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±0  作者: 日向陽夏
第3章 黒へと至る少女【前】 運命之環編
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第15話 Clear≒White⑤【透視点】

 

「…………」

 能力を一つ、使えなくなった。

 これが《諸刃之剣》の真の力か。だが、それは白雪セリカも同じ。彼女も何らかの能力を相殺指定と言っていた。ブラフである可能性もあるが、彼女の性格を考えると可能性は低い。

 つまりは相互封印……ということか?

 面白い力だ。Fランクの能力は、僕の物差しでは測れないらしい。

 僕のルーツを辿る、と彼女は言ったが、その手段として能力の封印が過程にあるということか。確かに全能力を使え無くなれば、ある程度無力化されてしまう。

 だが……それ“だけ”じゃない筈だ。全能力が使えなくとも、ジェネシスそのものが封印されるわけではない。4周目はともかく、3周目であれば、能力だけがジェネシスの全てではないことも知っている筈。《諸刃之剣》だけでは僕は倒せない。

 が、長期戦で能力を奪われ続けるのは、危険と考えるべきかもね。Fランクをナメれば大やけどでは済まない。

 ……さて、どうしたものか。

 色々即席の作戦は考えてみたけれども、正直どれもピンと来ない。

 繰り返された世界であるという前提で考えるのであれば、最も僕が実行し無さそうな作戦をやってみるべきだろうが、恐らくはそれも過去に実施済みだろうし……。難しい。

 だが、一つだけ白雪セリカには“大きな矛盾”がある。ここを突けば、何か出てくるかもしれない。正直、僕にとってはリスクばかりでメリットが薄い。でも、だからこそやってみる価値はあるかもしれない。

「……」

 4周目の白雪セリカは肩で息をしており、僕に一撃入れられたことがよほど嬉しいのか笑みを浮かべている。緊張感が僅かに欠けているね。これが花子やヒキガエルなら、こんな隙は見せない。白雪セリカはまだまだ甘い……。

 ――――好機、と見るべきか。

 呼吸を深くし、ジェネシスを貯め、両手を白雪セリカに構える。

「――――っ!?」


 《紆余曲折》――ウヨキョクセツ――


 いかにも全力だと思わせられる程度の力、最大出力の7割程度のジェネシスでテレキネシスの能力を発動し、白雪セリカの全身の骨を折るつもりで上から下へ重力操作の如く力のベクトルを加える。


「かは――――っ」


 吐血し、膝を折る白雪セリカ。まだまだ詰めが甘いというか、若いのだろうね。ピンチはチャンスとよく言うけれども、チャンスもまたピンチになり得ることに気付けるようになるまでにはまだ心が熟成し切れていないようだ。

 慌てて《聖女抱擁》を自分にかけているが、絶妙に《白雪之剣》の刀身からは外してあるし、何より永続的に効果を発揮するよう《紆余曲折》を発動し続けている。

 この重圧から抜け出すにはある程度の時間がかかるだろう。

 彼女を放置し、僕は“3周目”の白雪セリカの方へ一気に駆ける。


「……」


 3周目は抜き身の刀のような殺気をその目に宿しながら、静かに僕を見ていた。


「君が戦わないのが最大の謎だ。それを知る為には、君をつつかないとね。戦わないのか、あるいは戦えないのかを」


 《主観盗撮》――シュカントウサツ――


 3周目白雪セリカの心の内を暴こうとするも、何故か不発に終わる。

 《白雪之剣》を構えている様子も無いのに、無効化……されているのか?

 3周目白雪セリカの行動は一貫している。4周目白雪セリカが致命傷を負う時のみ代わりに防御し、後は終始静観。この静観というのが引っかかる。何かを“待って”いるようにも見える。

 あとは、3周目白雪セリカの肉体についても一考の余地がある。カラクリは分からないが、繰り返された世界から来たとしても、それは精神のみなのか、肉体も含めてなのかが判らない。もし後者なのであれば、その肉体は自前で用意したものか、再構築して新たに用意したものなのか。

 初見では、僕は彼女の姿が見えなかった。だが能力は普通に使えているし、精神体が肉の身を突然身に纏ったと考えるのが自然だ。

 最も重要なのは、3周目白雪セリカの持つ、ジェネシスの“含有量”だ。飽くまでも仮定でしかないが、3周目白雪セリカのジェネシスの“総量”には限界であるのではないだろうか? ダウングレード体程のジェネシスは保有していない、その可能性が高い。

 3周目は既に僕との戦闘をダウングレード体時代に経験しているのであれば、どの程度のジェネシスを持っていれば僕に勝てるのかも把握している筈。だからなるべく戦わないようにして、ジェネシスを温存しているのではないだろうか?

