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±0  作者: 日向陽夏
第3章 黒へと至る少女【前】 運命之環編
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第15話 Clear≒White⑥【白雪セリカ(4周目)視点】

 

「もう、一撃……っ」

 軽い立ち眩みがして、一瞬意識がブレる。

 この感覚は知ってる。リリー戦、シスターとの模擬戦の数々で経験してる。

 そろそろジェネシスが切れる。その、前触れだ。

 でも、まだいける!

 私は透へ跳躍する。


 《紆余曲折》――ウヨキョクセツ――


 《天衣無縫》――テンイムホウ――

 《明鏡止水》――メイキョウシスイ――


「ハァァアアアアーーーーッ!」


「なるほど、君本体がすり抜けているのか。かなり分かりづらい能力だが、ようやく把握したよ」


 透は私の殺気にひるむ様子はなく、じっと無機質な目で観察していた。


 一撃が入る。

 《諸刃之剣》は透の肩から腰へすり抜けて、虚空へジェネシスのみを斬る。

 透からジェネシスが蛇状に溢れ、私の《諸刃之剣》へ吸収される。


「《主観盗撮》封印! 相殺指定、《気配察知》!」


 三撃入れてなお、全てハズレか……。

 全身に痛みが走り、血が溢れ出す。


 《聖女抱擁》――セイジョホウヨウ――


 自分で回復し、透から目をそらさないまま距離を取り、口に拳銃を加え、放つ。


 《守護天使》――シュゴテンシ――

 《聖女抱擁》――セイジョホウヨウ――


 激痛が走る前に回復し、ジェネシスもろとも回復する。

 総装填数は9発。内、黒の弾丸1、赤の弾丸1、白の弾丸7で、先ほど1発使ってしまった。そして今も使ってしまったので、合計白2発の消費。残りは5発。3周目から言われている透戦での白の弾丸使用回数は残り2発のみ。

 ……正直、厳しい。

 《守護天使》ありきでジェネシスを使い過ぎるのは危険だ。

 しかも、さっきまでの戦いで透のメインで使用している異能力は封印できていない。

 そして私も、透戦に不向きな能力の相殺ストックが切れ始めている。次の一撃からが、実質的な本番だ。


「…………」


 透は空中へ翼で移動すると、不気味なほどの沈黙で私と3周目をじっと観察するように見ていた。その目には一切の慢心は無く、魂の根底まで見透かそうとするかのような漆黒の瞳。

 思考力の高さでは千年かけても透を出し抜ける気がしない。事実、確実に追い詰めているのは私の筈なのに何故か冷や汗が流れる。


 《多重展開》――タジュウテンカイ――

 《多重展開》――タジュウテンカイ――

 《多重展開》――タジュウテンカイ――

 《多重展開》――タジュウテンカイ――

 《審判之剣》――シンパンノツルギ――

 《審判之剣》――シンパンノツルギ――

 《聖者抹殺》――セイジャマッサツ――

 《聖者抹殺》――セイジャマッサツ――

 《紆余曲折》――ウヨキョクセツ――

 《紆余曲折》――ウヨキョクセツ――


 何が起きたのか、判断が一瞬遅れる。

 透が大量の能力を発動したことに、ようやく気付く。


「キルキルキルル!」


 3周目が焦ったように盾を具現化し、私にぶん投げてくる。

「っ!?」

 盾に吹っ飛ばされ、私は少しよろめいて倒れる。


 元居た場所には、黒い十字架が突き刺さっており、3周目は黒十字に拘束されていた。私を庇う一瞬の隙を狙われてしまった……っ。

 二本の黒い剣がふわふわと空中を舞い、私へと狙いを定めている。


「剣を見ない! 狙いは銃!」


 連続でのダブルバインド。

 選択する不自由。その呪縛に、まんまと嵌められた……っ。

 3周目の叫び声で即座に《天衣無縫》を発動し、銃声とともに私の心臓部を弾丸がすり抜けていく。

「3周目。君がどれだけ強くとも、ダウングレード体を“庇う”という行動制限がある以上、必ず隙は生まれる。何故なら、簡単に僕に行動を読まれるからだ。行動を読まれるということは、逆算可能ということ。つまり僕に必ずダブルバインドで行動と心理を二拓で誘導、掌握されるというのは、理解している筈だろう? ジェネシス単体での強さなんてこんなもんだ。3周目、君の強さは認めるが、詰めが甘い。だから君はメンタルの強さではオメガも、僕をも超えるかもしれないが、神算鬼謀までは出来ない。それは“不完全な強さ”だ。心理、知能において僕には必ず読み負ける」

「――――っ」

 3周目は身動きが取れず、拘束されている。

 ジェネシスを発動できない……のか?

