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±0  作者: 日向陽夏
第3章 黒へと至る少女【前】 運命之環編
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第15話 Clear≒White⑦【透視点】

 

 白雪セリカの闘志を適当に煽りつつ、僕は自らの思考にも集中していた。

 考えるべきは、白雪セリカとオメガの“ダウングレード戦略”についてだ。

 なぜ、敢えて退化を目指すのか? そこがどうしても分からない。一対一で真剣に戦えば、僕は恐らく3周目には勝てない。それほどの強さを3周目は既に保有している。

 それから、彼女たちは致命的なミスをしている。それは、僕に情報を与え過ぎたということ。僕を前にして『3周目』、『4周目』と呼び合うなどというのは失態という他ない。繰り返した回数の数で、推定できる情報が露出してしまうからだ。

 オメガはそこまで思慮しなかったのか? お互いの呼び方について。もしオメガが気付いて放置したのならそれは白雪セリカに対する裏切りに他ならない。それか、この程度の情報なら露出しても問題ないと考えたのか……。

 いや、そもそも透明化して僕をいつでも殺せたのに見過ごした時点で、結果は明らかか。だがオメガは引っかかることも言っていた。“お前の存在はセリカの成長に必要だだ”と。具体的に、どうすれば白雪セリカの“成長”に僕の存在が繋がるのか、そこが見えてこない。僕が元はFランクであることが関係しているのだろうか?

 この世界が繰り返され、僕の過去の名前をオメガが知っているのであれば、僕が元Fランクであることまで把握できている可能性は高い。

 ……まあ、いい。

 明らかにはなっていないが、彼女たちの会話のやりとりから、白雪セリカは全ての未来で僕を殺せていると考えた方がいい。確かにそう考えると、“運命”と呼んでもいいかもしれない。

 だが……3周目のサポートが無ければ、何度か僕は4周目を殺せているというのも事実。3周目を殺し、4周目を殺せば、この繰り返された運命の環の循環は終わる。僕の勝利条件は単純明快だ。そしてもう3周目は僕の《聖者抹殺》によって拘束済み。

 あと一手。あと一手でチェックメイトだ。

 だが、オメガのあの確信じみた態度が引っかかる。


 ――――お前はもう終わっている。私にとっては、アルバムをめくるような感覚でしかない。


 ここまで……言えるだろうか?

 あやふやな勝算という要素ではなく、もっと核心的な……白雪セリカの勝利を確信できる“何か”があるとでもいうのか?

 僕のことを花子、いばら姫、ヒキガエルと同じぐらい近い立ち位置で見てきたオメガは、僕のことを誰よりも理解している筈。部分的にではあるが、僕の黒きジェネシスについても。それでも白雪セリカが勝つという絶対的な信頼はどこから来る?


 ……分からない。だが一つ言えるのは。

 白雪セリカがGランクになれるか、なれないかに関わらず、僕は白雪セリカに殺されるということ。結果が一つしかないのであれば、どれだけ過程が分岐したところで結果は一つに集約される。未来へのロジックツリーが存在するのであれば、僕の死は揺らがないということ。だから“運命”。

 しかしやはり、3周目を殺し、4周目を殺せばその前提も崩壊するという答えに揺るぎは無い。

 そしてそのウィークポイントには3周目、4周目も痛感している筈。

 4周目はこれから死に物狂いで《聖者抹殺》を解除させようとしてくるだろう。

 問題は手段だ。

 直接僕に攻撃し、解除を狙うか。

 《聖者抹殺》の十字架にアプローチし、解除を狙うか。

 方法は二つしかない。二者択一は既にダブルバインドに陥っている。

 その選択を誘導できれば、その時点で僕の勝利が確定する。

 先のように、また上手くダブルバインドで絡め取ることができれば、その時が白雪セリカの最期だ。

 ……が、そんなことは過去の僕でも考えた筈。

 その上で3回、敗北している。

 僕を圧倒するような、何らかの要因を、白雪セリカは持っている。

 オメガが勝利を確信するほどの……。それが、まだ読めていない。

 僕と白雪セリカの勝敗を分けるとすれば、そこに全ては集約するだろう。


「…………」

「…………」


 白雪セリカは僕を睨みながら、沈黙している。

 恐らくは策を練っているのだろう。だが僕を出し抜けるほどの知能は彼女には無い。良心に囚われ、幼く、甘い精神性では僕を凌ぐような策は生まれない。

 能力に関しては、単純に、白雪セリカの厄介なところは、花子のように、突然加速してくるところだ。僕は加速するような能力は持っていない。あまり汗臭く戦うのも好きじゃないし、能力のバランスも中距離特化だしね。が、加速能力はジェネシスの消耗も激しい筈。使いどころを間違えれば、すぐに燃料切れになるのは花子を知っているから分かる。