 であれば、その予想を上回るような攻撃をしかければ、運命にも綻びが生まれるのではないだろうか。

「やはり化け物か、お前は……」

 冷静な3周目の表情が僅かに曇る。

 やはり、僕のこの行動は予定外だったらしい。

「4度繰り返してなお、お前は全ての時間軸で違う行動をしてくる。運命干渉能力を持っていないにも関わらず、お前は自力で運命を変えようとしてくる」

「それが人の、意志の力だろう? 運などではなく、心の力だ。君と僕の大好きなね」

「……」

 僕の言葉に共感する要素があったのか、心底嫌そうな顔をしてから、3周目白雪セリカは《白雪之剣》を具現化し、構える。


「それだけでいいのかい? その能力だけで」

「お前こそ《冥府魔道》と《絶対王政》無しでいつまでダラダラやるつもり?」

「……フッ、未来を知られているのは厄介だな。キルキルキルル」


 間合いに入る。

 白と黒の剣がさく裂し、剣から溢れるジェネシスの残滓が火花のように散る。


 《千波万波》――センパバンパ――


 ゼロ距離での風圧の攻撃。

 首の骨を折るつもりで、この一撃をぶつける。

 ――――が。


「キルキルキルル」


 僕の一撃は白き盾に防がれてしまう。そして。


 《一刀両断》――イットウリョウダン――


 白雪セリカの白き盾、僕の黒き剣、《千波万波》、腕、その全てごと《白雪之剣》で縦一文字に切断される。

 それは一瞬だった。見えたのは銀色に近い白き光の一線。流れるような、銀の煌めき。

 《白雪之剣》の刀身が淡く輝き、全てが刹那の時の中で両断された。

 剣技を極めた武士の一撃必殺のような、一切の無駄、迷いが無い、芸術的美しさすら感じる見事な一振り。

 まるで空を舞う木の葉を斬るかのように、全てを迷いなく命を切断する正義の光。

 大げさな予備動作も無く、いつの間にかその一撃は静かに終わっていた。

 既に白雪セリカは踏み込みをやめて跳躍し、僕の正面に位置を戻し、僕の腕が血とともに流れるように地面に落ちていくのをじっと見ていた。

「……悪いことは言わない。私には勝てない。私のジェネシスの総量は確かに、ダウングレード体に比べたら1割にも満たない。だから私がロクに戦えないのではないかというお前の読みは間違ってない。でも、お前が今の私に勝てないことに変わりはない。もうそういう“段階”じゃないから」

「……オメガみたいなことを」

「私は、2周目の発狂に近い後悔と吐き気を催す怨嗟を引き継ぎ、過去のお前と、ゼロも、花子も、骸骨も、いばら姫も、ヒキガエルも、全て“この一撃”のもと斬り伏せてきた。でも、だからこそ、この力は次へ引き継がなかった。Gランクは強者ではたどり着けないようにできているから」

「この世には“意味がある弱さ”があるとでも、君は言うのか?」


「――――その答えが、次の私に宿ると信じてるよ」


 3周目白雪セリカの表情はとても静かで、諦念と希望の両方をその双眸の奥底に宿していた。


「ハアアアアッッッ!」


 背後からの鬨の声に気付くのが一瞬遅れ、僕の背中に更なる一撃が入れられる。痛みは無い。だがジェットブラックジェネシスが吐き出される。蛇の形となり、虚空へ解き放たれる。

 背後には《諸刃之剣》を僕の背中に叩きつける血まみれの4周目白雪セリカの姿があった。


「攻撃を焦らない。《聖女抱擁》を疎かにしない」

 3周目が窘めるように言いながら、血まみれの4周目に《聖女抱擁》を放ち、回復させている。


「《証拠隠滅》封印! 相殺指定、《一蓮托生》!」


 “捨て身”の言葉に偽りは無いらしい。

 4周目白雪セリカの目は、ただ僕のことだけを見据えていた。

 敵としてか、あるいは……超えるべき壁としてか。

 これは戦いと言うより、対話に近いかもしれないな。

 僕は認識と考えを改めることにした。


 ――――白雪セリカは強い。


 今まで見てきたどんな人間よりも。


 そして、恐らくは――――


 ――――僕よりも。


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