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±0  作者: 日向陽夏
第3章 黒へと至る少女【前】 運命之環編
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第15話 Clear≒White③【透視点】

 

 《紆余曲折》――ウヨキョクセツ――


「まずは小手調べといこうか」

 僕は白雪セリカに手をかざす。三周目と呼ばれていた二体目は僕の《紆余曲折》の“間合い”を把握しているのか、ぎりぎりのラインで外側まで離れていた。

 四周目がダメージを受けているというのに、顔色一つ変えず無表情のまま。

 正直半信半疑だったが、これで確信する。

 三周目の白雪セリカは“本物”だ。

 そしてこれは直感でしかないが……恐らく……途方も無く強い。

 ジェノサイダーとしてだけではなく、それ以外の……人格としての強さ……精神性か。

「くっ……」

 白雪セリカは重圧に膝を屈する。

「……君は本当に興味深い。僕は多くの人間を観察してきたが……間違いなく、カテゴライズすると君は“凡人”だ。突出した才覚を持つ天才でもなく、周りを巻き込んで統率できる傑物でもなく、賢く頭の回転が速いわけでもなく、図太い大物という訳でもない。平凡に弱く、平凡に愚かで、平凡に素直。だが、何故か“折れ”ない。聖人の領域であれば狂気や悪意に耐性が無く、一瞬で堕ちる筈なのに、それも無い。かといって闇に耐えうる悪の要素を内側に持っている訳でもない。君の存在は不可解の一言に尽きる。必ず僕を止め、僕の邪魔をし、どこまでもどこまでも食らいついてくる。僕を殺し得る君という存在は、何なんだろうね?」

 Fランクの怪物。それ以外に、形容すべき言葉が見つからない。


 《白雪之剣》――シラユキノツルギ――


 《紆余曲折》は強制的に解除されてしまう。

 右手に諸刃、左手に白雪で突破し、白雪セリカは愚直に突っ込みながら答えてくる。


「平凡って連呼し過ぎ。取り柄が有るということは、取り柄に縋るということでもある。人は何かに縋れば、必ず弱くなる。でも縋りつく自分の弱さを認めたくないから、縋りついた取り柄を強さだと言い張る。それがたとえ、運のようなあやふやなものでしかなかったとしても、実力だと、自分の力だと言い張る。私は凡人だからこそ、あなたが付け込める弱さが無い。強いて言うなら、私が縋っていたのは先輩。先輩はもういない。だから私は強くなれた」

「……それが“凡人の強さ”だとでも、言うつもりか?」

「天から与えられた才能に甘えてる運だけの天才には、必ず脆さがある。そして、あなたにも必ずそれはある筈」

 間合いに踏み込まれ、《諸刃之剣》を叩きつけられる。


 《審判之剣》――シンパンノツルギ――


「キルキルキルル」

 僕は右手の審判と、左手の黒剣で、白雪セリカの両腕の剣を相殺する。


「いつの間に、ゼロの思想をも取り込んだか。だが白雪セリカ。そこだけは見誤っている。僕は天才ではないよ。あんな運だけの下等生物たちと同列に語られるのは心外だね」

「……っ?」

「僕も君と“同じ”さ」

「……おな、じ?」

「僕もルーツは“凡人”だよ。確かに、多少の記憶力は先天的に備わっていたが、それぐらいで、後は殆ど君と同じさ。最初は無能で、何もできない平凡な人間だった。でも、だからこそ、いつか必ず枯れる才能などという産物に縋らない、自分だけの強さを持っていると自負している。君がそうであるように、僕もそうなんだよ」

