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±0  作者: 日向陽夏
第3章 黒へと至る少女【前】 運命之環編
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第14話 七番目の月㉕【白雪セリカ視点】

 

「その負けん気は買ってやるが、能力は解かない。逆にだ、力を強めてやるよ。俺は時間が稼げればそれでいいということを忘れるなよ? 白雪セリカ」


 そう言って、更に重力が増してくる。


「――――っ」

 炎の動きも、止まってしまう。

 ゼロも同じぐらいの重力を食らってキツい筈なのに、不敵な笑みを浮かべたままだ。


 ゼロとの膠着状態が続くまま。

 スマートフォンから、音声が流れてくる。


『殺人を禁止することによって、“一番得をする人間”は誰か? 善悪を抜きにして今一度問いたい。殺人イコール犯罪、殺人イコール害悪、そのバイアスを一度外して、よく考えてみて欲しい。僕は見ての通り、殺人鬼だ。だが君たちは? 本当にただの、善良な一市民なのだろうか? 君たちの祖先だって実は人殺しだ。大なり小なり僕らには殺人者の血が流れている。一度も戦争を、殺人をせずに子孫を繋いでこれたと、本気で考えている訳ではないだろうね? その思考停止こそ、殺人者よりもよほど罪深い害悪だと、何故気付かないのか? 偽りの潔癖、虚仮の清廉。それを人は”偽善”と呼ぶのだろう? 自らの胸に問うて欲しい』


 少年の声はよく通った。


 画面は見れないけれども、その声は理性と知性を感じさせ、“まるで透”のようだった。いや、僅かに……透を上回っているような気さえする。

『実は僕にとって、人殺しが悪である理由の答えは出ている。“同族殺し”だからだ。つまり、“共食い”が悪であるということ。ゴキブリがゴキブリを殺す、猿が猿を殺す、ハムスターがハムスターを殺す、これらは罪であり、悪だと言える。生物とは、同族で群れて集団を作り、なわばりを作り、組織を作っていく。僕らが石を拾い、裸で焚火で冬を凌いでいた時代、生き残り、繁殖し、群れることで村を、街を、国を作っていった。やがて国同士は互いに殺し合い、それから吸収合併し、個として確立した。それらを崩壊させる要因が、“同族殺し”だ。そういう観点で言えば、宗教でも道徳でもなく、社会的な視点として、殺人行為は悪だと言うことができる。法律にとって、殺人は国を脅かす要因でしかない。税金を納める人間も減るし、国にとって国民同士の殺人はメリットが無いからだ。ここまではいいだろうか?』

 ……まずいな。

 冷や汗が流れる。ゼロは、そしてこの少年は何をしようとしているのか。

 “黒い雨”もマズいけれども、こいつのスピーチには毒がある。この毒に蝕まれた人間が、《赤い羊》に染まる候補になってしまうかもしれない。

『だが人間はどうだろうか。殺人無くして歴史は語れない。それほど多く、人を、人を、人を、殺してきた。世界中を見てみるといい。人が人を殺さない一日が存在するだろうか? 必ずどこかで誰かが誰かを殺している。それらを鑑みて、もう一度考えて欲しい。人間が人間を殺すのは常態化しているにも関わらず、僕らは何故、殺人は悪だという洗脳を受けるのだろうか? その洗脳が正しいか、正しくないかはどうでもいいんだ。一番最初の質問に戻ろう。殺人を禁止することによって“一番得をする人間”は誰だろうか? 誰だ? 誰だ、誰なんだ? 僕たちは一体“誰を”殺してはいけないんだろう? 一番得をする人間は、絶対に自分だけは死にたくないと思ってる。彼らこそが、本当に殺さなければならない人間の正体だよ。敢えては言わない。考えろ。思考停止せず、君たちは一体なぜそんな洗脳を受けたのかを。“誰を”殺してはいけないのかを』

