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±0  作者: 日向陽夏
第3章 黒へと至る少女【前】 運命之環編
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第15話 Clear≒White⑧【白雪セリカ(4周目)視点】

 

 《諸刃之剣》を4撃入れることができた。


 ①狂人育成→起死回生

 ②証拠隠滅→一蓮托生

 ③主観盗撮→気配察知

 ④帝王抱擁→聖域結界


 透の能力を私の能力で相殺したものはまだ4つ。透の能力総数は分からないけれど、ゼロになるまでやってからが本番だ。特に強力な異能力ほど早く封印したいけれども……未だ手ごたえが無い。透も運が良い傾向があることは確かだ。

 だが、“別の問題”もある。

 私の能力総数が透の能力総数を下回っていた場合、全ての戦略は破綻してしまう。

 あまり頭を使わず意志の力だけでここまで来てしまったけれど、この透と《諸刃之剣》を使って戦う道は本当に正しかったのか?

 いや、迷ってはいけない。この戦いに関しては3周目が制御している。前提として破綻していれば、そもそも3周目が何か言ってくる筈だ。

 信じろ、自分を……。

 自分を信じられ無くなれば、終わりだ。

「……」

「……」

 透はじっと私を観察していた。

 透からはこれといって感情というものを感じられない。戦闘中だというのに、緊張感も高揚感も無く、ただじっとこちらを観察している。

 透の怖さは……思考が読めないところだ。なのにこちらの思考は読んでくる。そして被せるかのようにダブルバインドで心を掌握しようとしてくる。

 悪魔。その言葉が一番しっくりくる。

 無心でひたすら攻撃すべきなのかもしれないけれど、一瞬の判断ミスが致命傷に繋がる以上、慎重にならざるを得ない。その行動すらも選択させられているのかもしれないけど……。

 3周目は私に入れられたダメージを即座に《聖女抱擁》で癒し、再び透の《紆余曲折》の射程外で待機している。飽くまでも裏方に徹するらしい。私の進化を望んでいるのであれば、当然の立ち回りではあるけど……。

「あなたが人を黒く染めることに特化しているのであれば、私はあなたを徹底的に洗い出して、その中に白がないかを見ていこうと思う、と君は言ったね」

 唐突に透に話しかけられ、動揺する。

「……」

「《諸刃之剣》の終局地点を考えていた。全ての能力を封印し、ゼロになった後、それで終わりなのかどうかを」

「……」

「恐らくはまだ先があるんだろう? 能力を封印するのは、前触れに過ぎない。これは僕の想像でしかないが、もし君が僕の中に白を見出す為に《諸刃之剣》という能力があるのなら、ジェネシスの色を変える力もあると考えるのが自然だ。殺人ランクを強制的に“ダウン”させる異能力。全ての能力を封印した後、その剣で斬られた相手はSSSからSSへ堕ちる。それを繰り返し、最後に届くのはFというのが僕の仮定だろうが、合っているかな?」

「……」

「何故僕が君に負け続けたのか、その理由は未だに分からないが……。君のGランクへの狂気じみた執念が重要なファクターであることは確かだ。純粋に好奇心で聞くんだが、なぜそうもGランクに拘る? 《赤い羊》をただ皆殺しにするという正義の道もあったろうに。僕を殺せる程に強いのであれば、繰り返す必要すらなく、君は勝利できる筈なんだ。何故、敢えて繰り返すのか……。僕を簡単に殺さず、ランクダウンさせる戦術に拘ることに、答えがある気がするね。僕は、僕を超える怪物を育てたい。実際、その候補は数人《赤い羊》にいる。オメガですら、僕を超えていった。だが君は、僕が考え得る以外の方法で僕を超えようとしている。知りたいよ、君のことが」

「わ、私は……」

 問われ、戸惑う。その答えは確かにここにある筈なのに、言葉にするのは難しい。

「私は、先輩を、取り戻す……為に……」

「それ“だけ”なのかい? ちゃちな恋愛感情だけでここまで来れるとは到底思えないが……。僕らは決してぬるく無い筈だ。恋愛感情だけで突き進んで突破できるほど、リリーもヒコ助も、そして僕も甘くはない。力を持つ殺人鬼を前に、常人が単独で相手取った場合必ずその心は折れる。だが、それでも君は諦めない謎めいた底力がある。その力の根源すら、もう忘れてしまったのかい? 繰り返されていく世界の中で、自分自身を失いながら、それでも前に進む君は一体何がしたいんだい? Gランクとは“何”だい?」

「救済のジェネシス……。それだけは、はっきりしてる」

「“誰”を救うんだい?」

「誰、を……」


 ――――自分自身を救いなさい。迷わないでセリカ。その為に、ここまで繰り返したんだから……。


 思い出せない記憶。誰かの声。

 そう、私は“救済”のジェネシスを目指して、その為にGランクになることを目標にこの狂った『運命之環』に身を投じた筈だ。

「……僕も、君に興味が湧いてきたよ。ただの敵としてしか見ていなかったが……フッ、悪以外に僕の興味そそるものがあるとはね。命なんて無価値だと常日頃から思っていたが、案外、生きてみるものだね。お互いに生きていなければ、君と僕の出会いは無かったことだしね」

「人と人の出会いを尊べるのに……。どうして……どうしてあなたは、人を殺すの?」

「殺人鬼に対し、何故殺すのかという問いは全て無意味だよ。殺人鬼の殺人行為に特段の意味は無い。大概が、好奇心、性欲の発散、単純な八つ当たりや怒り、嫉妬など、言ってしまえば、道端に吐き捨てられたガムと同じくらい、取るに足らないものだ。そして僕はその問いをされたら必ずこう問い返すことにしている。何故人は人を殺さないのか? とね。殺さない前提での問いは傲慢だろう。僕らは生物だ。生き物を殺して生きるよう予め設計されている存在なんだよ」

「あなたはそこらへんにいるただの殺人鬼じゃない……。それに、一般論もけむに巻くような哲学じみた問答も求めてない。私はあなたに聞いているんだよ、透」

「随分、買いかぶられたものだね。そうだね、まぁ、いいだろう。君にはきちんと答えようか。僕が人を殺す理由を」

「……」

「救う、為さ。救済という言葉。そこに拘っている点だけは、君と僕は似ているのかもね」

「……救う? 人を殺すことが、一体、誰を救うっていうの?」

「そうだなぁ、これは……話すと長くなる。ただでさえ僕の話は長いし……。まぁ、せっかくだ。殺し合いながら語り合おうじゃないか。ひとまず、僕にあと1撃入れることができれば、この続きを話してあげるよ。期間限定で育ててあげよう。僕好みに……ね」


 そう言って透は急に私の間合いに飛び込み、近接戦をしかけてきた。


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