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±0  作者: 日向陽夏
第3章 黒へと至る少女【前】 運命之環編
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第14話 七番目の月㉑【透視点】

 

 ――――ゼロがFランク達を追い、飛び去る数刻前。


「さて、追おうか」

 ゼロが飛び去った後、僕は彼を追うことにした。

「……もう放っておいていいんじゃない? 面倒くさいわ」

 いばら姫が心底嫌そうに言う。

「僕を殺した男が殺せないFランクという存在は、放置できない」

「ゼロが死んであいつらが消耗してから、狩ればいいんじゃない? まさか、あのくだらないボス戦がどうのとかいう話を真に受けてないでしょうね?」

 ジト目で睨まれてしまう。

「まさか。善、正義、法、それらを持たない悪がよるべにするものは2つしかない。己が欲望と美学だよ。悪には何もよるべがない。だから自分自身という存在をよるべにするしかない。それこそが悪の強さだと僕は思っている。ある程度は彼の悪を僕は尊重するが、僕が最終的に価値を置くのは僕だけの悪だ」

「あっそ。で、どうするの?」

「ゼロのジェネシス切れのタイミングで、Fランク達を皆殺しにしよう。君はぎりぎり肉眼で見れる範囲で、観測して少しでも彼女たちの能力を暴いておくんだ。それが“最適解”だろう?」

「……ま、いいわ。従ってあげる」

「ありがとう。君は最高のパートナーだ」

「アンタに褒められても気持ち悪いだけだわ」


 突然、視界が傾く。

 何の前触れもなく、首筋に痛みが走る。

 そして血の匂い。視界に巻き散らされる血液が自分のものだと気づくのに数秒遅れる。

 それから自分の胴体が視界に入る。

 首が切断された胴体を自分で眺めている奇妙な感覚ののち、能力が自動的に発動する。


 《絶対不死》――ゼッタイフシ――


「……何が起きている?」

 殺された。何の前触れも予兆も無く、首を斬られた……のか?


 《聖者抹殺》――セイジャマッサツ――


「く……っ」

 いばら姫が空に浮かぶ黒十字に磔にされ、身動きを封じられる。

 拘束した者に対し、一時的にジェネシスを発動させない能力。

 僕の所有能力《審判之剣》と同じ系統だが、《聖者抹殺》は僕も同じものを所持している。何より、十字架の色が“黒”だということが一番の問題だろう。


 《無色透明》《解除》


 突然、目の前に“誰か”が僕たちの前に姿を現す。

 いばら姫のように突然その場に現れた感じではなく、透明だったものが少しずつ色彩を帯びていくような感じだ。

 こいつは……ずっと透明のまま、気配を出さずに目の前にいたのだ。

 一体、“いつ”から?

 そもそも、誰にも認知できないこいつは……いつ誰の後ろにいてもおかしくないのだ。それこそ、僕の背後にも、白雪セリカ達の背後にも……どこにいても。

 ジェネシスを纏ったその誰かは、黒き翼をはためかせながら、微笑った。


「――――今、お前たちに動かれるのはマズいのでな。不本意だが、調整に入らせてもらう」


「……オメガ、か」


 僕はなんとも言えない笑みを浮かべてしまう。

 ジェットブラックジェネシス。到達できたんだね。

 君は、君だけの答えを見つけられたんだね。

 悲願が達成された喜びと同時に、彼女の黒き芽吹きに立ち会えなかった悔恨を感じる。

 オメガは憐れむような、蔑むような、それでいてどこか悲しい目で僕を見据えていた。

「そうか……僕は、君に、殺されるのか……」


 僕が見つけ、僕が救い、僕が与え、僕が愛し、僕が育て、僕の手を離れ、成長した怪物に嚙み殺される。それは僕が望んだ運命の一つ。


 そして、この時、初めて彼女に名付けた名前の意味を思い出した。

 僕を終わらせる女。終わらせてくれる女。ああそうだ、かつてそう願い、君に名付けた名前が、そうだったんだね……。

 そういう運命も悪くないなと、僕はそう思った。


「何度も言わすな。私は百鬼結。人の名前ぐらい、ちゃんと憶えろ。透」


 オメガはしかし、にべもなくそう切り伏せてくるのだった。


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