 そして恐らく、これも憶測の息を出ないが。

 白雪セリカを“殺し得る人間”の持つ能力を相殺できるよう、設計し直されているのではないのだろうか。少なくとも3回も変色を意図的にやり直しているのであれば、可能だ。


「…………」

「…………」


 未だににらみ合いが続いている。膠着状態だ。

 次の行動でミスしてしまえば、白雪セリカの敗北がその時点で確定する。慎重になるのは当たり前だ。

 彼女の心を読む《主観盗撮》が封印され使えないのが歯がゆい。まぁ、もともと《白雪之剣》で無効化されてしまうから意味が無い、か。


「……私は私に甘くない、か」

「……?」


 白雪セリカは呟き、突然苦々しく自嘲する。

 その表情を見て、僅かに胸がざわつく。

 白雪セリカの底力は、死ぬほどの破滅や、追い詰められて初めて本領が発揮される。

 通常であれば人間は追い詰められれば絶望し、学習性無力感に陥り、鬱状態や致死念慮に導かれ自殺する。

 だが白雪セリカは絶望した後、”何故か”希望を自己解釈して生み出しながら立ち上がってくる。

 それが3回も世界を巻き戻して未だにGランクなどというまやかしを本気で信じている怪物の本当の怖さ……。希望を信じる精神異常者。一種の狂人だ。

「透、あなたは次の一手で“詰み”だと思っている」

 白雪セリカは異常なほどの眼光を放ちながら僕を真っすぐに見据えてくる。全ての闇を見透かし照らし出す太陽のような残酷な光がその目には宿っていた。

「……」

 僅かに困惑を覚える。

 確かに考えたが、まさか白雪セリカがそれを口にしてくるとは……ね。

「そして。意味のある弱さなんて無いというあなたの言葉。それには大きな矛盾がある」

 さっきから白雪セリカの言葉には脈絡が無い。僅かに苛立ちを覚える。

「矛盾?」


「――――意味のある弱さが無いのなら、あなたは何故ヒキガエルや花子を育てようとしたの? なぜ、《赤い羊》を作ったの? “弱さに意味はある”よ。それがあなたの自己矛盾。成長し、進化できるのは弱さを自覚している人間だけだから、あなたは完成したものや完全なものではなく、未完成なものの進化に希望を抱いている。完全であり、完成してしまった自分の限界を知っているからこそ、他者に可能性を求めてしまう。それがあなたの“弱さ”なのかもしれないね」


「…………君は」


 今まで誰にも暴かれたことの無い扉を開かれたような、心臓に痛みが走る。


「――――行くよ、透。この一手、確かにあなたが詰めれば勝ち。私はいつも通り捨て身で行くよ。受けな」


 白雪セリカは呼吸を深くしながら能力を発動した。


 《粉雪水晶》――コナユキスイショウ――

 《一騎当千》――イッキトウセン――


 《白雪之剣》の刀身が粉雪とともに輝き、三日月型の鎌鼬のように具現化。

 鎌鼬はあろうことか3周目目掛けて解き放たれる。

 自分で自分を攻撃? 意味が分から――――


 思考が追い付かない。

 困惑する僕の背後に、殺気。

 3周目への対処は既に終了したとばかりに、白雪セリカは僕目掛けて空を飛んで突っ込んできたのだ。


 《千波万波》――センパバンパ――

 《天衣無縫》――テンイムホウ――


「……」

「……っ」


 すり抜け異能力。僕の攻撃は不発に終わる。

 だが白雪セリカは《諸刃之剣》しか使ってこない。

 その甘さがあるならば、僕は3周目にとどめを刺すだけだ。

 拳銃の引き金を3周目に引き――――

 その弾丸は三日月の中に吸い込まれて消滅した。

 そして鎌鼬は3周目の胴体と十字架を切断し、《聖者抹殺》が消滅。

 《白雪之剣》の持つ無効化と、《粉雪水晶》の持つ吸収、《一騎当千》の中距離攻撃、この三つを掛け合わせ、3周目に放てば、3周目にダメージは入るが《聖者抹殺》が無効化され、3周目への僕の攻撃も引き付けられた上で無効化される。

 捨て身の攻防一体……か。

 これは……やられた。


「――――四撃目」


 白雪セリカの白き十字架。《諸刃之剣》が僕の背中を貫通した。


「《帝王抱擁》封印! 相殺指定、《聖域結界》!」


 白雪セリカの言葉が静かに響き渡る。


 《聖女抱擁》――セイジョホウヨウ――


「これは知らない能力だな。名前からも推察できない。でも、そろそろ本命の能力を封印できる頃かな?」


 白雪セリカは不敵に微笑い、僕を静かに見据えていた。

 成長した。この短時間で、確実に。

 これは確かに、ダウングレード体にしかない、可能性と言えるものだ。


 諦めない狂気じみた精神力。進化への意志の力。これが、白雪セリカがFランクの怪物たる所以……か。


 ――――僕は未だに彼女を、測りかねていたのかもしれない。


「透。私は確かに弱い。でも、弱者にしかない強みがある。あなたが花子を、ヒキガエルを育てたように、私も進化してあなたを超えて見せる。あなたが見たことが無い方法で、ジェネシスを希望に変えて。それが、”意味がある弱さ”だよ」


「……フッ、つくづく忌々しい光だね。嫌悪感しかないよ、君の白さには」


 僕と白雪セリカの視線がぶつかり、闘志が交叉する。

 だが、こんな気持ちは生まれて初めて覚えるかもしれない。

 相反する思想を持つ、対等な敵。その宿命の相手との殺し合いと、相互否定の対話。

 君の白き光が僕を照らすのが先か。僕の闇で君が堕ちるのが先か。

 まぁ、どんな結果にせよ。


 ――――君と僕の衝突の果てに生まれるものが、価値あるものだといいね。


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