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±0  作者: 日向陽夏
第3章 黒へと至る少女【前】 運命之環編
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第14話 七番目の月⑲【赤染アンリ視点】


「――――バースト」


 ゼロは私を指さし再び宣告する。

 ゼロの「マイナス10」の数値に変化はない。

 何が起きたか分からない……。考えられる仮説は――――

(シスターちゃん、今の私の数値は?)

(マイナス7に変わった)

(《運命之環》について分かってることを出来る限り教えて。短めに)


「こそこそチャネリングで相談ってか? 見逃してやってもいいが、お前らはナメ過ぎるとヤバいからな……。攻めさせてもらうぜ」

 そう言ってゼロは、


 《即死愛撫》――ソクシアイブ――


 勢いよく踏み込んでくる。


 《千変万化》――センペンバンカ――


 赤い靴に血液を収斂させ、後ろへ跳ぶ!

「ガールズトークに割り込んでくる男は嫌われるわよ」

「赤染アンリ、チートは使わないでやる。“本気”で来い。ここから先、一瞬でも隙を見せれば死ぬぞ。いいな」


 《処刑斬首》――ショケイザンシュ――


 後ろへ跳んでもまだゼロの間合いから抜け出せない。

 この一撃は絶対に防がなければ、ジェネシスが剥奪される。

 通常のSSであればこの時点で詰みだけど、私にはセリカから託された二つ目の剣がある。


 《絶対強者》――ゼッタイキョウシャ――


 右腕の筋肉を強化し、ゼロの《処刑斬首》を銀のレイピアで受け止める。

 剣戟の轟音が鳴り響き、刃と刃に火花が散る。

 ジェネシス剥奪の《処刑斬首》と異能力反射の《快刀乱麻》の激突。

 両者の効果はともに相殺され、剥奪も反射も発生しない。

 やはりSSSとFランクの異能力同士の衝突はプラマイゼロになるように設計されている……。

「そうだよな、反射の右手はそう使うしかない。てことはだ!」

 ゼロはニタリと歯をむき出しにして微笑う。


 《監禁傀儡》――カンキンカイライ――


「くっ、これが狙い……っ!」


 私の首に黒の鎖が巻き付く。


「チェンジ」


 いつの間にか、ゼロの頭上の数値は「マイナス7」に変わっていた。

 そしてこの鎖! 強く首に巻き付いてくる……っ。このまま窒息死させる気か……。

 反射の能力を敢えて使わせ、他の防衛手段を削ぐ。敵ながら良い手だ。

 Fランクであれば他の相殺能力で対応できるが、SSの私では……っ!


 《武御雷神》――タケミカヅチ――


「ちっ、まだお前がいたか。だがもう用は済んだ」


 白き雷がゼロを襲うが、紙一重でゼロが鼻先を掠めるように避ける。

 が、射程範囲内の黒き鎖を白き雷が打ち砕き、私はかろうじて死線を回避する。


 ……今ので課題が見えた。

 一つじゃ駄目だ。対SSS戦を想定するのであれば、Fランクから借り受ける能力は、最低でも二つは欲しい。

 今の私はセリカから《快刀乱麻》を借り受けたのみ。

 他の能力を借りる必要がある……。


「バースト解除」


 ゼロの数値が「プラス7」に変わる。


「……っ」


 右手は剣の衝突で封じられたまま。

 さっきから抜け出そうとしても、《絶対強者》を使ってなお、はじき返すことも受け流すこともできない……っ。


 《必中魔弾》――ヒッチュウマダン――


「く……っ」


 この状態でその異能力はマズい……っ!


 《武御雷神》――タケミカヅチ――


 《難攻不落》――ナンコウフラク――


 白き雷は黒きバリアに相殺され、黒き弾丸は私ではなく――――っ!?

「じゃあな、シスターとやら。お前にはもう飽きた! 死ね、さくっとな」

 やられた!

 《必中魔弾》を私に撃つと見せかけて、シスターに撃ったのかこいつ!

「――――ああっ!」

 シスターの腹部が赤く小さく破裂し、地面に内蔵がぶちまけられる。

 ……出し惜しみはできない。

 全て出し切るしかない。ここで!


 《曼殊沙華》――マンジュシャゲ――


「!?」

 ゼロの鼻と目から血が流れる。

 焦ったようにゼロがうろたえ、目の焦点が淡くなる。

 ここで叩く!

