第2話 インモラル・エクスタシス②
だが、俺は胸の内に去来する「こいつならきっと……」というその他力本願さを、一瞬で処刑する。
――――他人に頼るな。
――――他人に期待するな。
――――他人に依存するな。
信じられるのは自分だけ、という訳では無いが、赤染は赤染の利益の為だけに行動する他人だ。その利益に便乗しようなどと考えたら最後、無様に死ぬことになるのは目に見えている。
みみっちい犬みたいに、誰かのおこぼれに預かろうなどという腐りきった考え方は、必ず自分の足下を掬うことになる。
自分で何もしない無能に、誰も価値など見いださない。
自分の価値は、自分自身で証明しなければならない。
それが、人生だ。
「これは最後の一人になるまで殺し合え、というような惨いルールではありません。四人以上殺せば、確実に生き残れます。共闘できますし、何より助け合うことだってできる。これほど良心的なカリキュラムはなかなかありませんよ」
透はポジティブなことだけを発言している。仲間を作れるということは逆に、“裏切り”も起きうるということ。終盤の展開では、殺人ノルマが足りていない人間が、共闘関係の人間を数合わせの為に殺す展開もあり得る。俺、セリカ、結のメンツでそれは起こらないだろうが。
「外部との連絡を取るための、携帯電話などの通信機器は一切使えないようになっています。圏外、と表示されているでしょう? リリーさんの異能《発狂密室》は、リリーさんが指定した空間を密室とし、強制的に対象を監禁状態にします。脱出は諦めてください、無駄な努力です。また、4人殺してすぐに終了ではありません。24時間経つまで、待っててくださいね」
透は子供に言い聞かせるような、優しい声色で言う。生徒達は沈痛な面持ちで、床を見つめている。俺もポケットの中のスマホを取り出すが、やはり圏外になっていた。
「さて、説明は以上です。最後に、質問はありませんか?」
透はにこやかに微笑み、首を傾げる。
もう、誰も手を挙げることは無かった。
すすり泣く者、呆然とする者、怒る者、必死にスマホを弄る者、腰が抜けて立てない者、無表情の者、覚悟を決めた顔をしている者、冷酷に笑っている者、うわ言を繰り返す者、震えている者、様々な生徒がいた。これから先、俺たちはこいつらを殺さなければならない。
セリカを、結を、守らなければならない……。
「では、スタート!」
透が叫ぶと同時――――
「「「「「「「「「「キルキルキルル」」」」」」」」」」
何重もの声が、同時に響き、木霊する。
ああ、そうだ。頭のキレる者ならすぐに気付く。
スタートした瞬間。誰もが緊張し、慣れず、どうしたらいいか分からない。
特に、決断できない弱者をカモれるのは最初だけ。
終盤になればなるほど、難しくなる。捕食者は本能で、知性でそれを知っている。
狙うなら、この瞬間。だが、こいつらはルールを一つ失念している。その点では愚かだ。
「結ィィ、セリカァ、全力でこの場を撤退する! キルキルキルル!」
セリカは縋るような目で俺を見つめ、動かない。いや、動けないのか。ひとまず自分のジェネシスを剣へと凶器化させる。
「何やってるのセリカ!」
結が叱りつけるように叫ぶが、セリカは動けない。
「っ、っ……」
セリカは必死に動こうとしているのだろう。それは顔を見れば分かる。
――――だが。
恐怖という感情を制御できれば、誰も苦労はしない。どんな賢人でも、恐怖に陥ったが最後、狼に食われるブタに成り下がるだけだ。ただの肉。
それほどまでに、抗いようが無い。どうしようもない。それが、恐怖という感情だ。




