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±0  作者: 日向陽夏
第3章 黒へと至る少女【前】 運命之環編
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第14話 七番目の月㉖【白雪セリカ視点】

 

「赤染ェェエエ――――ッ!」


 倒れそうになるゼロは叫び踏ん張りながらも、身体から鮮血がほとばしる。

 一切の躊躇無く、アンリが右手の銀のレイピア、左手の金のレイピア、そして背中から生やしている第三の腕で握っている自分の剣を残像に近い速度でゼロに勢いよく叩きつけている。

 さっきから首と心臓を狙おうとしているみたいだけど、ゼロから溢れる漆黒のジェネシスがマゼンタを弾いている。煙のように揺れ動くジェネシスの隙間を縫うようにして、あまりにも緻密に、そして正確に、瞬間的な隙間に滑り込ませるかのような見事の一撃を連撃で繰り返している。

 アンリは無表情で、けれど目だけは爛々と輝いており、極限の集中の中にいるのだと分かる。

 でき……ない。

 ……私にはできない。どうしても迷いが……迷いから抜け出せない。

 先輩の青い鎖無くして、私はゼロを……ゼロと……。

 必要なのは、かつての友人すらも躊躇わずに殺せる途方もない意志力。

 “正しさ”の為に振るう力は、結局のところ自分を許す為の“甘さ”でしかないのかもしれない。

 許す許さないではなく、必要かそうでないか。そこまでシビアになりきれて初めて、必要悪の土俵に立てる。

 でも、その弱さを克服して突破できるほど、人は強くない。

 そういう意味でアンリは……あまりにも人間離れしている。

 だけど、アンリがいなければ全ては破綻していた。

 アンリは悪なのかもしれない。でも、“必要”な悪だ。

 これが……“必要悪”の強さ……。

「セリカ、ごめん」

 アンリは連撃を続けながらも、悲し気に私を見てそう言った。罪悪感の無い……アンリが。

「……っ」

 その“ごめん”が意味するところを知り、私は《白雪之剣》をゼロへ向ける。

 アンリではジェットブラックジェネシスを突破できない。《快刀乱麻》の銀は能力を反射するのみで、漆黒を突破する効力は無い。

 そして、金のレイピアは相手に刺してもジェネシスを減らすのみで殺すことができない。

 アンリの本来の剣ではいわずもがな、漆黒に弾かれる。

 結論、私がやるしかない。白である私が……。

「必ず、Gランクになって元に戻して見せるから……。だから――――」


 青い鎖が具現化し、私の両腕を包み込む。

 私の《白雪之剣》がゼロの胸に届く刹那、ゼロはニヤリと微笑った。

 強い既視感と共に、かつての花子の姿と今のゼロの姿が重なる。

 《白雪之剣》が突き刺さるのは吹き飛んだはずの左腕。

 自分のジェネシスで吹き飛ばして私の剣の軌道上に……っ!

 自分の肉片すら道具として活用してしまえる……。これもまた別次元の強さ……っ。


 《即死愛撫》――ソクシアイブ――


 満身創痍の筈なのに、ゼロは勢いよく跳躍して死線を抜ける。


「……オーバーキル過ぎんだろ。赤染アンリ……ッ。容赦ないにもほどがあるぜ……今の一撃、いや連撃は……ゲホッ」

 口から血を吐いて、ゼロはアンリを睨む。

「そうか、あのときの謎の一撃は回復能力だったのか。お前も、ナメ過ぎたようだ。白雪セリカ……。マジで……クソが……。痛ってぇな」


 《完全再生》――カンゼンサイセイ――


 みるみる内にゼロの身体が修復されていく。

 でも、死なないように全力で立ち回っていた。

 ゼロの所持能力に、《絶対不死》は“無い”のかもしれない。


「だが、お前らはもう“終わり”だ。たとえ直接黒い雨を防ぐ手段を持ちえたとしても、SSSが複数新たに生まれれば、お前らが戦い抜ける持久力は無い。ジ・エンドだ」


 ゼロの死刑宣告が、静寂の中響く。今の一撃で仕留められなかった時点で、確かに詰みだ。

 でも、私は確かに見ていた。視界の端で気絶していた、もう一人が目を開けるのを。

 彼方の空に浮かぶのは、死の象徴。

 悪意の兵器が空中に鎮座し、ゆったりと落下していた。

 ゼロは勝利を確信しているのか、仄暗い笑みを浮かべていた。

 だから私は、自分の意志を言葉にすることにした。


「――――ゼロ。それでも私たちは“次へ”進むよ。たとえ破滅しかない運命でも、諦めるか諦めないかは自分で決める。それが……私にできる唯一のことだから。お願い、“メアリー”」


 《瞬間停止》――シュンカンテイシ――


 時が止まる。

 第一の死亡フラグ、黒い雨を相殺する為の能力が発動する。

 ゆらりと立ち上がったメアリーが、祈るように手を合わせ、ありったけのジェネシスを力に込めて能力を発動したのだ。

「…………何?」

 ゼロは呆然と呟く。

 悪意の象徴は空中で動きを完全に止める。

 どうしても止められない運命の歯車を、無理やり抑え込む為に。


 そう、これはメアリーが持つ時間を止める能力。

 マザー程の効力は無く、ジェノサイダー以外の人間、生物と、ありとあらゆる物体の時を止める力。この能力に力を注ぐ為、メアリーは極力表には出ず、ひたすら内側で眠り、ジェネシスをため込んでいたのだ。全ては、この時、この瞬間の為に。

 そして、メアリーの《瞬間停止》の制限時間は、およそ72時間。


 ――――私はあと72時間以内に、残り5つの死亡フラグを突破して、Gランクへと至らなければならない。それはあまりに途方も無く過酷で、熾烈な道。3回もやり直さなければならない程、血を吐くような思いを何度もして、繰り返し続けて未だに終わることができていない、そういう道だ。


 そして、全てが始まったあの場所まで、また辿り着かなければならない。


(――――息つく暇もない。四周目、“次”の死亡フラグはもう始まってる。《飛翔蒼天》を)

 三周目の声が心の中で響く。


「――――っ!?」


 《飛翔蒼天》――ヒショウソウテン――


 能力を発動するのと銃声が響き渡るのは殆ど同時だった。

 私の六枚の天使の羽は一瞬で砕け散る。

 脳天に僅かな痛みと、額に一筋の温かさ。

 頭に穴が開いて、血が流れている……?


「また駄目か、どうにも君を殺すのは上手くいかないみたいだね。今まで僕はかなりの数の人間を殺してきたが、君ほどうまくいかなかったのは初めてだよ」


 恐る恐る声のした背後を振り返ると、苦笑する透が拳銃を構えている姿だった。

 銃口からは硝煙がたゆたっていた。


「透――――ッ」


「君に殺されに来たよ。あるいは、君を殺しに……ね」


 透はそう意味深な言葉を口にして、蠱惑的に微笑んだ。


 ――――第二の死亡フラグはまだ、始まったばかりだ。


次から15話です。

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