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±0  作者: 日向陽夏
第3章 黒へと至る少女【前】 運命之環編
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第15話 Clear≒White①【透視点】

 

 白雪セリカ達は沈黙し、警戒を強め臨戦態勢で僕を静かに見据えている。

 僕は彼女たちに殆ど能力を見せていない。警戒するのも当然かもしれない。

 まぁ、“繰り返された世界”で白雪セリカがどれだけの情報を持っているかは未知数だけれども……ね。

 即座の戦闘にはならなそうなので、僕はゼロへ声をかけることにした。

「それにしても……。ゼロ、やってくれたね。まさか核兵器を街中に落とそうとするとは、相変わらず僕の予想を超えてくる。ヒキガエルも巻き込んだようだし、随分無茶をする」

 ヒキガエルへのチャネリングをしたところ、どうやらゼロの《監禁傀儡》で心を操作されているようだということは分かっている。

「説教か? テメェだって好き勝手やってんだろ」

「ゼロ、一つだけ言っておくことがある」

 あまり年寄りのようなことはしたくないが、これも育成者としてのさがといったところか。

「……あ?」

「天才や、本当の恐怖、挫折を知らない10代から20代前半の若者、特に学生、それも男性は、自分の力を過信し、誇示したがる傾向がある。君の好きそうな言葉で言うなら、イキっているというやつだね。もちろん全てとは言わないし飽くまで傾向だが、有能だったり学力に秀でいている者や、処理能力が高く仕事上で評価される者や、それ以外でも何らかの形で実力を評価されたことがある者が特にこの傾向が顕著だ。自分の得意分野では誰にも負けないという愚かな過信をする。冷静に考えて、80億以上も人間がいて、全員が全員特定の分野で競い合って1番になれるだなんて本気で思っているのであれば、その知性は“残念”と言わざるを得ないだろう。だがこのイキりの思想も、若ければある程度は許される。若者は粋がってこそという部分もあるからね。だがこの傲慢さが30代を過ぎても未だこの精神年齢だと、途端に見苦しくなる。凡人が祭り上げる、無能を否定するサイコパスや、常に他者を否定することで自己評価を上げようとし続ける、自己評価が異常に高い自己愛パーソナリティ障害を抱える者が、どれだけ無能で、良い年齢なのに精神だけは幼稚で、知性が低く、実は劣っているか、凡人は最後まで気付けない。あんなの、ただの障碍者なのにね。まぁ、あんな劣っている者達を祭り上げてしまう者だからこそ、凡人は常に利用される側、なんだがね。さて、長くなったね。君も老いる前に、今回の敗北と挫折を学び、糧とするといいさ。“男”、なんだろう?」