 この瞬間に剣を受け流し私はゼロの間合いに入る。

 突然の毒素攻撃。この隙は致命傷!


 ――――殺す!


 ――――ここで殺す!


 《覇王領域》――ハオウリョウイキ――


 突如、凄まじい重力に潰されそうになり、肺から圧迫されると同時。

 右腕が下方に折れる。《絶対強者》で強化してなお、腕が折れて……っ。

 激痛に唇を噛み、耐える。


「――――ッ!」

「……」

 ゼロと目が合う。

 ゼロは苦し気だがニヤリと唇を歪めていた。

 この能力、間違いない。重力操作。

 そして、なぜか“反射”できない。

 だが射程範囲が狭い。せいぜい半径2メートルといったところ。完全に防御用に特化した切り札! でも……かろうじてまだ動ける!

 私は決死の殺意で踏み込み、左手にジェネシスを集める。

 シュウウウウ……。

 静かに音を立て、左手の金のレイピアに血液とマゼンタジェネシスが収斂し、“燃え”る。ジェネシス発火現象については仮説しかなかったが、このタイミングでキマるとはね。


(赤染アンリ……っ。こいつには回避能力もある……。分裂して間合いを取られる前に……っ! 私が、こいつを足止めする――――ッ!)


 《武御雷神》――タケミカヅチ――


 死んだと思われたシスターだが、凄まじい程の精神力で意識を保ち、アルファちゃんに交代して再生する時間すら惜しみ必殺の一撃を空からゼロへ降らせた。


「――――ッ!?」


 本気で焦ったのか、シスターちゃんを殺したと思い込んでいたのか、重力操作の能力《覇王領域》が解除される。その瞬間、血液を収斂させた左の金のレイピアで心臓目掛けて一突き――――


 勢いよく左足が滑り、視界が落ちていく。

「なっ!?」

 地面には私がバラまいた血液。自分の血ですっ転んだというの!?

 あり得ない失態!! この好機をこんなドジで逃すなんて――――っ!?

「“運”が悪かったな」

 ゼロがせせら笑いながら能力を発動する。


 《百鬼夜行》――ヒャッキヤコウ――


 ゼロが百の人魂に分裂し、私から距離を取ろうとする。


 ――――諦めない。


 全て使い切っていい。ここで殺す!!


 落ちろ、《朱色満月》!


 赤い血液の塊を、空から地面へ落とす。

 ヒコ助戦は私にとって大いなる糧となり、私をどこまでも残酷に強くした。

 ヒコ助にとどめとして使った“天井落とし”を改良し、更に《曼殊沙華》で毒素を混ぜ、確実なる殺意へと私はジェネシスを更に上のステージへと昇華させた。

 全ては確実に、敵を葬る為に。

 百に分裂した人魂は全て《朱色満月》に吸収され、その瞬間に能力を発動。


 《煉獄愛巣》――レンゴクアイス――


 《曼殊沙華》――マンジュシャゲ――


 あらかじめ《曼殊沙華》を常時発動し、《朱色満月》には毒素を貯め込んである。溺れさせることができれば、殺せる!


(……凄まじい“強さ”だな。単純なジェネシスの強さとも違う。……何なんだ。お前らのその執念じみた強さは一体どこから来る? これがお前らの言う“強さ”なのか? 惜しいな……。チートは使わないと言ったが、ここまで追い詰められたら仕方ない。お前らの得体のしれない強さに敬意を払い、この能力で葬ってやる。運に“14の開き”があるお前では、絶対に耐えられない一撃だ。じゃあな)

 ゼロのチャネリングの声は、憐れみと敬意と死刑宣告の全てが私へと込められていた。


 《乾坤一擲》――ケンコンイッテキ――


「――――させない」


 “セリカ”の声が響き、空の色が変わる。


 《白夜月光》――ビャクヤゲッコウ――


 全てを照らす白。

 白き満月が私の赤い満月の更に上空で具現化するのを見届けて、私の意識は消し飛んだ。


ーーーー能力メモーーーー

能力名:白夜月光ビャクヤゲッコウ

所有者:白雪セリカ

効果:相手が何らかの異能力を使う時だけに使える限定的な力で、相手が使ってこないことには分からない。「相手の100の力を無理やり50に抑えるみたいなイメージ」と過去に白雪セリカが発言。

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