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±0  作者: 日向陽夏
第3章 黒へと至る少女【前】 運命之環編
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第15話 Clear≒White②【白雪セリカ(4周目)視点】

 

「……君、は。“君たち”は」


 透は困惑している。

「……っ」

 そして、視界がぐらりと揺れる。強烈な睡魔で、頭が一瞬馬鹿になる。

 《色即是空》を一回使っただけで、もうジェネシス切れだ。

 やはりこの異能力は他と違って、めちゃくちゃ燃費が悪い……。一瞬でほぼ全てのジェネシスを使い果たしてしまった。

「4周目、“銃”は持ってるよね?」

「あ、うん……」

「絶対に無駄撃ちして外さないように、銃口を口に加えて撃って。透戦で使っていいのは、三発までね。それ以上は禁止。私は壊滅的に馬鹿エイムだから。いいね?」

「う、うん……」

 慌てて口に加えて、プラチナカラーの拳銃を口に加えて、目を閉じて引き金を引く。


 《守護天使》――シュゴテンシ――


 何かが砕け散るような痛みと同時に、全身にジェネシスがみなぎっていく。

 口の中が血で溢れて歯が全部吹き飛んで、ゴボゴボと血が口がぶっ壊れて溢れて激痛で涙が出る。


 《聖女抱擁》――セイジョホウヨウ――


 三周目がすかさず回復能力を私に使ってくれる。

「銃を自分に撃ったら、間髪入れずに《聖女抱擁》を使うこと。痛みで気絶しないうちにね。ジェネシスが込められた弾丸はジェノサイダーを殺し得るのは、経験してるよね?」

「は、はい……」

 年季が違う。的確に色々指示してくれる。20歳くらい年上に思えてしまう……。

「あと、今隙だらけだった。私が代わりに警戒してなきゃ、今ので殺られてたから。ジェネシス回復時は警戒を怠らないように」

「……気を付ける」

「じゃあ、4周目。まずは一人で戦ってみて。危ないときは助けるけど、基本一人で何とかするように」

「え……」

「え、じゃない。依存しないでって言ったでしょ。私はナビゲーターでしかない。今回の実体化だけは例外。ダウングレード体一人では透を殺すことはできても、それ“しか”できないから」

「どういう意味……?」

「よそ見しない。透から目をそらさない。銃を自分に撃つ時も、さっき目を閉じてたけど、絶対目は閉じちゃ駄目。《起死回生》が使える相手はもういないと思って」

「……」

 き、厳しい……。感情を感じられない程声が淡々としており、それがシスター以上の厳しさを感じてしまう。

「私を厳しいと感じるのは、自分自身だからだよ。私は私に厳しいから。私なら、分かるよね?」

「…………はい」

 はい、としか言えない。

 全部その通りだからだ。

 なるほど、自分自身相手というのはやりにくいな……。

「……なるほど、そういうことか。もう一人の君は、繰り返された世界。未来から来た存在なんだね。フッ、これは手ごわそうだ。なるほど、オメガが僕の死を確信するのも分かる。これは……練られているね。黒へと至ったオメガと、白の君が手を組んで、本気で僕を殺そうとして作られた未来絵図、というところか」

「ご明察だけど、あなたはもう分析すること“しか”できない。唯一運命を変えられる可能性はいばら姫とゼロの存在だけれど、もうここにはいないようだし、あなたが死ぬのは確定事項」

「でもいいのかい? 保護者の君が今の白雪セリカを助け過ぎれば、未来は悪い方向へと変わる。育成者のジレンマというものだよ。どうしても甘やかしてしまうだろう?」

「私は私に甘くない。その程度は、揺さぶりにすらならない」

「だが……ここで僕が今の白雪セリカを殺したり、“変色”させれば、全ての未来は崩壊するんだろう?」

「その為に私がいる。一周目が犯した過ちを、二度と犯させない為に」

 ……一周目が?

 何故か、胸がズキンと痛む。

 いつかの私は、取り返しのつかない過ちを犯したのだろうか……。

「それと、透」

「なんだい?」

「勘違いしないで欲しい。さっきも言ったけど、あなたを殺すだけならこのダウングレード体一人で事足りる。私の存在は保護者というよりも、4周目を変色させない為の意味合いでしかない。見くびらないことだね、4周目を。透、あなたのジェネシスではもはや4周目にすら勝てないのだから。くだらない心理誘導は通用しないものと考えなさい」

「……言ってくれる」

 余裕の笑みを浮かべていた透から、僅かな怒気が零れるのを感じる。む、無駄に煽らないで欲しい……。

「4周目。当初、想定していた通りの戦いをしなさい。私はここで見てるから」

「……いいの?」

「いちいちお伺いを立てない。私は失敗作なのだから。私を超える、それがGランク到達の最低条件。その意気込みで戦いなさい。いい?」

「……わ、分かった」

 透戦はもちろん、想定していた。

 アンリと何時間も協議して、作戦を練って、シスターとアルファに駄目だししてもらって、何度も何度も練り直した。

 透は強い。そして、何よりも恐ろしいのは人の心を見透かす“洞察力”と、“話術”。

 透は人の心を読み、操れる天性の才能の持ち主。

 善人を悪人に、常人を異常者に変えることができ、化け物を従えるカリスマすら併せ持つ。

 この男を相手に、普通の殺し合いも、話し合いも、やってはいけない。

 善も正義も、この男の前では無価値だ。全て砕け散り、悪へのダブルバインドによって人格を改変させられる。そしてその心理誘導は、善良であればあるほど、歪みが大きくなる。

 なら、取れる戦略は一つしかない。

 未完成の私が、完成している透を倒す方法。

 それは――――


 《諸刃之剣》――モロハノツルギ――


 白。十字架の形をした剣。

 全てがスノーホワイトジェネシスの刃で生成されており、手で握る箇所すら刃でできている。だから、握ると私の手からも血が流れる。

 そう、これが第三の剣。私はそれを具現化し、一歩、前へと進む。


 ――――私は、正義が嫌いだ。


 正義なんて、この世に存在しないと思っている。

 人間は思い込みの動物で、”好き”なものを”正しい”と信じたいだけの愚かな生物だ。その認識だけは、透と同じかもしれない。

 でも、そんな私が定義できる唯一の“正義に限りなく近いモノ”。

 これは多分、バイアスを持ち、糧を必要とする人間には、一生手の届かない領域かもしれない。

 そういう意味では、Fランクの極みと言ってもいい。

 その象徴が、この、《諸刃之剣》だ。

「……気持ち悪いな。見ただけで嫌悪感しかない」

 透も何かを感じ取ったのか、私の《諸刃之剣》を見て眉を顰める。


「私が定義する正義の最低条件は、“捨て身”であること。利益も保身も無い正義なら、それは唯一価値があると思えるから……」


「……これは驚いた。僕の定義する正義と”全く同じ”だ。寸分も違わない。フッ……フフフ。君と、対決できることを……心から光栄に思おう」


 透は不敵に微笑いながら、そう言った。


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