「てめぇの話はいちいちなげぇんだよ。全然一つじゃねえじゃねえか」

「僕はお喋りが好きでね」

「……ちっ、うるせえよ。分かってる、今回は俺の負けだ。完敗だ。認めてやる。自分の負けすら受けれられなくなったら、老害どころか猿にすら劣るゴミ……だからな」

「分かればいいんだ」

「いちいちむかつくヤツだな……」

「ヒキガエルと花子のことを、君に任せてもいいかな?」

「……それはどういう意味だ?」

「僕だとどうしても甘やかしてしまうからね。育成者のジレンマというものだよ」

「……」

 ゼロは僕の真意を探ろうと目を眇め観察してくる。

 この場で語るつもりは無いが、真意は単純で、一つしかない。

 僕が万が一死ねば、彼らの無意識の“リミッター”が外れる。

 《赤い羊》の象徴たる僕が死ねば、悪のカリスマへの心酔と、彼らの安心、そして甘えが消え、覚醒し、羽化するだろう。

 そしてその成長度合いが著しく大きいのが、ヒキガエルと花子だ。

 ゼロは良くも悪くも爆弾のような少年。

 彼が起爆剤となり、次代の悪を導く象徴となる。そんな未来もあり得るのだ。

 そう、それは……


 ――――僕が死ぬことでしか完成しない未来。


「なぜ俺に頼む?」

「漆黒以外でも、価値ある命はあるのさ。それを今君は敗北と共に学んだはずだよ」

「敗北っていちいち言うな」

「ゼロ。改めて訊こう。頼まれてくれるかい?」

「……フン、気が向いたらな」

「それで充分だ。ありがとう」

「お前に礼を言われるとキメェな」

「いばら姫みたいなことを……」

 僕の言葉を聞いているのかいないのか。ゼロは既に翼を広げ、この場を立ち去ろうとしていた。

 確かに、ジェネシスの保有量も限界だろう。屈辱でも、ここは退くしかない。初陣で張り切り過ぎたね……。


「おい、白雪セリカ、赤染アンリ、メアリーだかシスターだか。今回は俺の負けだ。だが、次は必ず殺す。それまでお前らの命は預けておく。だから俺が殺すまで、絶対に死ぬなよ」


「逃がさないわ、ゼロ君。”次”なんて無い。君はここで死ぬのだから」

「必ず殺す。それはこっちのセリフ」


 赤染アンリと二人目の白が、飛び去るゼロを追っていく。やれやれ、若いと血気盛んだね。

 だがふと思うことがある。二人目の白は、ついさっきは黒かった筈。つまりは……あり得ないとは思うが、まさか解離性同一性障害……? まさかね。

 解離性同一性障害者は今まで見たことが無いし、ジェネシスを過去に与えた例もない。

 だが突然の変色を意図的に起こす方法は……それぐらいしか思いつかない。

 殺人カリキュラムに紛れ込んでいたのか……?

 しかも、僕の《主観盗撮》すら出し抜く程の擬態までしていた……とでも?

 冷や汗が流れる。世界は広い。僕はまだまだ勉強不足だったらしい。

 さっきゼロに言った苦言はブーメランだったね。僕もまだまだ凡人だったということか。

 そしてそんな僕を欺けるほどの人材すら味方にしている白雪セリカに、改めて戦慄が走る。

 赤染アンリの成長も著しい。マゼンタジェネシスには独特の強さを感じる。

 赤染アンリのことは少ししか知らないが、あれほどプライドが高く、他人に従わなさそうな少女ですら、白雪セリカにつくとは……。

 ”何か”を……持っているんだろうね。

 僕の求心力とは違うベクトルの、けれどそれに”近い”何かを。

 なるほど、僕を殺せるわけだ。ふっ、これだから人生は面白い……。

 他人を見下して安心する堕落した人生よりも、自分を超越する者と渡り合って昇華し合う人生にこそ価値があるというものだ。切に僕はそう思う。


 そして静寂の中。ゼロと二人の少女は消え、この場には、ゼロを追わなかった白雪セリカと、僕だけが取り残される。


「君は追わないのかい?」

 白雪セリカに問いかける。

「私まで追ったら、透も来るでしょ?」

「まぁ、そうなるね」

「うん……。分かった……。え、そんな使い方……。わ、分かった。やってみる」

 そして白雪セリカはどういうわけか、さっきから一人でぶつぶつ言っている。

 幻覚でも見ているのか、誰もいない隣をしきりに見て話をしているように見える。頷いたりもしており、本当に誰かいるかのような、パントマイムにしてはあまりにもリアルな所作だった。

「……君は、誰と話しているんだい?」

「透。あなたは、私一人で……いや、“二人で”倒す」

「……二人? まだどこかに、お仲間がいるのかい?」

「“すり抜けるモノをすり抜けなくする”異能力。これの使い道はまだまだ全然可能性があるんだって、たった今教えてもらったから」

「……?」

 一体何をするつもりだ?


 《色即是空》――シキソクゼクウ――


 白雪セリカが未知の異能力を発動し、そして――――


 ――――二人目の白雪セリカが、現れた。


セリカVS透 ここまで長かった……。

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