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±0  作者: 日向陽夏
第3章 黒へと至る少女【前】 運命之環編
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第15話 Clear≒White⑭【白雪セリカ(4周目)視点】

 

「僕は……」

 透の顔が歪む。

 悪を愛するのにリリーを殺した私を憎まないと指摘した時と同じ顔。

「あなたの本当の願いは、自由の獲得ではなく、ジェネシスによる世界平和の実現と調停。その実現方法は現存する人間を全て殺人鬼にし、実力を拮抗させること。あなたが本当に欲しいものは破壊や殺戮ではなく、悪による人類救済」


 透の人間としての姿が、見えた。今、初めて。


「あなたに聞きたいことは、ただ一つだけだよ」


 私は透の目を真っすぐに見据えて、この一言を問う。


「――――あなたの本当の願いは、悪を愛することだったの?」


「……っ」


 透は苦痛に顔を歪め、顔を掌で覆い、立ち姿がぐらつく。

 透の人間としての部分に、私の声が届いたのかもしれない。


「くっ……。第6の法……。白雪セリカは即座に自殺しなければならない……」

「私は、その法を許さない」


 透が宣言するも、私が否定すると第6の法は発動しない。

 私の《白夜月光》がそれを許さない。

 《白夜月光》の真の能力効果は、あらゆる因果干渉能力を“半減”させること。

 つまり透の《絶対王政》の10の法の内、5つの法を指定して発動させないことができる。

 でも、もう舌戦の結末は決まった。透の対話がジェネシスを乱用した暴挙に変われば、それはもはやただの駄々に過ぎない。

 確かに、透の思考力は私では一生追い付けない程の領域に達している。

 でも、“感情”という観点には人によって優劣も無ければ、勝敗も無い。

 私は透の感情だけを直視し続けた。

 だからこそ、一瞬だけ見えた透の人間の部分を、捉えることができた。

 でも、それは私にとって新たな壁が立ちはだかることになる。

 なぜ平和を願う聖人が、悪を愛すると嘯き、殺人鬼だけの世界を作ろうという思想に至ったのか。

 その計り知れないほどの絶望と狂気は、私にとっても無視できない問題だ。

 その絶望に共感してしまえば、私の黒への扉を開くカギになりかねない。


「……透」


「だ、まれ。そう……か……殺しておくべき、だったな。最初に……どんな手を……使ってでも……ナメ過ぎたか……。ヒキガエル……君が正しかった。僕は……白雪セリカ……お前は……僕の……最悪の敵……だ……」


 透の歪んだ表情と、怒りに似た目が私を捉える。

 余裕綽々だった透の仮面をはぎ取ってしまった代償は高くつくかもしれない。

 ここから先の透は、あまりにも未知数過ぎる。

 死に物狂いになった透がどれほどの力を見せてくるか、想像するだけで背筋に来るものがある。

 私がごくりと喉を鳴らすと、頭上から“何か”が降ってきた。

 まるで隕石が落下したかのような衝撃音響くのと同時に、砂煙が私と透の空間の間に揺れる。


「お取込み中、失礼しまーす。私は、人工天使サマエルと申します。えーっと、白雪セリカさん? を殺しに来たんですが……あなたで合ってます?」


 砂煙が消えると、現れるのは一人の少女。

 にこやかな声からは人間味を感じず、紫色のセーラー服を身に纏った、眉目秀麗な乙女からは透明のジェネシスが溢れ出している。

「……誰?」

 見たことが無い。けれど、一目見た瞬間に絶望にも似た恐怖が心の底から湧き上がってくる。


 《一刀両断》――イットウリョウダン――


 消極的だった3周目が目の色を変えて、サマエルと名乗った少女に飛び込んでいく。


「え、二人いるんですけどぉ。ちょっともぉ、どうなってんですか? どっちも殺せってことですか~?」


「――――カハッ」


 3周目の両腕が吹き跳び、腹部が粉砕されて、血しぶきが噴き出し、後ろへ吹っ飛んで地面に叩きつけられる。

 な、何が起きているの……?


「いったぁ。この肉体、痛覚までちゃんとしてんですね、さすがママ」


 サマエルと名乗った少女は顔をしかめながら、3周目を粉砕した血塗られた右手を痛そうに左手でさすっている。


「それじゃあ、ちょちょいのちょいでいきますよ~? キルキルキルル~」


 透明の剣が具現化され、サマエルが両手で握り、透を阻むかのように私の前に立つ。


「白の力ってやつ、見したってください」


 無機質に微笑み、サマエルは私に突っ込んできた。


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