「……その答えは、80億の上位層ってとこか。奴隷の命と金持ちの命は、金持ちにとっては等価値じゃないからな。……フッ、期待以上だな。ただのビビりのカス野郎だと思ったが、ヒキガエルは思ったよりも、“傑物”のようだ。俺の側近に加えて、育ててやってもいいかもしれん。透が期待するのも今なら分かる。こいつは“タガ”が外れたら誰よりも化けるかもしれん……。こいつはもしかしたら、“大器晩成型”の人間なのかもなぁ。しかもこの若さで、ここまでのスピーチが出来るとは……。透の近くにいたからか。俺の命令は飽くまでもあいつの思想を言葉に変換させるまで、だしな」

 ゼロは独り言を呟きながら、苦々しく唇を歪め、笑っている。

「ヒキ……ガエル?」

 今、ヒキガエルと言ったの?

 そしてパリンと音が響き、時間経過とともにゼロの頭上の黒き天使の輪が砕け散る。同時に、私の《白夜月光》の半月も砕け散る。ゼロの頭上の運数値も消えるけど、『マイナス10』であることは分かってる。本当に私の《白夜月光》はゼロの《運命之環》を相殺する為だけの能力のようだ。

「ちっ……」

 ゼロは運操作ができなくなり、忌々し気に舌打ちする。

 お互いのメリットが合致していた。“時間稼ぎ”が、これでどう活きるか……っ。

『僕にとって人間を一言で言い表すならば、“自己矛盾の生物”だ。理由は簡単で、君たちは総意として死刑すらまともに選択することができないからだ。人間を殺すのは悪だと言いながら、その悪を犯した人間をいざ殺せるかという場面で、必ず躊躇する。死刑廃止論を善悪で否定したり、法を否定したり、そういう者が一定数いるだろう? まぁ、この辺りは言葉で説明してもあまりイメージができないかもしれない。だからこそ、今の僕の姿をその目に焼き付けると良い』

 そこで一度言葉を区切り、少年は敢えて沈黙を作る。


『――――僕は11歳。“触法少年”だ』


 この一言を、印象付ける為に。

『触法少年は死刑にならない。何人殺しても。触法少年を断罪したことは、他の国は知らないけれど、この国が法治国家として成立してからは過去に例が無い。テロリストでもない、単独の殺人者が殺せる人数の限界値はたかが知れている。せいぜい10人から100人が限界だろう。その程度の損失であれば、国としても目を瞑れる許容範囲内だ。だからこそ、新たに問いたい。触法少年が10万人以上の人間を殺した時、君たちは触法少年を死刑にするのか、あるいはしないのか。僕は特別な力が使える。今、笑ったかい? そうだね、無理もないかもしれない。だが本当のことだ。そしてちょうどいい機会なので、今から見せようと思う。僕が、10万人以上の規模で人間を殺せる触法少年だということを』


「どうやら、タイムリミットのようだ。思ったより、短かったな。少し時間計算をミスったみたいだ。悪く思うなよ、白雪セリカ。お前は俺が思っていた以上に良い女だった。あの世でせいぜい、新時代の世界でも見守っててくれ」


 《殺戮兵器》――サツリクヘイキ――


『指定、核兵器』


 ゼロの身体から大量のジェットブラックジェネシスが溢れ、どこかへ流れていく。

 それを呆然と見ていることしかできない。

 間に……合わなかった……の?

 と同時に、赤い何かが頭上で煌めくのが視界の端に移る。


 ゼロは反射的に回避に移るも、


「――――背中が隙だらけ。ナメられたものね私も」


 ゼロの頭上からアンリの声が響くと同時。


「――――ッ!?」


 驚愕に目を見開きながら、左腕がアンリの刃によって切断され、血しぶきが舞う。

 その予期せぬ一撃で重力操作の異能力が解除され、


 《朱色満月》――シュイロマンゲツ――

 《千変万化》――センペンバンカ――

 《異能奪取》――イノウダッシュ――

 《曼殊沙華》――マンジュシャゲ――

 《快刀乱麻》――カイトウランマ――


「――――じゃあね、百鬼君。じゃなくて、ゼロ君」


 アンリの声が静寂の中、残酷に響き渡った。


一か月休もうと思いましたが、書けそうな時は書いていこうと思います。はやく終わらしたいんで……。

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