「そ、そんなわけ……ない!」

「べつに認めなくてもいいさ。強制はしない。だが、僕はそう思っているだけで」


 《紆余曲折》――ウヨキョクセツ――


「く――――っ」

 《紆余曲折》をくらい、白雪セリカは吹っ飛ばされる。

 なるほど、《白雪之剣》の無効化は“刀身”に触れるとことがトリガーのようだ。

 刀身を避けるようにして能力をぶつければ、ちゃんとダメージを食らうんだね。

 なるほど、これを見誤れば死ぬな。リリーの敗因が分かったような気がする。

「また私を、揺さぶろうとして……っ」

 血を吐き僕を睨みながら、それでも白雪セリカは剣を杖にして立ち上がる。

「僕の才能の有無なんてどうでもいいだろう。君のGランクには何の関係も無い。これに関しては、完全に被害妄想だね」

 僕はジャケットの胸ポケットから拳銃を取り出し、構える“動作”をする。


 《守護聖盾》――シュゴセイジュ――


 白雪セリカは狙い通り、反射的に盾を具現化してしまう。

 そう、まだ僕は撃ってない。射撃タイミングをワンテンポずらしたのだ。


 《空中分解》――クウチュウブンカイ――


 コンマ1秒程度の時間差で、三つの盾が砕け散る。

 僕の《空中分解》によって白雪セリカの盾は、分子レベルで分解されて霧散される。


「マズ――――」


 銃声と同時に、


 《守護聖盾》――シュゴセイジュ――


 新たな三つの白き盾が現れる。

 3周目がすかさず白雪セリカの眼前に新たな盾を具現化したようだ。

「あ、ありがとう……」

「油断しないように。透を読み切れた等という過信は身を亡ぼす。肝に命じなさい。4周目、あなたは……歴代の周回で考えると最弱。自分の弱さを自覚して」

「はい……」

 まるで姉妹……いや、師弟のようだ。

 未来の白雪セリカと、現在の白雪セリカの共闘。これは読めない。読めるはずもない。

 僕を完璧に打ち負かす為に、まさかここまで盤石に用意してくるとは……。

 オメガか……。“凡人”は常識や良識を突破できない。ⅠQ100の世界で描ける未来絵図ではない。白雪セリカ単体でこの戦略、戦術は無い。

 狂気とロジックの融合。マトモな人間なら、繰り返された世界を構築するところまでは想像できても、“その先”の発想である、繰り返された世界を“利用”しようとまでは思えない。仮に思えたとしても、具体的なイメージができるとは思えない。だが、これを達成してしまえるのが、完成したオメガ。僕が育てたいと願ってやまなかった進化の果ての姿か……。

 だが、繰り返された世界の利用だけでは戦略として不完全だ。計算としては最適解だが、時間軸がぶっ壊れた世界で記憶すら失いながらそれでも不屈に突き進む狂気じみた精神力も必要となる。ほぼ全ての人間には実行不可能な難易度であり、オメガであってもこれは同様に不可能だろう。そうか、だから“白雪セリカ”なのか。これが、僕の恐れている白雪セリカの“強さ”の正体……。

 絶対不可侵の決意。Gランクへの狂気じみた執念。殺意に近い闘志。

 なるほど……君は、僕の全存在を賭けて殺すべき価値がある人だ。確信する。

「……やれやれ、二対一とは分が悪いね」

「透、お前は殺人カリキュラムをSS6人、SSS1人で実行した。あの時のことは棚に上げるの?」

 3周目が噛みついてくる。

「正論だね。だが僕は悪を愛する者だ。そして君たちは対極の存在なんだろう? 僕と同じことをしてもいいのかい?」

「二対一だろうとなんだろうと、これはお前が私に与えたジェネシスの効果でしかない。私がどうこの力を使おうと、お前にとやかく言われる筋合いはない。全てはお前が蒔いた種でしかなく、お前の悪だと言うこともできるから」

「3周目の君は、随分逞しいね。ロジックに隙が無い。だがいいのかい? 君が補佐すれば補佐するほど、4周目の君は弱くなっていく。縋ってしまうのだろう?」

「…………」

 3周目はじっと僕を睨んだ後、殺気を霧散させる。

 自分の感情もコントロールし切っている。なるほど、手ごわい。

「ごめん、3周目。本当、気を付けるから……」

 白雪セリカは申し訳なさそうに言う。

 4周目の白雪セリカは弱い。これでは、ダウングレードする意味が無いのではないだろうか。

 少し、揺さぶってみるか。

「話の続きといこうか。僕たちは凡人の中でも、恐らくは大器晩成型だろう。初めこそ無能だが、将来的には天才を凌駕し得る人材。僕らにはいずれ必ず燃料切れになる才能なんて必要ないのさ。現にこうして、君たちは不可解にもほどがある強さを手に入れ、今こうして僕の目の前に立っているのだからね」

「……ヒキガエル、も?」

「…………っ」

 白雪セリカの問いかけを聞き、僕は驚きのあまり絶句していた。

「3周目……から何か情報を訊いたのかい?」

「ううん、そんな暇無かった。でも朧げに覚えてる記憶の残滓と、あのスピーチを聞けば答えにはたどり着ける。ゼロですらヒキガエルの特異な力に気付いていた」

「ここで、何故ヒキガエルが出てくる」

 なぜ……僕の後継者……に気付ける……? 繰り返された世界から得たのか、何か情報を……。

「ただの勘だけど……。強いていうなら、ヒキガエルも大器晩成型だと思うから。ゼロも言ってたし……」

「僕を……どこまで理解している。君は、君たちは」

 なぜ僕を理解しているにも関わらず、僕の色に染まらない?

「あなたは人を深淵に導くことに関しては極みにいる。あなたとマトモにやりあっても、私は勝てない。なら、勝負の土台そのものを変える必要がある。だから、私はあなたのルーツを辿ろうと思う。これは、その為の戦いだから」

 僕のルーツを辿る……と言ったのか?

「赤ん坊から大人になる過程で、あなたは悪を救う者として完成した。でも最初からそうではなかった筈。あなたが人を黒く染めることに特化しているのであれば、私はあなたを徹底的に洗い出して、その中に白がないかを見ていこうと思う」

 白雪セリカの目は“本気”だった。多くの人間が、見つめ返しただけで狂っていく僕の目を、真っすぐに見ていた。僕の目の……その奥の……自我の……根本を……見定めようとするかのように……。

「……凄まじいな、君は」

 ナメていた。まだ、そう、Fランクで、少しメンタルが強いだけの少女だと……侮っていた……部分が……ある。

「同格……と、認めざるを得ない……のか」

 今まで一度たりともこの世界に生れ落ちて、出会ったことが無い。

 “対等”ともいえるような、そんな人物に……。

 それが……君なのか……白雪セリカ……。


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