鬼による、殺人鬼のための世界。僕はそれを、創造したい。ついてきてくれるだろう、花子? 君の力も、《赤い羊》に必要だ」
僕は花子に手をさしのべる。