第2話 インモラル・エクスタシス①
「さて、お待たせ致しました。ジェネシス付与式はこれにて終了です。これから、24時間カウントを始めますが、その前に補足ルールを説明します」
透がにこやかに言い、場のざわめきが止まる。
「生首を持ってきて頂く場所ですが、プールとします。死体ごと運んで頂いても構いませんが、生首の方が運びやすくて良いのでオススメです。生首一つの持参につき、殺人回数を一回とルール上カウントし、百万円を進呈しましょう。進学や貯蓄、遊興費や交際費、なんでも自由に使って頂いて構いません。これぐらいのインセンティブがあると、モチベーションも上がるでしょう?」
人を殺し、殺した人数に応じて金をもらう。
外道の極みだ。人間を辞めたヤツにしかできない発想。
「歴史の教科書に書かれている英雄なども、殺した人数に応じてお金をもらい、女を侍らし抱いていました。そんなものです、人間というものは。いい加減に、くだらない幻想は捨てなさい。人間とは、崇高な知性を持つ高度な生命体、などでは決してなく、獣欲に塗れた生存欲求と権力の奴隷なのだと、気付きなさい。これは、気付きのチャンスですよ」
「ふっ、凄いな透さんは。よくもここまで弁が立つよ。ふわふわっとしてると、いつの間にか洗脳されて奴隷になってそう。怖いなぁ」
リリーがそう言いながらケラケラ笑っていると、花子につま先を踏まれる。
「いった~~っ。何すんのよ花子ちゃん」
「茶化さないで、よく見ておきなさい。透がこれからしようとしていることを。殺人カリキュラムを。アンタにも、透と似た才能があるんだから。人間の心を作り替える才能が」
「殺人カリキュラム、ね……。何人、“こっち側”に来られるかな?」
《赤い羊》の連中の会話はここまでは聞こえないが、どうせロクでもないやり取りをしているのだろうと察しはつく。
ちらりと赤染の方を観察すると、立ちながら目を閉じていた。あらゆる五感を排除し、思考のみに極限まで集中力を研ぎ澄ませているのだろう。こいつの、本気で何かをする時のクセだ。三回、見たことがある。
一度目は、合唱コンクールのとき。発表前日に、ピアノの伴奏者がインフルエンザにかかり絶望的な状況になった時、赤染はたった一日で楽譜を頭と手に叩き込み、本当の伴奏者より完璧に伴奏を務めた。発表会の直前、舞台裏であいつはああやって目を閉じていた。
二度目は、体育の時間、生徒全員の財布が盗まれた時。あの時赤染は目を閉じ、そのあと教師に進言して、赤染が個人面談を全員と開き、問題を解決した。犯人は未だに赤染の口から語られたことはない。赤染の自作自演説も一瞬流れたが、赤染の家は財閥で、ヤツ自身が令嬢だ。動機がないこととアイツの人柄の良さから、その可能性は必然的に潰された。
三度目は、生徒が飛び降り自殺をしようとした時だ。屋上から飛び降りようとしていた。受験ノイローゼと、失恋が原因で死のうとしていた女生徒の先輩を、赤染は顔見知りでもないのに説得してみせた。生徒会長なんとかしてくれ、という周囲のプレッシャーの中、説得の直前、赤染はああして目を閉じていた。
――――完璧。
それを体現した少女。アイツはこの危機をどのようにして切り抜けるつもりなのか。
俺も当事者だというのに、赤染が取るであろうこれからの行動に期待せずにはいられない。