「僕は、君たちに期待しているんだ。くだらないケアレスミスはするな。瞬き一度分の隙も許されない。白きジェネシスを身に纏い、捨て身で僕の敵として立ち向かうと決めたんだろう? 無様を晒してほしくないな」

 透は容赦なく、銃口を3周目の方へ向ける。

 ジェネシスが使えず、身動きも取れない状態であの弾丸を食らえば……っ。


「――――これが、“守る”者の弱さだ。“意味がある弱さ”など、この世には存在しないんだよ。守る価値も無いモノを守った人間の末路は、くだらなく惨めな破滅だけだ」

 透はそう寂し気に呟き、引き金を――――


 《明鏡止水》――メイキョウシスイ――


 透が引き金を引く数秒前、意識のみを加速させ考えることに全力を注ぐ。

 《全身全霊》も使いたいけど、ジェネシス切れになるまで行動速度を3倍程度に加速させれば、ジェネシスが底を尽きるリスクがある。最小限にジェネシスを節制する必要がある……。

 でも、3周目をここで失う訳にはいかない。

 3周目は生存フラグなのだ。ここで失えば、この先の全ての死亡フラグに対抗する術を失うと思っていい。

 6つの死亡フラグ“ごと”に起動するとは言っていたけど、だからといって《色即是空》で具現化した状態で殺されてどうなるかは完全に未知数。楽観は絶対にできない。

 《守護聖盾》は間に合わない。発動できたとしても銃との被距離の間に精密に具現化できるかは賭けだし、そもそも銃の方が速い。

 どうする、どうする!? どうすれば――――

 一瞬の錯乱で、頭が真っ白になり、その時3周目の視線が私の視線とぶつかる。


「コナユキノツルギを」


 時間間隔がスローとなった世界で、3周目はそう指示を飛ばしてくる。

 能力無しで言葉のスピードに、違和感が無い。私の《明鏡止水》に合わせて、早口で言ったのだろう。さすが私の能力を把握してるだけはある。でも……。

 粉雪……の剣?

 そんな異能力は無い。指示ミス? このタイミングで、それはありえない……。

 いや、違う。そうじゃない!


 ――――全ての能力は他の能力と組み合わせることでその真価を発揮する。


 何度も、何度も何度も何度も、ジェネシスは私を絶望にも希望にも導いた。

 能力は単体で使ってもいいけど、組み合わせてそれが相乗的にハマった時の効果は計り知れない。

 間違いない、コナユキノツルギは組み合わせた能力名!

 3秒を引き延ばしたスローな世界は終わり、私は直感に全てを委ねる。


 《粉雪水晶》――コナユキスイショウ――


 時間は元に戻り、透の銃口から弾丸が解き放たれる。

「――――っ」

 弾丸はあらぬ方向へ転換し、私の《白雪之剣》の刀身に吸い込まれて弾かれる。


 《粉雪水晶》の能力効果。

 粉雪の形にジェネシスを散らし、任意の対象に被せることが発動トリガー。

 放出されたジェネシスを、任意の対象に磁石のように吸い付ける能力。

 それにしても……まさか……こんな使い方が……?

 《守護聖盾》に被せて、ゼロのメアリーへの攻撃である《紫電一閃》を吸い付けたことがあったけれども、そうか……《白雪之剣》に使えば、放出された攻撃の全ては自身に引き付けつつ無効化できる……。これはかなり……強力だ。


「……今ので確信したよ。助言されるのはかなり面倒だ。やはりまずは3周目を殺すことが、僕にとって重要みたいだね。そして……僕が死ぬという運命は、まだ予定通りかい? 君たちの用意した運命は、僕の思考を上回ることができるのだろうか? だが、そんなことよりも。回りくどいやり方の《諸刃之剣》ではなく、《白雪之剣》で僕を殺す方が確実だと思うのは僕だけかな? 君の白き正義で、僕の黒き悪を討てばいいじゃないか。そう思わないかい?」


 透は冷たい笑みを浮かべて私を見下ろしている。相変わらず余裕で、底が見えない。

 ただでさえ、ジェネシスの消耗を抑えて戦わなければならないのに……っ。


「透……っ!」


 確かに、透の言ったことは間違ってない。

 でも、それは今までやってきたことと同じだ。

 それはダウングレードした意味が、潰えるということ。

 透を殺せたとしても、それは勝利ではなくGランクへの道が閉ざされる絶望の道。

 直感的に、そう思う。

 私は繰り返しながら記憶は消えたけど、その感覚だけは僅かに覚えてる……。


「そうだ、その顔だよ。その怯えと怒りが入り混じった表情こそ、本当の意味で捨て身と言えるだろう? さぁ、本番といこうか。君のその綺麗な白いジェネシスを、もっともっと僕に見せておくれ」


 嘲笑う透の視線とぶつかり、私は唇を噛み締めながらその目を静かに睨みつけた。


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