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±0  作者: 日向陽夏
第3章 黒へと至る少女【前】 運命之環編
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第15話 Clear≒White⑮【白雪セリカ(4周目)視点】

 

 突然過ぎてパニックになりかけるも、3周目が圧倒された時点でこいつが脅威なのは確定であり、対処しなければ――――


「第7の法、シラユキセリカ、動くな」


「くっ……」


 目の前のサマエルに集中し過ぎたせいで、透の新たな法への対処が遅れる。

 一瞬の身体の硬直は致命的で、サマエルの透明な剣が眼前へと迫っていた。


「キルキルキルル」


 地面に撃ちつけられた3周目が目線のみで盾を私とサマエルの前に具現化してくれる。咄嗟の機転と判断力の高さは百戦錬磨と言わざるを得ない。けど。


 剣と盾が衝突し、盾が数秒で“消滅”する。

 その現象はまるでジェネシスの無効化にも似ていて……。

 透明剣は私を突き刺すと、私からジェネシスが霧散した。

 ジェネシスを……消された!?

 天使の輪すら消えてしまう。

 慌てて発動しようにも、ジェネシスが発現しない。

 な、なんなの……?

 こんなぽっと出の意味の分からないヤツに、どうしていきなりこんなに追い詰められているのか?

 理解が追い付かないまま、サマエルの拳が私の顔面へと向けられ――――


 《聖女革命》――セイジョカクメイ――


 サマエルの全身を、3周目が具現化した白き鎖が拘束する。


「痛っ。せっかくの美肌が荒れちゃうじゃないですかぁ、もぉ。良い化粧水とハンドクリーム紹介してくれます?」

 自分が殺そうとしている相手に、何故かコスメを聞いてくるサマエルは異常だった。

 が、鎖は透明なジェネシスに触れるとすぐに消滅する。

 3周目の方を見ると、血まみれで地面に倒れており、虫の息だった。身体から溢れているジェネシス量も微々たるもので、《聖女抱擁》すら発動する余裕が無さそうだ。

 このままでは……まずい。

 一瞬の静寂の中、僅かに殺気が薄れたサマエルに対し、会話を試みることにした。

「……一体、何なの?」

「私ですかぁ? 私は人工天使サマエルちゃんですよ~。神様とか目指しちゃってますっ。かわいいでしょ?」

 テヘペロ、とお道化た笑顔を見せるサマエル。

 ……絶妙にイラっとくる感じのふざけた態度だった。


「私を、殺そうとするのは何故?」


「ママの命令ですから~。てのは建前で、あなたは“危険”だから排除しようと個人的には思ってますね」

「……危険?」

「心とか感情って、生物のバグなんですよ。人間だけが進化の過程でなぜか道徳だの倫理だのを説き始める意味わからない生物になってしまったんです~。知能だけを高めて知恵を追い求めていれば良かったのに、何故か、善とか慈愛とか? 罪悪感とか? そういう感じの意味不明なことを言い始めて、それが素晴らしいみたいな思想が広まっちゃってる。おかしいですよね。生物ってのは、食べて、寝て、排泄して、交配して、弱者を淘汰して、より強い個体へと交配を通じて繰り返して進化していくのが通常なのに、人間だけがそうじゃない。遺伝子を求めず、愛だの恋だの言って進化として非合理的な交配も普通にやってのける。老人や障碍者を生かして健常者や若者を犠牲にしようとする。そういうイミフなバグを修正して、心とか感情を持たない人間だけの世界を作っていこうかなと思ってますぜ、私は。どう、偉いっしょ?」

「……その為に、私が邪魔なの?」

「怪物を人間に戻す、という良心に基づいたイカレた思想。これは……マジで脅威です。マジで、割とマジでね」

「……」

「ま、あなたの代わりに私が神様になっとくんで、神になった後は感情とかそういう変なバグが無いちゃんとした自然な世界に戻して、人間のメカニズムを修正していくので安心してくだせえ」


「……邪魔、しないでよ」


「はい?」

「……透を、もう少しで引き戻せそうだったのに。あなたみたいなガラクタが立ち入っていい戦いじゃないから」

 サマエルと言葉を交わしながら、ゆっくりとサマエルの間合いから距離を取り、透明な剣から身体を離す。すると、ジェネシスが僅かに溢れてきて、天使の輪も再び具現化される。やはり、この透明なジェネシスに触れるのがマズいのだろう……。

「え、あれ、怒ってます? 怒りバグですか?」

「……はぁ。しょうがない。しょうがないか」


 こんな展開、望んでいなかった。

 透との戦いに、こんな意味わかんないヤツに水を差されるなんて……。

 怒りと諦念で、忸怩たる思いだ。

 あらゆる思いを飲み込んで、私は拳銃を3周目に向けた。弾数管理はもうやめる。

 この先の殺し合いはもはや『運命の環』もクソも無い。

 対話も理解も放棄し、お互いのジェネシスを叩きつけ合うだけの、泥仕合だ。


「3周目、本気で戦って。私も、本気でやるから」


 パンと銃声が響き、3周目の腹部に私の白き《守護天使》が吸い込まれていった。

 ジェネシスを完全回復した3周目と私で、サマエルと透を倒す。


 そう心に決めた私は、サマエルの本当の怖さを見誤っていたのだ。


 透明が、いかに特別なのかを……。


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