第2話 インモラル・エクスタシス③
「死ねぇぇ!」
モタモタしていたところを、捕食者が見逃す筈も無い。
セリカの背後から、突進してくる男子生徒。
――――まずい。このままではセリカが死ぬ。
それを見て俺は自らの中に力がわき出してくるのを感じた。
「死ぬのはお前だ虫けら」
誰の声だ? ゾッとするような、男の声。自分の声だと気付くのに、数秒遅れる。
全身から溢れるジェネシス。インディゴブルーだったそれは、一瞬でスカーレットへと変色する。自分でも驚愕するほどの速度で、俺は一瞬でセリカの背後に立っていた。両足にまとわりつくのは、スカーレットのジェネシス。ああ、これが身体能力強化か? 興奮している筈なのに、思考はどこか醒めていた。
「死ねゴミ」
剣を振るい首を撥ねる。あまりにもあっけなく、男子生徒の首が視界から消えた。
「きたねえ血だ、な」
断面から噴水のような血しぶきが迸り、俺は右手を翳し、ジェネシスをバリア状に展開する。少しタイミングが遅れ、顔に少し返り血がかかる。
バリア化の方法は頭で考えず、咄嗟に無意識下にやっていた。できていた。分かる、何故か分かる。俺にはジェネシスの使い方が分かる。
「う、うわあ」
「こ、こいつ」
周囲の生徒がざわめく。雑魚どもが騒いでいる今が好機か?
ここでの最善手は離脱のみ。それは結も判っているのか、うろたえることなく、敵襲に備え冷静に辺りを見回している。流石は俺の妹。
「セリカ、走れないか?」
俺は尋ねるが、セリカは恐れるように俺を見つめる。
「……俺が怖いか、セリカ」
俺が問うと、セリカはハッとした顔をする。
「そ、そんなことないです。だ、だから……」
「?」
「そんな悲しそうな顔、しないでください」
セリカは苦しげに、呟くように言う。
「…………ああ。行くぞ、セリカ。お前は何があっても俺が守る」
俺は剣を消すと、セリカをお姫様抱っこしながら、結に声をかける。
「上から離脱する。お前も来い、結」
「…………」
少しむっとしながら、結が睨んでくる。いや、べつにイチャついてないからな。
「結、身体能力強化は即興でできそうか?」
「多分ムリ。あとで合流する。私は私で切り抜けるから」
そう言う結からは、グレイジェネシスが沸き出していた。灰色、か、強度はどのぐらいなのだろうか?
「……できるのか?」
「私を信じて」
結は真っ直ぐに俺の目を見据え、頷く。
「っ、了解した」
ズルいなぁ、と思う。こういう頼み方をされたら、何も言えなくなる。
「いくぞ、セリカ。舌を噛むなよ」
「へ?」
セリカのマヌケ面が可愛かった。俺はジェネシスを両足に纏い、跳ぶ。
一瞬での跳躍。大地が遠くなる。天井はバリア化で突き破ればこの場は撤退でき――――
「っ!?」
「やはり百鬼君は早めに摘んでおかないと駄目ね。こう見えてキレ者なの、見抜いてるのよ私。あなたは簡単に敵にも味方にもできない人材。成長する前に確実にここで殺す」
空中で、赤染が俺の進行方向に割って入ってくる。こいつ、いつの間に空中に!?
剣を構え、いつでも俺を殺せるよう準備していたのか。




